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02 座敷わらしという妖精

 私はとても退屈だった。


「暇すぎるーーーー」


 私の種族は妖精の一種で、世界各地に存在する。


 家に勝手に住み着き、主に家の中で目撃されることが多かったため、日本では昔から座敷にいる子ども『座敷わらし』の一種として認識されていた。


 もともと霊的な存在なので姿は人間でも、動物でも変幻自在なのだが、住んでいる家の子どもに合わせて、同じ年頃の人間の姿で過ごす仲間が多く、私もずっと女児の姿で暮らしている。


 服装はその時代に合わせることもできるが、私は着飾るのが好きなので、昔から派手な柄の着物を好んで身につけていた。

 今は薄紅地に色とりどりの牡丹の柄である。


「気分転換に、たまには変えてみるか。でも誰に見られるわけでもないし、この柄が一番好きだからこのままでもいいか……」


 髪が肩にかかる長さの黒髪ということもあって、見た目は日本人形そのものだ。


「自分では結うこともできないから、いつかは美容院に行ってみたいぞ」


 戦国時代の終焉までは力の強い妖精や物の怪も多く、私にもそこそこ霊力があったので、実体化して人間に化けることもできた。

 その頃は子どもと交流することもあったから、いまもその名残で、身体のサイズや年頃は住み着いている家の子どもに合わせている。


「今は、見えざるものが見える、純粋な目をもった子どもがいないから意味はないのだが」


 こんな状況は私だけではなく、現代では実体化できるほどの霊力を持つ座敷わらしは存在していない。


「そんな時代とはいえ、あまりにも切なすぎる」


 基本、引きこもりの種族なので私が仲間と会ことは滅多にないが、妖精たちのうわさ話によると、現代の座敷わらしは、私と同じく妖精体と呼ばれる霊体の状態なので、見える人間がいたとしても幽霊と勘違いされることがほとんどらしい。


「デジタル化が進んだせいで、心霊現象すら、作り物だと疑われているしな」


 昨今の子どもたちは、塾だ習い事だと毎日が忙しく遊ぶ時間があまりなく、時間ができたとしてもゲームの画面ばかりを見ていて私には全く気がついてくれない。


「ゲームに夢中だから、後ろから息を吹き掛けてみても、察知なんてされない。きっと悪寒が走るなんてこともないのだろうな。とは言っても私は悪霊ではないのだから、そもそもやり方が間違っているのだが……」


  それが当たり前の時代だと言われれば致し方ないが、『座敷わらし』としてはもちろん、影が薄くなりすぎて『幽霊』としてもかれこれ六十年以上は認識されていない私はやるせなく思ってしまう。


 知り合いの猫妖精が、通りすがり世間話をしに訪ねて来ていたこともあったが、それもこのところ途絶えていて、誰とも交流することができず、私は暇で暇でしかたがなかった。


「話し相手もいなくて、寂しすぎる……」


 そんな私は住み着いた家で認識されない度に、別の家に移り住むことを繰り返している。


 幽霊にすら間違えられることもなくなってから、現在の屋敷でちょうど十軒めになっていた。


「いい加減、誰か気づいてくれ……と叫んだところで虚しいだけか……」


 座敷わらしは人の余剰な精気を吸い取ってそれを糧にしているため、私にとって住みつく家の性質はとても重要だ。


 最近の人間は活気がないため余剰な精気がほとんどない。


 私は精気を取り込むことにとても難儀していて、毎回希望の家を見つけるために頑張ってはいるのだが、今までうまくいった試しがない。


 だから、近頃は顕現力も弱くなり、存在が薄れいく一方。

 この家でも、すでに五年は暮らしているし、ずっと気づいてもらえないので、そろそろ他の家を探そうかと思っていた。


「誰かに認識されたい。ついでに供物も欲しい」


 供物は神聖な物でとても強い力を発揮することができる。


 テレビで紹介されているような、人間に認識されている座敷わらしたちは、霊力でほんの僅かだが物を動かすことできるようだ。

  いわゆるポルターガイストである。


 そうやって自己アピールを続け、神秘好きな人間の信者を増やしている。

 そしてより多くの供物を捧げさせて、妖精や物の怪が栄えた最盛期の時代ように実体化できるほどの霊力をつけようとしているらしい。


 いまや霞のような存在の私にとって、そんな仲間の話は、羨ましくてたまらなかった。


 物を動かくすことが容易になれば、PCやスマホでネットを使うこともできる。そうすれば遠距離の妖精とも交流ができるようになるし、情報も集められるだろう。

 

 うまくいけば現代風の妖精に脱皮して新しい能力と世界が広がるかもしれない。


 実際すでに電波に乗って移動している幽霊は存在しているそうだ。


 なぜか私たちより幽霊の方が新時代への順応性が高い。種族としての固定観念がなく、もともとそれほど力がないため縛りが少ないせいだろうか?


「テレビにはどうやって入ったらいいのだ? 私は引きこもりだからな、教えてくれる知り合いもいない……」


 兎に角うらやましい。


 私の羨望は掻き立てられるばかりだ……。


 そんな私も愚痴を言うばかりではなく、妖精が見えやすい無垢な子どもと友達になり、純真な敬意を向けてもらおうと頑張ったこともある。

 

  しかし性質上、屋外へはほとんど出ないため、出会える人数が限られているので目当ての子供と巡り合うのも難しかった。


 ちなみに子どもの多い学校は縄張りの関係で私は近づくことができない。


  下手をすれば力の強い妖精や妖に吸収されてしまう恐れがあるし、いろいろな感情が入り乱れているので近づきたいとも思わない。


「怖いのだよ学校は」


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