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201 座敷わらしと猫姉妹とガントレット

「ボクはティナだ。チャムのことはボクが面倒みる。出来るだけ迷惑はかけないようにするし、ボクたちのことは同行者程度に思ってくれればいいから、何かあっても気にしないでくれ」


 私たちが人相を知っておく必要があったため、姉猫は挨拶した際に、一瞬だけかぶり物を取って顔を見せた。


 明るい茶色のショートヘアに、同じ色の猫耳が頭部についていた。猫娘と違って顔は人間そのものだが、黄金色の瞳は瞳孔が長細く猫の目を彷彿させる。妹の方は目が大きく子猫みたいな顔つきだから、猫獣人といってもかなり差がある。


「俺はアーサーだ」

「赤い人?」

「じゃねえよ。その呼び方はやめろって」


「僕の名前は十也だよ」

「私のことはニホって呼んでください」

「私はお楽と呼ばれている」

「我は……ネコって呼ばれることが最近は多いですけど……好きにゃように呼んでもらっていいですよぅ」


 私たちもそれぞれ名前を伝えてから、再び馬車に乗り込むことにした。馬車の中で猫姉妹と話をしようとしたのだが。


「狭い場所は勘弁してほしい」

「猫なのに嫌なのか? そういうところは違いがあるのだな」

「いや、嫌いなわけではない」

「狭いとこ、落ち着くもん」

「では、どうしてですか?」

「悪いがまだそこまで……」

「俺たちのことを信用が出来ねえってことだな」

「……」

「じゃあ、見張りだいに乗ればいいんじゃない」


 姉猫のティナがまだ私たちを信じることができずに、馬車の室内に入ること拒んだ。そのため、御者台に座るアーサーと十也以外は見張り台に上がることになった。


「すまない。こちらから頼んでおきながら、こんな態度をとってしまって」

「いえ、ティナさんたちの立場でしたら、そのくらい慎重な方がいいと思います」

「もし、私たちが悪い奴だったりしたら、馬車に閉じ込めたまま誘拐出来てしまうからな」

「そう言ってもらえると助かる。そっちは、ボクたちのことを疑ってないのか?」

「ティナさんはともかく、チャムさんは嘘がつけるようには思えませんし、たとえ何か仕掛けてきたとしても、私たちは対抗できると思いますから」


 それだけの力があることは覚えておいてほしいとニホ様は念のため告げていた。


「ねえ、猫神様は、無敵なんだよね? お兄ちゃんたちが言ってたよ」

「好きにゃようにとは言いましたけど、その神様呼びだけはやめてください。我はただの猫妖精にゃんですから」

「ネコヨウセイ? 神様と違うの?」

「猫神様は、攻撃がまったく効かないと仲間から聞いている。魔法もな。そんな猫族はどこにもいない」

「それはそうにゃんですけど。でも、高位の妖精や妖に吸収されちゃえば消えちゃいますし、下っ端の我が神様にゃんて呼ばれていたら嗤われちゃうので困るんですよぅ」

「では、何と呼べばいい」

「ネコってのは、お二人も猫獣人ですし――そうですね、ミケでお願いします」

「ミケ様か。今後はそう呼ばせてもらう。チャムわかったな」

「うん」


 ネコは困っていながらも嬉しそうだ。


「お主たちは冒険者の登録はしてあるのか? 私たちと一緒に町に入るとなれば、身分証明書が必要なこともあるんだが」

「大丈夫だ。ふたりとも冒険者の登録は済んでいる。里の外で暮らすためには金が必要な時もあるからな」

「だったら問題ないな。ちなみにランクを聞いてもいいか?」


 何ランクかによって、どの程度の能力なのか察しがつくと思う。本当に放っておいて大丈夫かどうか、その目安にもなるだろう。


「ボクがAランクでチャムがCランクだ。ほら」

「Aランク!?」


 姉猫が差し出した冒険者カードを見ると、本当にAと書いてある。これなら私たちが心配する必要なんてまったくなかった。


「今、Aランクって聞こえたんだけど?」


 十也が御者台から大きな声を出す。


「ああ、姉猫の冒険者ランクがAランクだ。カードを確認したから嘘ではないぞ」

「うわぁ」

「Aランクって、それ本当かよ」


 アーサーと十也も驚いている。


「妹の方はCランクだそうだ」

