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229 座敷わらし、市場に行く

 冒険者カードを再発行するため、朝一番に中央センターまでニホ様と一緒にやって来た。


「再発行をご希望されているということは、冒険者としてご登録があるということですね」

「そうだ」

「確認いたしますので少々お待ちください」


 まずは、初めて作った時のように、まっさらな冒険者カードに名前『ラク』と年齢『13』を書き込み魔力を送った。それで照合ができるらしい。三分ほどで確認を済ませた受付担当がカウンターに戻ってきた。


「ご登録はございましたが、ラクさんは当センターをご利用いただいたことがございませんので、新しいカードには現時点での魔力を読み取ったランク付けと管理番号しか記録されません。そのため、今までの経歴はセンターで把握することができませんので予めご承知おきください」


 私が持ち込んだ魔物で目を引くのものは、魔鹿(マジカ)岩鳥(ロックチョウ)の卵くらいだろう。


「今までの経歴が必要な場合は、最後に冒険者カードを提出していただいた町のセンターでデータの上書きの依頼をお願いします」


「経歴がないと何か不都合があるのか?」

「どのような仕事を受けてきたのかによって、信用度があがります。特に指名依頼などは重要視されております」

「だったら問題ない」


 信用度が上がったとしても、狩場がない王都では何の役にも立たない。だいいち、私は殺生を控えているので、下手に指名依頼など入る方が困る。だから経歴などどうでもよかった。


「それでは、こちらが新しい冒険者カードとなります」

「手間をかけたな」


 再発行してもらった冒険者カードは銀貨一枚と交換で受け取った。

 また紛失するとまずいので中央センターを出る前にニホ様に差し出す。


「とりあえず今は預かっておきますけど、万が一別行動になった時に困りますから何かいい方法を考えた方がいいでしょうね」

「ああ」


 仲間も増えたので、私一人で獲物を持ち込むことはなくなっている。パーティーを組んでから、冒険者カードを提出する機会が減っているので、いっそのことなくても構わないかなと思うものの、身分証明が必要な場所もあるし、私の口座に入っている金が引き出せなくなってしまう。


