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178 座敷わらし、預言者の正体を知る

「ヨウカイ? なんだそりゃ」


 日本では私のような無から生まれた妖精のことも、ネコのように生物が変化したものも、物が精霊化した付喪神のことも、すべて妖として数えられていた。


 アーサーが聞き返したということは聞きなれない単語だということだ。

 しかも、預言者は私に向ってその言葉を放った。

 ――いや、ネコにも視線が向かっているか?


 逆に、ニホ様とエウリュアレ様に関心を示していない。二人は巧妙にその気配を消しているからだろう。

 間違いなくその視線は妖精である私たちだけを的確にとらえている。


「この世界でいうと妖精とか悪魔の類だな」

「妖精……ひと目でそんなことがわかるのか?」

「ああ、気配が人とは違うからな。猫又と――人形(ひとかた)の方は数が多いから種族まではわらないが。それに、この世界にいることも、予想はついている」


 ネコは完全にばれていた。


「おおかた、陰陽師にでも封印されたのであろう」

「え? そうなのか?」

「うにゃっ!?」


 いつの間に?

 そうだとしたら、ニホ様のチョコレートを供物に捧げた十也の希望を、私が叶えてしまってこの世界にやって来た。というのは勘違いだったのか?


 知らないうちに退治されるような悪さなど、何もしていなかったのに?

 今どきの陰陽師は、何の確認もせずに手当たり次第そういうことを行っているのだろうか。だとしたら最悪だな。


「俺には言ってることが、まるでわからねえ、なあ、ラトレル」

「さっきから、聞いたことがない言葉ばかりだからな」


 逆に、猫又とか陰陽師とか、それを知っている預言者の方がおかしいだろう。


「ああ、そうか。仲間にも正体は秘密にしているんだな。それは私が悪かった。失敬」


 預言者は口先だけで、まったく悪びれている態度ではない。


「だったら、君……オラクだったか、話をするなら二人きりの方が良いか? 聞かれたくない話もあるだろう」

「いや、その心配は無用だ。私のことは皆知っているから大丈夫だぞ。それよりお主の方こそ何者だ」

「私か? 別に隠すつもりはない。前世の記憶を持っている。という貴族の四男だが」


 渋られるかと思っていたが、すんなり正体を明かす預言者。


「やはり日本人からの転生ということか」


そうだと思ってはいたが『アーサーと天上人の末裔』を知っている理由は明かになった。向こうの世界で小説を読んだことがあるのだろう。

 では、妖について詳しいのはなぜだ。問題はそっちだ。


「君が言うように、確かに日本に居た。だが、私の前世は日本人ではない。さっき言っただろう。陰陽師に封印されたと」

「それは、自分の身に起こったことだったのか。ならばお主の正体は妖なのだな」


 それなら、私たちの気配に気がついたのもうなずける。転生していたせいで、こっちは気配がつかめなかったようだ。


「だったら、僕たちは転生じゃなくて転移だから、この世界へ来た原因は違うと思うんですけど」

「それは、陰陽師の腕によるものだろう」

「でも僕は人間だし、封印される覚えなんてないんですけど。ねえ、二宝さん」

「ええ」


 そうなのだ。

 私とネコはともかくとして、十也まで本の中に閉じ込められたのは解せない。しかも部屋でくつろいでいた時にだぞ。


「そうか――人間であるなら不可解に感じてもおかしくはないな。とりあえず、君たちが転移してきた状況と、今までの経緯を私にすべて教えてくれないか」

「その方が話は早いな」



 あの日、はじまりの荒野に転移した前後の話と、この世界でのことをかいつまんで預言者に伝えた。もちろん、ニホ様のことは除いて。


 日本がらみの話が分からないというアーサーたちにはニホ様が説明をしていた。




「なるほどな。私と君たちとでは、本当に状況が違うようだ」

「お主もここから出る方法を探しているのか? 封印されるほどの悪事を働いていたとしたら、解き放つわけにはいかないのだが」


 今は力がない妖ばかりで、転移前の私のように、自らの存在を保つことが精いっぱいだ。そのため、影を潜めていて人間の世界に関わることがほとんどない。

 だから、現世に強力な妖が現れたら世界の秩序が乱れる恐れがある。

 再び大きな災いをもたらすことを、私が許すわけにはいかないのだ。


「封印の理由か。それは、私の前世が大妖だったからだろうな。悪妖ではなかったが、単純に力が強すぎたためだ。陰陽師の力でも消滅することはなかったが、結局、本の中に封印されてしまった。気がついた時には人間に生まれ変わっていたのだ」


 前世の種族はわからないが、悪い妖怪ではなかったのか?


「人間界に手出しするつもりはない。頂点に立つものとして己の存在の恐ろしさは理解しているつもりだ。そうでなければ、この世界の妖精はすべて食らっていた。前世に比べればたいした者はいないからな」


 そうだとすると、ニホ様クラスか。


「お主も、強力な力をわからないように隠しているのか」

「今は人間だからな。妖だったころの力は使うつもりはない。それに、必要だと思ったこともないぞ。この世界の妖はどいつもこいつも、あまりにも弱すぎて、相手になるものなどいないからな」


 鷹揚に振舞っているが、それなら大丈夫か。


 悪妖化していれば、ニホ様にはわかるだろう。チラッとそっちを見てみたが反応がない。何も言わないところをみても、封印が解かれることに問題はないということだ。


「あら、大妖ってわたくしと同等の存在だと思っていたわ」


 ところが、ニホ様ではなく、それまで、静かに紅茶を味わっていたエウリュアレ様が、預言者に向かって蔑んだ視線を向けた。


「あなたからは小物の気配がするのよ。偉そうにふんぞり返っているけど、木っ端と同列じゃないの」


「「「え?」」」 


 エウリュアレ様の言葉が本当なら、預言者の今までの話の信ぴょう性がなくなってしまう。


「嘘なのか?」

「嘘では…………ない!」


「あら、わたくしの言葉を否定するというなら、試してみようかしら? 人ではない部分をわたくしが吸収してしまったら、あなたには何が残るのかしらね。もちろん同等の力があれば、そんなことはできないのだけれど」

「ああああ……」


 それまで、高慢にも思える態度と表情だったそれが、額から汗をだらだら流し、怯えて恐れおののいているものに変わった。


 ガタンッ。


「うわああああ」


 椅子から転げ落ちたのも仕方がない。エウリュアレ様が力を解放したのだから。私もピリピリしている。

 とばっちりもいいところだ。


「すみません。すみません。すみません。大妖なんて大嘘です。私の前世はしがない白布でした」


 床に頭をつけて土下座する預言者。

 何もそこまでとは思うものの相手が悪かった。

 エウリュアレ様は自分より上を認めない方だからな。知らなかったこととはいえ、喧嘩を売ったのも同然。今後のためにも、しっかり謝罪をしといた方がいいと思う。


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