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281 座敷わらしは寝具として活躍したい

「くっそー。二十二対十九でトーヤ兄ちゃんの勝ちだ。俺は命中率をあげるために、もっと練習しないとな」

「レニーは魔力を抑えていたんだよね? 威力を増していたらきっと全部当たっていたと思うよ。翡翠剣を使い始めたばかりなのにすごいよ」


 現在の十也の腕前は、数メートルほどの位置を狙うなら百発百中。一方、剣士小僧はといえば、遠い位置に並んでいたスライムになると、核に魔法が命中せず破壊することができなかった。


 しかし十也の言う通り、かなり魔力を絞っていたようなので、この勝負はほぼ互角だろう。


 ふたりの勝負がついたことを確認してから、そろそろ寝ましょう、と人狼が声をかけた。

 明日も出口に向かって歩かなければならないのだから、体調は万全にしておくべきだ。


「では、私が変幻して布団代わりになるのでお主たちは休んでくれ。ヒナは十也の頭に移動しろ」


 ぴっ


 そのあと私は姿を変えたのだが……。


「え? ちょっと、お楽? 前みたいに羊になるんじゃなかったの?」

「そうですよ。どうしてそんな姿になっているんですか?」


 私の姿を見て、みんなが動揺している。


 何故、この姿を選んだのか。それを説明しようと思っても、現在の私には口がないから話せなかった。そのため一度もとに戻ることにした。


「羊では、いくら大型になったとしても、六人の身体をまとめて面倒みるのはさすがに狭すぎるだろう」


 現在の仲間は私を除いて人間が六人とネコとヒナ。


「だからってなんでスライムなんだよ」


 さきほど私が変幻してみせたのは、ここへきて嫌というほど見慣れた魔物、スライムの姿である。その大きさは、鍾乳洞で見た大型を模範しているので六畳ほどだ。


「それはマットレスによさそうだとわかったからだ。姿かたちを真似ているだけで、酸をまとってはいないから怪我をすることもないし、十也たちを包み込んだり取り込んだりもせんので安心しろ」

「それって僕たちにスライムになったお楽の上で寝ろってことだよね?」

「ああ、一番寝具としてはすぐれていそうだからな」

「それは少し抵抗があるんですが」

「そうですね」


 ニホ様や人狼までもが私を下敷きにすることに難色を示す。


「スライムに変幻してみてわかったのだが、すべての機能が核の部分に集中しているので、ゼリー状の部分には痛覚がない。六人で乗られても、私はまったく問題がないぞ」

「そう言われても」

「羊の時だって背もたれにして、身体をあずけていただろう。それと同じことだ。それでも気になるなら、核の上だけは避けてくれたらいい。こんな場所で遠慮などするな。私の気持ちを無駄にしないでくれ」


 それだけ言うと、私はもう一度スライムの姿に変幻して、その場に広がった。


「ええー、チャムはもふもふがいい!」


 羊毛が大好きなチャムはがっかりしているようだが、全員が快適に眠るためにはスライムマットが最適なのだ。

 スライムになった私をしばらくみんなで見下ろしていたが、最終的には十也が


「ここまで言うんだから、今回はお楽の言葉に甘えよう。ねえみんな」


 そう言ってから率先して私の上にそっと座った。


「悪いなオラク姉ちゃん」

「お楽さん、よろしくお願いします」

「すみません」


 結局、猫姉妹以外はみんなが私の上で眠ることにしたようだ。


「ティナさんたちはスライムに忌避感があるかもしれませんけど、ほら、直接さわっても大丈夫ですよ」

「気になるようでしたら、外套を敷けばいいですしね」

「ああ、そうだな。チャム、僕たちも使わせてもらおう」

「チャムは……」

「僕にくっついて眠ればいい。な?」

「う、うん……」


 そう決まってから、レニーが光魔法を消し、ニホ様は互いの影が見えるほどくらいに出力を小さくして就寝することになった。


 ところが……。


「誰か来る!」

「冒険者か?」


 みんなが寝転がってしばらくすると、ティナと人狼がばっと起き上がり、武器を手にする。


 ここに来るまでにも、数組のパーティーとはすれ違っていたのだが、牛獣人のようなこともあるので、警戒はしていた方がいい。


 何物かの気配がするという方向を見つめていると、やがて小さな光が現れる。あれは冒険者が明かりとして使っている光魔法か、松明だろう。


「ニホさん、周りが見えるように明るくしてもらっていいですか?」

「はい」


 ここに我々がいることを示すように、人狼から頼まれたニホ様が光の出力をあげる。それは周辺を照らすためと同時に、こちらに上級の魔法使いがいることを知らしめる意味もあるらしい。

 子どもばかりだと、侮られないためだと思う。


「あれー、先客がいるみたい」

「もしかして寝てた? 邪魔をしちゃったかな?」

「すまんが俺たちもここを使わせてくれ」


 こちらの存在に気がついた冒険者たちが謝りながらやってきた。

 そのパーティーは全部で四人。全員が二十代くらいに見える。装備もいたって普通で、今のところ不審なところは何もない。


「私たちは明日の朝早くに出発するためもう休むので、そちらは離れた場所でお願いします」

「ああ、そうする。悪かったな」

「ごめんね」


 人狼と言葉を交わしてからその四人は、この休憩場所の中で私たちから一番離れた場所まで行ってから荷物を下ろした。その距離は二十メートルほど。

 気を使っているようで、会話も声を落としボソボソと喋っている。


「これからは我が見張り番をするので、みにゃさんはゆっくりお休みください」

「ありがとう、ネコちゃん」

「それから、童が羊じゃにゃくてスライムで良かっただろうと、言ってます」


 スライムでいると口がきけないので、ネコに代弁を頼んだ。


「たしかにね」


 薄暗いとはいえ、巨大な羊を枕にしていたら目立ってしまうが、これだけの距離があれば平べったいスライムなら気づかれることはないと思う。

 冒険者が現れることまで考えてはいなかったのだが、今回の変幻は、スライムを選んで大正解だった。


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