「自分でなくす可能性はあると思っていたが、まさか盗まれて再発行することになるとはな」

「王都の治安はあまりよくなさそうですから、これからは気をつけた方がいいでしょうね」

「再発行するたびに銀貨を一枚も払うのは馬鹿馬鹿しいしな」

「では、気を引き締めて行きましょうか」


 そう言いながらニホ様は入り口に向かって歩き出した。


 用事が済んだから、これから食材を買うため市場に行く。グレープフルーツもどきのような今まで見たことがないような食材がありそうでわくわくしている。


 喜び勇んでニホ様の後を追ったのだが……。


「ねえ、ねえ、あなたたちって二人っきり?」

「お?」


 ドアを出る前に、突然十代後半くらいの娘に声を掛けられた。手に魔法使い用の杖を握っているので冒険者だろう。


「冒険者よね? 結構ランクが高いんじゃない?」


 ニホ様が身につけている装備はそこそこ高級品。私もそれなりの変幻をしているので、高報酬の依頼を受けられる能力があると判断したようだ。


「もしよかったら、あたしと一緒に依頼を受ける気はないかな。二人とも魔法使いでしょ? あたしもなの。ちなみにDランクよ」


 ニホ様が杖を持っているので、私も魔法使いだと思ったらしい。


「海で魔物狩りをするなら大勢の方がいいと思うのよね。船とか借りるのも割り勘で安くなるし。ねえ、どうかな?」


 私たちが二人で依頼を受けるなら経験者がいた方が有り難いが、まだ海に行く時間の余裕はない。


「せっかくのお誘いですけど、ごめんなさい。今日は仕事をするつもりはありませんし、私たちは二人だけではなく、他に仲間がいるんです。今は別行動していますけど」

「今は総勢八人になっているか」

「あ、そうなのね。残念。ごめんね引き留めちゃって」


 そう言うと娘はセンターの奥へと戻っていった。


「冒険者がひとりで、王都でやっていくのは大変だろうな」


 仲間が欲しいのはわかる。


「彼女はひとりではないみたいですよ。ほら」


 ニホ様の視線の先には、二人の少年と仲良さげに話をしているあの娘の姿が。

 男たちは剣とつるはしみたいなものを手にしているから、前衛二人、魔法使い一人のパーティーか。


「水の中の魔物を狙うために、遠距離攻撃ができる魔法使いを誘いたかったんでしょうね」

「誰ともわからないような我々を仲間に誘うデメリットは考えてないのだろうか」

「どうでしょう。誘いに乗らなければこちらの能力を知るすべはありませんし、とりあえず声を掛けてみたんだと思いますよ」


 なるほど。


「あいつらはパーティーで何を狩るつもりだったのだろう。今後のために話を聞いておけばよかったな」

「それについては、海に行くことになってからですね。私たちのパーティーで何が捕まえやすいか受付で聞いた方が確実だと思いますよ」

「それはそうだな」


 うちには高ランクのアーサーと人狼とティナがいるから、あのDランクパーティーとは出来ることが違うだろう。それに海に行く時間があるかもわからない。


 話ながら外に出て、そこで待っていたネコと合流してから私たちは大きな市場があるという町の南側に向かった。


「それ、ティナさんが欲しがっていましたよね」


 ネコが言っているのは私の左手にあるガントレットのことだ。


「今度ドワーフの工房に行ったら、ついでに、そこで作ってもらえるか聞いてみたらいいかもしれませんね」


 私たちはまだ子ども扱いされる年齢だ。

 今日は保護者のアーサーがいない状態で王都内を歩くため、犯罪者のカモにされないための抑止力と威嚇で外套を短めにして前を開け、あえて武器を見せているのだ。

 武器的にはウォーハンマーの方がよかったのだが、買い物をしたあとに邪魔になってしまうので、中央センターを出たあと、左手をガントレットに変幻させて、目立つように周りに見せつけながら大通りを進んでいる。


「ドワーフだったらこのガントレットもちゃんとした武器として作成可能なんだろうな」


 しかし、時間が掛かるかもしれないから、今後の予定次第だ。


 ここでもしアーサニクスを見つけるか、居場所を突き止められたら、私たちはすぐに王都から出立する可能性がある。猫姉妹はそれに付き合う必要はないが、ガントレットが完成する間、二人だけで王都に残るだろうか? それは人狼次第でもあるのだろうが。


