18 座敷わらしとゆるキャラ
とりあえず、夜になる前に宿屋で料金を調べることにした。
町の大通りを歩きながら建物を見てみると、お店と思われる建物には図柄で何屋か分かる看板がかかっていた。この世界の文字は日本語だ。おかげで私たちは読むことができる。
十也と一緒に大通りにある宿屋の看板を調べて、○○亭とか○○館とかの宿屋の中で『ひまわり亭』と言う宿屋に目星をつけた。
十也曰く名前から察してなんとなく明るくて暖かな雰囲気がするとのこと。
「こんにちは、こちらは一泊おいくらですか」
宿屋の受付にいる年配の女性に十也が声をかけた。
ちなみにネコは外で待っている。宿屋へネコも一緒に入ろうとして、他の客から咎められたからだ。
「食事が夜と朝ついて、二人部屋で銀貨二枚、一人部屋を二つなら銀貨二枚と大銅貨六枚ですよ」
「一人で泊まるとしたら銀貨一枚と大銅貨三枚か、今どのくらい持ってる」
持っていた硬貨を全部カウンターの上に出してみる。
「銀貨一枚と大銅貨六枚、銅貨七枚ね。一人部屋が一部屋しか無理だわねぇ。あなたたち全財産がそれだけだったら『青獅子荘』に行ってみたら? あそこなら雑魚寝になっちゃうけど銀貨一枚で二人泊まれるわ。そこの路地を左にまっすぐ行ってみて。青い扉の宿で、目立つからすぐわかると思うわよ」
「ここでいい……」
「ありがとうございます。そちらへ行ってみます」
私は十也一人がここに泊まればいいと思ったのだが、私の腕を引っ張るのでしかたなく店の外に出た。
「昼間は一緒にいて宿に僕だけ泊まっていたらおかしいだろ! しかもお楽は女の子に見えるのに」
「気にする必要はないと思うが」
「人って案外見ているもんなんだよ!」
十也はそう言うが、宿も食事も必要ない私の分は無駄だ。十也が一人では泊まらないと言いはるので、しかたなく青獅子荘に行ってみることにした。
ネコは元の世界でも外で適当に暮らしていたので夜は別行動でいいそうだ。「この辺にいるのにゃら、童の気配を辿って探すことはできますから。明日合流しますねぇ」と言って、猫のふりをしながら町の中へと消えていった。
青獅子荘に行ってみると建物はひまわり亭よりは小さかったが、確かに目立つ。十也が一面真っ青な扉を押し開けた。
「いらっしゃい」
「「?」」
青獅子荘に中に入ってから、私は十也と一緒に固まった。
受付にゆるキャラがいたのだ。先ほど町中で見たものと変わらない。それは身長が私たちよりも少し高く、三頭身で、服装からして今度は男子っぽい。
「ご宿泊じゃないんですか?」
ゆるキャラが首を傾げながら話しかけてきた。
「あ、そうです。すみません。雑魚寝希望なんですがおいくらですか」
「雑魚寝部屋なら、一人大銅貨五枚。食事は外で食べてきてくださいね。パンだけでいいならここでも売ってるからそれでよければ、声をかけてください」
ゆるキャラの説明を二人で聞いていた。
「うちは洗い場がないので、身体は水場で拭いてもらうか、町の公共施設でお願いします」
しかしその説明がゆるキャラのせいでまったく頭に入ってこない。
いや、もはやゆるキャラといったら失礼かもしれない。
肌や髪の質感といい、表情といい、この三頭身は着ぐるみではなく、ちゃんとした生き物。
どう見ても本物の人間だ。
十也も目をまん丸くしてコクコク頷いているので着ぐるみではなく人間だと理解しているのだろう。
それに気づいたとしても、ここで騒ぎを起こすわけにもいかず、十也と互いが思っていることを必死にアイコンタクトで伝えながら、口はギュッとつむったままでいた。
「あ、でも妖の一種だと思えば別に不思議な体型ではないな」
「お楽!」
私がおもわず独り言をつぶやくと十也が足を踏んだ。
「何かご質問ですか?」
受付の男子が顔を少し赤くしたので、私の言葉が聞こえて怒ってしまったのかもしれない。
「すみません」
すぐに十也が謝った。私は大人しくしていたほうがいいだろう。
「あの、洗い場ってなんですか」
「身体を洗うところです。大通りをセンター側に歩いていけばありますよ」
それでも質問には答えてくれた。
風呂ではないのか? よくわからん。十也も眉が中央に寄っていて困り顔なので、わかってないと思う。
「何度もすみません、センターっどこにあるんですか?」
「町の中央にある一番大きな建物なのですぐわかると思いますよ」
「ありがとうございます。話の腰を折ってすみません。説明の続きをお願いします」
「敷物と毛布を一人一枚お貸します。この奥に二十人使いの大部屋があって区画の線が引いてありますので、好きな場所を選んでお使いください」
そこで他人と一緒に寝るらしい。雑魚寝部屋なのだから当たり前だな。
私は屋根と壁があれば十分なんだが、こんな薄い敷物では十也は休まらないと思う。
十也がここでいいと言うので泊まることにしたが、これは一日でも早くお金を稼がなければいけない。私の霊力も増やさなければならないしな。
「びっくりした。あの人本物なんだもん」
予約だけして私たちは一度宿を出た。二人っきりになってから十也がそんなことをボソッと言う。
「ファンタジーの世界だからな。私たちが知らない種族がいてもおかしくないか」
「それを言ったらお楽やネコちゃんだって、僕は名前くらいしか知らない種族だったよ。少しは僕の気持ちわかってくれた?」
「ああ、少しだけな。でも座敷わらしは割りと有名だろう。テレビに出ていた仲間もいただろう」
「あれって本物なの?」
「本物もいるし、別の物もいる」
「ある意味お楽たちの世界も異世界だよね」
「いや、日本だが?」
「僕にとったらそうだってこと」
異世界ではなくただ見えなくなってしまっただけなのだが、そう思われるほど妖精たちのことは忘却の彼方に消え去ってしまった。
寂しいことだが、それを愁いても今さらどうにもならないのだろうな。




