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287 座敷わらしは変幻について考える

木魂魔(コダマ)を見つけたとして、どうやって捕獲するか童は考えているんですか?」


 縄や綱といった道具類は邪魔なるので持っていない。


「何かに変幻してから拘束するつもりなのだが、相手は大木だからな、ニシキヘビの姿で巻き付いたらいいのではないかと思っている」

「にゃるほど、それにゃら逃げられませんよねぇ? 反撃されたとしても童なら大丈夫そうですし」


 問題があるとすれば、万が一その状態を他の冒険者に見られた時だ。大蛇である私は獲物として攻撃されるだろう。蛇は捨てるところがないそうなので冒険者が見逃すはずもなく、そうなると木魂魔も横取りされる可能性がある。


「実はもうひとつ候補があるのだが……」

「それはにゃんですか?」

「白布だ」

「白布? ってあの自称預言者であるブラン・アム―リンさんの前世の妖怪?」

「そうだ。今まで私は妖に変幻することをしたことがなかった。なんとなく、それはしたらいけないような気がしたからなのだが、別に禁忌なわけでもない。だから白布になって木魂魔をぐるぐる巻きにしたらどうかと思ってな」

「その方法は悪くにゃいと思いますが、そもそも童は白布を見たことがあるんですか? かなりレアな妖怪だったのでは?」

「ない。だが白布ってようは一反木綿と同じ妖怪だろう? だからイメージはできる」

「じゃあ、とりあえず試してみたらどうですか?」

「そうだな。では」


 私は妖怪図鑑で見たことがある、布の妖怪を頭に浮かべて変幻をしてみた。しかし……。


「にゃんというか……我には洗濯物が落ちているようにしか見えにゃいんですが」

「ううう……」


 白布になってはみたものの、私には飛行能力がないようで、移動しようとしたら地面を這いずることしかできなかった。


 例えば大妖に変幻して、その能力もまるまる真似ができたとしたら、座敷わらしが妖の世界で頂点に君臨することもできてしまう。

 エウリュアレ様に化けたら同等になれるか。そう考えればおのずとその答えは出る。

 絶対に無理だろう。


「飛べなくても巻き付くだけにゃらできそうですけどねぇ」

「しかしこれなら大蛇のほうが早く動ける」

「でしたら、できるだけ目立たにゃい色のウロコを選ぶしかにゃいですねぇ」

「アナコンダだな」

「黒っぽいアニャコンダですかね」


 そんな話をして声が漏れていたからだろうか、警戒されているのか木魂魔はいつまでたっても姿を現さない。


「本当にいるのか怪しくなってきたな」

「ここは木魂魔の保護区にもにゃっているそうですから絶対にいるはずですけどねぇ」

「とりあえず、黙って探すか」

「はい」


 その後、大木が立ち並んでいる場所を求め、私はネコと山の奥へと進むことにした。


 歩き始めてすでに何時間もたっていた。日が傾き周辺が薄暗くなってきたところに、状況が変わってきた。


 これから天気が悪くなるのか、風が強くなってきてザワザワと木々が揺れている。

 大雨が降る山の中はかなり面倒だ。いったん諦めたほうがいいかもしれない。ネコにそう伝えようとした時だった。


「にゃ!?」

「どうしたネコ?」

「いました。右斜め前に木がひとりで歩いています」


 どうやら風によって揺れる樹木の中に混ざることで、自分たちの存在がわかりにくくなることを知っているようだ。

 擬態をやめてやっと動き始めたらしい。


「やったな」


 その姿は幹が太くて寸胴。でも木そのもので、幹に目や口があるわけでもなく、歩いてなければ植物と見分けがつかない。木魂魔の形は養分によって育ち方がまちまちらしいので細いものもいるし、葉や枝の付き方も一本ごと違う。

 だから私たちは見失わないうちに急いで木魂魔に近づいた。


「ああ、でもこれは……」


 その距離五メートルというところまで行ってから、出会った木魂魔のサイズが倒してはいけない大きさであることに気がついた。


 やっと見つけたというのにがっかりだよ。まったく。


 この山は希少種である木魂魔の保護区になっていて、絶滅させないためにある程度育ったものしか狩ってはいけないことになっている。

 三メートル以下の若木をセンターに持ち込んだりしたら報酬どころか逆に高額な罰金を払うことになってしまう。


「でも、この高さならギリギリOKそうにゃ気もしますけど」

「どうする? 一応捕まえておいて人狼に確認してもらったほうがいいと思うか?」

「他に見つかりませんし、逃がしてしまうのはもったいにゃいかと」

「そうだな。私がしっかりと押さえつけておくから、ネコはここにみんなを連れて来てくれ」


 木魂魔は足である根の部分と、腕である枝の部分をすべて切り落とすことで動かなくなる。

 しかし今回はみんなで経験値を分け合うために探していたのだ。やっと見つけた得物を私がひとりで倒してしまうわけにはいかない。


「まずは童だけで本当に捕まえることができるか試してみてくださいよぅ」

「おう、まかせておけ」


 私は妖精化したまま木魂魔に近づいてアナコンダに変幻する。それからその幹に巻き付いてから姿を現し、根っこや枝の部分を巻き込むようにして全体を締め付けた。

普通の木と違って、可動部は動物の関節と同じようになっているのか柔軟性があるのでぐるぐるしやすい。


 突然現れた大蛇に木魂魔が驚いて暴れようとしたのだが、根元をがっちりと締め付けているので、歩くことができない。バランスを崩した木魂魔は、周りにあった植物の樹木をなぎ倒しながらそのまま横倒しになった。


「大丈夫そうですかぁ?」


 ネコが心配そうに私の頭の部分を覗き込んできた。木魂魔が逃れようと根の部分をバタバタさせるが、動ける範囲が小さいため立ち上がることはできない。


「問題なさそうだ。私がこのまま捕まえておく」

「わかりました。皆さんがいらっしゃるのは日が昇ってからににゃると思いますが、それまで頑張ってくださいねぇ」


 そう言ってからネコは山の中に消えていった。


 尚も木魂魔は必死に手足である根と枝を動かして抵抗を続けている。絶対に逃がすものか。


 木魂魔も命がかかっているからか、簡単に脱出できないことがわかると、今度は根っこと枝の先を少しだけ動かし私のウロコにぶすぶすと突き刺し始めた。

 アナコンダの皮もそこそこ硬いはずなのだが、魔物だけあって、鋼鉄の金串に匹敵するほどの強さをほこるようで簡単に胴体を貫いていく。


 通常ならそれで養分として吸い尽くせるのだろうが、私からは何も吸収はできないはず。


 普通の動物への攻撃ができないことを木魂魔が悟ると今度は頭を狙ってバシバシと叩き始めた。

 痛いわけではないのだが、銀杏のようなちょっと臭い葉のついた枝が顔に何度も当たって鬱陶しいことこの上ない。


 座敷わらしとして暮らしていたころに頭を叩かれるなんてことは一度もなかった。


「おのれ、動く木ごときが」


 たとえ現在はアナコンダの姿をしていたとしても、この状況には滅茶苦茶腹が立つ。

 それがこの状況を作った私の逆恨みだったとしてもだ。

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