「チャムもCランクなのかよ。すげえな、おい」

「ボクたちは子どもの頃から狩りをしているからだ。それにボクは人族とパーティーを組んで大物を獲物にしていたことがある」

「ランクが上がりやすい環境にいたってことか。で、何ができるか聞いてもいいか?」

「近距離攻撃だ」

「武器は? まさか自分の爪ってことはねえよな」


 大物といえば魔鹿(まじか)魔熊(まぐま)だ。いくら強くても猫の爪で太刀打ちできるとは思えない。


「普段はそうだけど、大物を狩る時は短剣を使って急所を狙う」


 爪を使う時もあるのか。


「それなら、お主はこれを武器として使えそうだな」


 私は久しぶりに左手をガントレットに変幻した。そして手を振って二人に見せる。


「な、なんだそれは?」

「大きな爪?」

「ガントレットだ、って、おい、ちょっと待て」

「ぴぴぴぴぴーっ」

「これは、腕からハズレんのだ」


 猫娘が腕を引っ張ったので、私はガントレットの部分を消した。


「う? どこにいった?」


 これから一緒に行動するのなら、二人には私の術のことも説明しておく必要があるな。毎回反応されたら面倒だ。とくに猫娘!

 そう言えば、さっきのゴリラのことはどう思っているのだろう。


「私は消えることも出来るし、生き物ならなんにでも変幻できるのだ。だから、そのつもりでいてくれ」

「変幻?」

「変身のことですよ。チャムさんのご主人様みたいなことが出来るんです。お楽さんの場合はそれより高度なこともですが」


 わかりにくいのか、ニホ様が説明している。


「こんなことも出来るぞ」


 私はヒナが乗っている頭のてっぺんに猫耳を生やしてみた。


「な? 君は猫獣人だったのか?」

「やろうと思えば猫娘のようにマズルの部分の変幻できるぞ」

「マズル?」

「ほれ?」


 私は髭つきの鼻に変幻してみせる。


「ひゃ?」

「あ? いったい何者なんだ君は?」


 驚きすぎたせいか、二人とも瞳孔が開いて目がまん丸だ。


「私はネコと同じ妖精だ」

「ネコとはミケ様のことか? それと同じ?」

「さあ、崇め奉っていいぞ。私は拒否しないから。存分にやれ」

「童は悪乗りしすぎですよぅ」

「そうですよ」


 猫とニホ様が窘めてきた。座敷わらしの糧になるのだから少しくらい、いいではないか。


「頭が混乱してきた」

「混乱してきた」

「お楽については、そういう生き物って思うしかないよ」

「そうだな。規格外すぎて、俺たちだって何て説明したらいいのか、わかんねえからな」


 その後、何かあった時に連携をとるため、誰が何を出来るのか、それも教えておいた。十也とニホ様の遠距離攻撃中に邪魔をされても困るからな。


「さっきのあれだが」

「さっきのあれってなんのことだ?」

「ガントレットといったか。あれはどこにいけば売っている。ボクでも手に入れられるものなのか?」

「欲しいなら鍛冶屋に頼むことになるな。需要がないから既製品はないと言っていたぞ。だから、製作日数と金が掛かる」

「それでも、試してみたい。ナイフを手に持つより使いやすそうだ」


 姉猫がそう言うのも、姉猫たちの手は猫の足のようなつくりだからだ。短い指に毛がもふもふしていて、手のひらには猫のように肉球がついているため、小さな物を持つことに適していない。


「それなら、どこか紹介してはもらえないか。できれば、ボクのかわりに依頼してもらいたい」

「依頼を?」

「ボクたちは交渉が苦手だからだ」

「絶対にカモにされるもんな。それはわかっているみたいだけど、おまえたちだけで買い物するのは絶対にやめた方がいいと思うぜ」

「それより金はあるのか?」

「冒険者ギルドにいけばパーティーカードで降ろせるから大丈夫だ」

「だったら、次の町で武器屋か防具屋に行って聞いてみたらいいのではありませんか」

「そうだね。それまでに、設計図を描いてあげるよ」

「いろいろすまん。恩に着る」


 十也もニホ様もアーサーも、みんな面倒見がよくて、人がいい。初めはどうなるかと思っていたが、みんなは猫姉妹のことを仲間としてやっていくことにしたようだ。


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