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189 座敷わらし、獣人の境遇を知る

「昨夜はびっくりしたけど、僕ももっと近くで猫獣人を見たかったな。本物の猫耳がついていたんだよね?」


 見張り台で私たちが言い合っていた時に、十也も目は覚ましていたらしい。

 しかし、あの時起き上がってしまえば、自分が人質になって足を引っ張ることがわかっていたので、ずっと息をひそめていたそうだ。


「暗かったからよく見えなかったけどな」

「髭とか生えてた?」

「あいつらの顔は人間と変わらなかったぞ。でも尻尾はあった」

「顔は普通なんだ」

「いや、中には猫のまんまのもいるけどな」

「アーサーは会ったことがあるんだ。他にはどんな獣人がいるの?」

「馬獣人とウサギ獣人とは話したことがある。海を渡れば竜人もいるらしいが、そいつらは言葉が通じないようだぞ」


 小説の中に竜人は出てこなかった。住んでいる大陸が違って、天上人との争いに巻き込まれることがなかったからだろうか。


「馬獣人って、まさかケンタウロス?」

「そのケンタウロスってのは知らねえが、頭部が馬なだけだ。牛もいる。狐もな」


 日本で言うなら、牛頭馬頭、そして妖狐のことだろう。

 そうだとすれば地獄の門番をしていると言われている者たちと九尾だから、最強に感じてしまう。それらが私の知る者たちと同じ生き物であればだが。


「姿は妖に近そうですねぇ」


 猫も牛頭馬頭を想像したようだ。


「そうだとすれば、確かに獣人は仲間になりにくいだろう」

「みたいだな。パーティーでボスの地位についてるやつが圧倒的な力を持ってないと、下克上が酷くてやってらんねえみてえだぞ」

「それは、まとめるのが大変そうだよね」

「あと、気分がかわりやすい種族が多くて、それもちゃんとした理由もなく『なんとなくやる気がなくなったからやめた』ってこともあるとか言ってたな」

「その気持ち、我はにゃんとなくわかります」


 ネコが言うには、狩りに飽きたり、何も成せてなくても途中で何故か満足してしまうことがあるそうだ。


「彼らも無理して勤勉さを人族に合わせる必要もないんだから、今みたいな距離感がいいんだと思っていたけどね。使役獣や召喚獣の話を聞いたらちょっと考えさせられるよ」


 ラトレルさんは獣人に会ったことがないから、獣人たちが虐げられているとはしらなかったらしい。

 拒絶して距離を置いているのは彼らの方だと思っていたようで、その理由を知って同情していた。


「本当に奴隷扱いされている者がいるのか?」

「いないわけじゃねえ。ようは俺と同じようなもんだ」

「アーサー?」


 アーサーが奴隷化されていたことなど初めて聞いた。

 流石にこの言葉には皆が反応している。しかし、聞いてはいけないことを聞いてしまったというようにアーサーから目をそらし、重い空気になってしまった。


「ちょ、勘違いすんなよ。そのことをオラクは知ってるだろうが」

「何をだ?」


 アーサーからそんな話は聞いた覚えがない。


「俺の元パーティーメンバーが俺にだけ狩りをさせて報酬を掠め取っていたことだ」

「ああ、そんな話をしていたな」

「獣人たちはそれと同じことをさせられてるってことだ。危ないエリアに自分だけ突っ込まされて、報酬は等分にされる。そんなことをされていても中には気がつかない奴もいるんだってよ」


 アーサーは自分にも同じような経験があるから、その気持ちがわかるそうだ。


「そんなことをされたら、反抗する者も出てくるのではないか。獣人の方が攻撃力も強いだろうし、徒党を組んで町を襲われたらひとたまりもないような気がする」

「そこまで馬鹿な奴はいねえよ。そんなことをしたら、絶滅させられちまうことくらい、あいつらだってわかってるさ。町のひとつふたつ落としたところで何も変わらねえ。それどころか、そのあとは冒険者たちが嬉々として狩る側に回るだろうからな」

「なんか、切なすぎる話だね」

「だからこそ、生活拠点を分けてるんだ。人族の町にわざわざやってくる奴らは、村から冒険者になろうとして飛び出してくる子どもと一緒だと俺は思ってる」

「好奇心とかが勝ってしまうのだろうな」

「皆が幸せになれるようになればいいのにね」

「それな、獣人から英雄が出れば、少しは風向きが変わるんじゃねえかな」


 それなら、実は心当たりがある。


「圧倒的な力があるだけでいいのなら、わたくしが獣人たちを侍らし、女王として君臨しようかしら?」

「ええ?」

「エウ!?」


 恐ろしいことをつぶやいたエウリュアレ様。私は決してエウリュアレ様のことを思い浮かべたわけではない。


「見目美しい者たちをわたくしの側近にして、力強い者たちに玉座を守らせれば完璧だわ」

「え? まさか玉座だけなの?」

「国をつくるんじゃねえのかよ」


 フェルミとアーサーが呆れた声で言う。


「海の向こうから竜人も連れてきて侍らせたら素敵よね」


 その言葉はニホ様の向けられていた。


「それはそうでしょうけど」

「え? 二宝さんもハーレム願望があるの?」

「あ、いえ。そういうことではなく、私は竜人に会ってみたいと思っただけで……」

「なんだそういうことか」


 ニホ様はエウリュアレ様の蛇たちすら可愛いという感覚の持ち主なので、爬虫類系の竜人に興味があるのはわかる。


「エウのそれって、力で押さえつけるってことでしょ? だめだよそんなの」

「そうだよな」

「それにエウさん、頂点に立つってことは、重責でとても大変なんですよ。私は高みの見物が一番気軽なポジションだと思います。力を持っているなら尚のこと、世界のバランスが崩れてしまいますよ」


 ニホ様たちがエウリュアレ様を窘める。

 私が知っている頃のみずち様も、そういったスタンスで争いごとに首を突っ込むことはしなかった。


「あら、やだ。そんな面倒くさいこと、本気なわけないじゃない」


 それでも、エウリュアレ様ならやればできそうな気もする。


「エウの戯言は別としても、俺も、獣人たちが過ごしやすくなるようにまとめる奴が必要だとは思うぜ」

「それならアーサニクスの仲間に人狼がいる。そやつが天上人との戦いで名声をはせて、獣人たちの境遇を救うことになるかもしれんな」


 主人公だけあって、アーサニクスはいろいろ背負っているようだ。

 フェルミが抜けることで未来がどのよう変化してしまうのだろう。


 私たちが元の世界に戻ることが一番重要ではある。だが、それと同時にこの世界の平和も掛かっていた。


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