「ところで、今日の買い物は魔海月(マクラゲ)と卵の他に、珍しいものがあったら買ってもらえるのか?」


 果物とかお菓子とか甘いものとか。


「私に任せられていますから、お楽さんが食べたいものがあったら言ってください。検討します」

「わかった」


 人狼に聞いたお勧めの市場は、中央センターから王通りを南側に歩いて行けばすぐにわかるそうだ。

 色とりどりの天幕が連なっている一角で、東西南北のどの地区にも似たような場所はあるらしいが、食材なら南側が一番規模が大きいらしい。


「あそこですね」


 すぐに見つかった。

 市場の場所まで行って、私たちは通りの奥までざっと目を向ける。天幕の下には所狭しといろいろな物が置かれていて、初めて見るようなものも多い。


「端から見て行きましょうか」


 ニホ様の言葉に、私は何度も首を縦に振った。


 野菜に果物、加工肉や燻製、食べ物だけではなく雑貨屋や薬屋も出店している。見て歩くだけでも楽しい。


 ニホ様が野菜を吟味している最中に私はそこの店にあったトマトのようなものにくぎ付けになっていた。

 普通のトマトだけではなくサイズと色がいろいろそろっている。

 確かトマトは果物ではなく野菜で酸味が強く、苦手な子どももいるそうだ。しかし、この世界の野菜は味が異なることが多い。

 もしかしたら、すごく甘いかもしれない。あの真っ赤な色に心惹かれているのだが。


「お楽さん、食べてみたいんですか?」

「あ、いや、その……」


 買い物が終わったのか、ニホ様から声を掛けられた。


「でしたら、プチトマトを味見してみましょうか」

「いいのか?」

「はい。私も味を知っておきたいので」


 ニホ様がプチトマトを二つ購入して一つを私に渡してくれた。


 真っ赤に熟しているそれを親指と人差し指でつまんで口の中に放り込む。歯で果肉を押しつぶすと酸味のある甘い汁が口の中に広がった。これはこれで美味い。


「味はプチトマトそのものですね。きっと大きいサイズも普通のトマトと同じ味でしょう。サラダやサンドイッチの具材に使えますから三つほど買っていきましょうか」


 トマトで味をしめてしまったせいで、向こうの店にあるメロンぽいものやブルーベリーみたいなものも全部試食したくなった。

 しかし、そんなことをしていたら時間とお金が掛かってしまう。そう思いながらも目が離せないのでニホ様に笑われた。


「メロンもブルーベリーも買いますよ」

「本当に? きっとものすごく高いぞ?」

「予算内でやりくりしますから大丈夫ですよ。きっと樫くんも喜ぶと思いますし、それに王都でしか売ってないのなら、今買わないと後悔しそうですもの」


 今日の昼食は初めて食べるものづくしになりそうだ。

 王都付近は王族や貴族が購入するために高額な野菜でも取引が可能だ。そのおかげで魔術栽培が盛んで食の宝庫になったと言われているほど、いろいろなものがある。こうやって買い物をしていると、食べたことがなかったものをすべて食べつくすまで王都で暮らしたいと思ってしまう。


 その後も、加工食品や茶葉、香辛料などを観察しながらニホ様が必要なものを購入していった。


「魚は氷漬けで売っているんですね」


 魚屋の前で足を止めたニホ様。

 青魚や切り身が氷の中に閉じ込められて並べられている。天の川でも似たようなものを見たことがあった。


「これはどうやって取り出すんだ?」

「ほしい魚があれば言ってくれりゃあ、俺が取り出してやるぞ」

「こ主が? 魔法か?」

「いや、これで」


 魚屋が見せたのはノミだった。氷の中から削り出してくれるらしい。


「これは海から直行で仕入れたものだから捕れたてで美味いぞ。どうだ今晩のおかずに」

「すみません。今夜は宿で食事がでますので、また今度にします」

「そうかい」


 魚は保存がきかないので食べる日に買いたいそうだ。ニホ様の魚料理も楽しみだな。


 そんなことを考えていると、今私たちが話をしていた魚屋の前に人が集まってきた。ここは肉より魚の方が食べられているみたいだから、魚が売り切れない前に買いにくる人間が多いのだろう。と、思っていたら。


「私たちは南センターの監視員です」


 監視員? 

 何が始まったのかと好奇心で見ていると警察手帳みたいなものを魚屋に見せていた。ニホ様にこそっと聞いてみたが首を横に振ったので、監視員という職業のことは知らないらしい。


「販売物取り扱い違反であなたを連行します」

「ちょ、ちょっとまってくれよ。違反って俺には身に覚えがないんだが?」


 魚屋は二人の監視員に両側を挟まれてしまったので、逃げ場を失ってあたふたしている。


「ここに並んでいる魚の半数はセンターを通していませんよね。直取引は違法です。あなたには密猟の疑いもかかっていますので南センターで入手ルートや経緯を聞かせてもらいますよ」

「密猟? 嘘だろ? センターを介していない商品だって俺は知らなかったんだ。そ、そいつらが自分の店でさばけないからって持ち込んできたから買い取ってやっただけで、まさか違法なものだとは思わなかったんだ」


「え!?」

「何だと!?」


 魚屋がニホ様を指さしたせいで、南センターの監視員たちが一斉にこっちを向いた。


「君たちは冒険者ですか?」

「そうですけど」

「店主がああ言っているので話を聞かせてもらえませんか。申し訳ありませんが、これから一緒に南センターまでお願いします」


 スーツを着た男はお願いと低姿勢ではあっても、見つめている眼光は鋭い。


 なんか大変なことに巻き込まれてしまったようだ。


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