251 座敷わらしは一息つく
「十也たちの今後の予定はどうなっている?」
「三日後に魔道具の試作品を見に来てほしいってドワーフのおじさんに言われているから、それまではまたアーサニクスの情報収集だね」
私たちはひと部屋に集まり、市場でテイクアウトしてきたジュースを片手に、ニホ様が作ったカニジャーキーをかじりながら明日からの行動を決めている。
ロッ子からもらったカニは、野営用のかまどを借りて、足を数本焼いてからみんなで食べた。取れたてで新鮮だし、味も好評。みんな満足していた。
食べ残った分はニホ様が魔法で乾燥させてある。カニジャーキーは、そのまま食べてもよし、出汁や料理にも使えるそうだ。甲羅は潰れているが、センターで買い取ってもらえそうなのでそのうち持っていく。
あとは明日の予定を決めるだけ。怒涛の一日を終えて、私はやっと一息つくことができた。
「なかなか足取りがつかめないな」
「本当だったら、アーサニクス、フェルミちゃん、イヴァンさん、それとノンの四人で行動しているところを二人っきりになっちゃったからね。予定がどんどん狂っているのかも」
小説で訪れた場所に向かわないことも十分あり得る。王都にいなければ、ここからどこに行ったのか、その答え合わせもしておきたい。
人狼と剣士小僧は、匂いと姿を頼りにアーサニクスを探してくれるというので、分かれて捜索することにしている。
こっちは手伝ってくれるという猫姉妹も入れれば六人。それにそういったことが得意なネコもいる。
全員で同じ場所に向かうのも時間の無駄になると思うので、また二手に分かれたほうがいいとは思う。
しかし、その組み合わせが問題だ。
「アーサーと似たような人物を探せばいいのだろう? ボクはチャムと二人で街を回ってもいいぞ」
「大丈夫なのか?」
そう言いながら私はちらっとチャムのほうを見る。
「馬車の中にいるのも飽きてきた。チャムにはちゃんと言い聞かせるし、ボクが目を離さずにいればいいことだからな」
「ティナさんたちの身体能力を考えたら、僕はついていけそうにないしそのほうが効率はいいのかも」
塀があったとしても、猫姉妹だけなら簡単に飛び越えられるからな。
「私もティナさんの提案に賛成です。見つけたら、どこに泊まっているか確認してもらって、アーサニクスさんにはあとで私たちが接触すればいいでしょうから」
「そうだな。おまえたち黒髪三人組はどこぞの金持ちの子どもだと思われて、悪いやつらに狙われる可能性が高いから、俺が一緒にいるほうがいいと思う」
「金持ちの子ども?」
十也が不思議そうに聞き返す。
「見た目と言葉としぐさだ」
見た目は冒険者だ。敬語で話し、しぐさは対応が丁寧だからか。
「王都みたいな大きな都市には、お忍び貴族も、金持ちもたくさんいるからな。子どもが不相応な恰好をしていたら、金を持っているっていう目印になるだろ」
「なるほど。しかし、装備が高級ならそれだけ上位のランクだとわかるはず。見た目だけで侮って強い相手に手出しをする者がいるということか」
「もし本当に高ランクだとしても、王都をきょろきょろ見て回っているおのぼり連中はわかりやすい。ここで悪事を働いている者のほうに地の利がある分、窃盗、詐欺、恐喝、いろんな方法を巧みに使ってくると思っておいたほうがいいぞ」
「だったら、装備をはずして町の子どもみたいにしたらどうかな?」
「物理的な安全面が落ちるし、見た目で判断されて、誰も相手にしてくれなくなるぜ」
店に貧相な恰好でいったら、店員の対応が他の客とは違う。最悪追い出されるというようなことが王都全体で起きているらしい。
「でしたら、冒険者カードを見せて、CランクやDランクだとわかってもらえばいいのではないですか?」
「それが逆に、ランクがそこそこなのに偽装していたらプライドはないのかって話になるし、もともと金を使ってないとなるとケチだって蔑まれるな」
リーニアの町の鍛冶屋にもそんなことを言われたような気がする。
ここは物語の中だけあって、華々しさが重要視されているのだろう。登場人物がみんな麻の上下ばかり着ていたらキャラクターに個性が出せないし、イラストも地味すぎる。
そのためか、まったく同じ、瓜二つといった装備をしている者は今まで見たことがない。だから、アーサーとアーサニクスも似てはいるようだが、そっくりではないのだ。
「なんかいろいろと面倒なんだね」
「だから、俺が一緒にいたほうがいいってことだ。オラクはともかく、ニホがしっかりしているから今日はうっかり二人だけで行動させちまったけど、問題が起きたしな」
「私だけのせいではないと思うのだが」
「そうだとしても、何が起きるかわからないからこそだ。いざとなったら俺が力ずくでどうにかする」
Bランクだからなといってアーサーが笑った。
話し合いの結果、明日から人狼組、猫姉妹組とリーニアの町から一緒だった組が分かれてアーサニクスを探すことになった。
「で、オラクは人魚に会ったんだよね? あとマーマンも。うらやましいな」
「ああ。メーに助けてもらった」
「いいな。人魚と一緒に海を泳いだんでしょ。僕も会いたかったよ」
言うと思った。
でもあれは泳いだのではなく引きずられただけだ。
「アーサニクスが海のほうに向かっていたらいいのにな」
「海に行ったからといって会えるとは限らないぞ。普段人魚は沖にいるからな」
「そうなの?」
「冒険者の登録はしているようだから、海辺のセンターで張っていればやってくることもあるかもしれないがいつになることやら」
「俺も今まで会ったことはないな」
うらやましいを連呼する十也。
「人魚姫ってな、実は魚の尾っぽが人間の足に変わったわけではないそうだ。この辺から人間の足が生えるので歩きにくいとメーが言っていた」
私が自分の太もものあたりをさすりながら教えた。
「は!?」
「だから、魚の尾びれは消えないと言っているのだ。ドレスのスカートで隠れていたからわからなかっただけであってな」
「え、うそ? なんかちょっと頭が混乱してるんだけど」
想像したとき私もそうなった。
「なんか……知らなければよかったかも……」
真実を教えたせいで十也の憧れを壊してしまったらしい。この先、知るチャンスもなかったかもしれないので言わなければよかったか? すまん……。




