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23 座敷わらしの名前

「お節介だとは思うんだけど、このままでは意味がないから言うけどね。君が名乗っている『オラク』は男の名前だから男のふりをしたいんだよな? 見た目をどうにかしないと女の子だってわかっちゃうと思うんだ」


 隣で十也が勝ち誇ったような顔をしているが反論させてもらうぞ。


「男だから」

「え?」

「これでも本当に男だから、証拠を見せてもいいぞ」


 私は服の裾に手を掛けた。


「いやいや、見せなくてもいいから。ごめん、本当にごめんな。てっきりオラクは女の子だと思って。髪が長いからそう見えちゃうのかな」

「髪は事情があって切れん」

「あー本当にお節介だったね。申し訳ない」

「別に私は気にはしていないから謝らなくていいぞ。そう見えると言うなら自覚はしておくが」

「じゃあ、オラクとトーヤはどっちがお兄ちゃん?」

「いや、同じ髪と目の色だが私たちは赤の他人だ」

「重ね重ね勘違いしててごめんよ」


 さっきから善良青年のがお楽と呼ぶたびに違和感がある。発音が私たちとは違うのだ。私はもともと『おやつ』と同じ発音で『お楽』と呼ばれていた。ところが善良青年は『苦楽』とか『科学』とかの発音で『オラク』と呼ぶのだ。たぶんこの世界ではそれが正解なのだろうから訂正はしないが、聞きなれていないので不思議な感じがする。


「ところで、英雄はどこだ」

「え? 何? 英雄?」

「すまん。なんでもない」


 ここでわかれば、これから楽だったんだがそう簡単にはいかなかった。


「そう言えば君たちは武器を持ってないし、魔法も使えないんだよな? ギルドの依頼を受けるにしても森や山の中はどこに魔物が潜んでいるかわからないから危険だよ。身を守るすべはあるのかい。本当に何も知らないみたいだから心配だよ。君たちが嫌でなければ当分俺と一緒にいた方がいいと思うんだけど」 


 センターで私たちを見かけたらしいが、担当眼鏡と一緒にいたので声をかけなかったそうだ。いま私たちと話をしてみた感じ、このままではとても危なそうなので提案してくれたらしい。確かに私たちはこの世界を知らなすぎるからな。ありがたい話なので快諾した。


 なぜか十也は私の袖を引っ張ってばかりいるが、話には入ってこないのであえて放ってある。


「今日冒険者になったばかりなのか。それなら明日、センターに行って依頼の受け方とか、現場に同行して教えてあげるよ。今日は泊るところはあるのかい」

「それは大丈夫だ」

「じゃあ、明日の朝センターでいいかな」

「ああ、また明日頼む……あ、時間は鐘の音が目安でいいのか?」


 私たちは時計を持っていない。待ち合わせをしたところで時間を知るすべがない。


「そうだよ。鐘の音が一番正確なんだけど、町の外だと分からないから、時刻板を使っている……時間のことを聞くってことは持ってないよな?」

「時刻板とは何だ」

「これのことなんだけど」


 そう言いながら善良青年が、首から紐でぶら下げていた二センチ角の薄い板を私たちに見せた。そこには数字の11が書かれている。


「これは一時間ごと、1から12まで順番に数字が変わる魔道具だよ。本当は時間通りの数字に合わせた方がわかりやすいんだけど、魔道具屋に行かなきゃいけないから、面倒で直さずに使っている。俺のは六時間ずれていて、今はだいたい五時ってことだよ」


 この時刻板というものでは大まかな時間しか分からないが、元の世界のように分刻みで生活するような世界ではないので問題ないようだ。

 町の鐘は三十分ごとに鳴らしているそうなので、待ち合わせの時はそっちを目安にするらしい。

 この時刻板は魔力の注入が必要で、忘れると数字を刻まなくなってしまうそうだ。途切れた状態で魔力を注入すると数字の1から始まる。ラトレルさんの時刻板が六時間ずれているのは切らしてしまったことがあるということだな。


「それはどこに売っている。高いのか?」

「魔道具屋だよ。これは一時間板だけど、二時間板とか四時間板とか種類があって、刻む時間が長くなるほど安くなるから、物によったらそんなに高価じゃない物もある。冒険者には必需品だし、魔道具屋の弟子が一番最初に制作するって言われるくらいだからね。これから見に行くかい?」


 欲しくても、そんなものを買う余裕が私たちにはない。それに魔力が必要だったら私たちに使える物かも怪しい。


「今日はやめておく」

「そうか、宿屋の受付にもあるから、それを参考にするといいよ。もっと大きいサイズで、時間が合ってるものが置いてあるはずだからね」

「そうする。今日は世話になった。明日の朝は八時ころにセンター集合でいいのか」

「そのまま出かけるから、そのつもりで準備してきて」

「とりあえず冒険者カードがあればいいだろう。ではな」

「……ありがとうございました」

「また明日な」


 明日センターで落ち合うことにして、今日は青獅子荘へと戻ることにした。善良青年も宿暮らしだ。冒険者は拠点を移動することもあるので自宅を持たない者が多いと言っていた。


 手元の金では雑魚寝ですら宿泊が厳しい状況になっている。一人分はあっても十也は何故かわからないが一人では泊まらないと言うので、明日はなんとしても大銅貨四枚は稼がなければならない。

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