166 座敷わらし、カミングアウトする
私はエウリュアレ様たちに怒られ、反省させられた後、監視役を任された。
ネコもいるし、エウリュアレ様がニホとフェルミには透明化の幻影魔法を使ったらしく、二人は温泉を堪能することができたようだ。
十也も久しぶりの入浴で、リフレッシュできたと、とても喜んでいた。
「透明化したのなら、私が警戒する必要はなかったのではないか?」
「えー、見えないとはいえ、裸でいるところに誰かが来たら焦っちゃうもん。だからオラクちゃんとネコちゃんがいてくれて助かったんだよ」
「そういうものなのか」
いま私たちは、温泉地から街道を目指して山中を歩いているところだ。フェルミと話をしていると、アーサーが私の横に並んだ。
「なあ」
「なんだ?」
「俺はオラクの裸を見ちゃったからな。男として責任をとらなきゃいけねえ。俺の唯一はオラクってことで探すのは今日で終わりにしたからな」
「責任? お主、何を言っているのだ?」
私にはアーサーの言っている意味がわからない。
「何って、おまえと結婚するってことだろが。まあ、理由はあれだけどな、オラクとなら上手くやっていけそうな気がするんだわ」
「結婚? 私はできないぞ」
「おいおい、まさか実は人妻じゃねえよな? あん、もしかして……」
アーサーは十也に視線を向けた。
「ない、ない、ない」
十也が思いっきり首を振っている。
「アーサーは何か勘違いをしているようだが、この身体はつくりものだ。私は何にでもなれるからな。男にもなろうと思えばなれるぞ」
見本に誰かの身体を見ることができればだが。私はアーサーの下半身に目をやった。
「うーん。それを言われるとなあ。今さらだけどさ、オラクっていったい何者なんだ?」
これまで、変幻や怪我は一切しないとか、明らかに普通ではないことばかり私はやっていた。そろそろ誤魔化すことも難しくなっているし、なにより、それを見ても、私を化け物と恐れおののく者がここには誰一人いない。
「お主は、何を見ても、聞いても、大丈夫そうだからな、ついでにラトレルさんも聞いてくれ」
「なんだい?」
「実は私は妖精の一種だ。しかし、こっちの妖精とは違って人間と契約をすることはなく自由の身だから、十也が召喚者というわけではない」
「やっぱり。さすがにただの人間じゃねえよな。エウのお仲間ってところか?」
「そんなわけあるまい。私などエウリュアレ様とは格が違いすぎるわ」
「だからか。おまえ、エウには敬語でしゃべるもんな」
エウリュアレ様は敬わなければいけない御方だから当たり前だ。
「これでわかっただろう。お主と結婚することはできないってことが」
「そりゃあ、オラクが妖精じゃ仕方ないよな。そんじゃ、さっき言った、唯一探しは終わりってのはなしの方向で」
「いや、女子とトラブルを起こされるのは困るから、我々と行動している時は大人しくしていてほしいんだが」
「前みたいにいきなり手を握るってのはもうやらねえよ。でも自然に出会うのはいいよな?」
「まあ、それならな」
私たちの話を聞きながら、みんなは苦笑している。エウリュアレ様だけは機嫌が悪く、フェルミがなだめていた。なぜだ?
ラトレルさんも驚くこともなく私のことを受け入れているようだ。ずっと一緒にいたから、薄々は感づいていたんだろう。
その後、無事に街道まで出たので、私たちは次の町を目指した。
正体をアーサーとラトレルさんにカミングアウトしたことで、隠し事が何もなくなって、私は肩の荷がおりてすっきりしている。
座敷わらしの性質上、嘘をつくことができないから、誤魔化しようがないことを聞かれた場合、今までは無言を貫くしか方法がなかった。
それで、察しのいいラトレルさんはそれ以上の詮索をしてこない。だから、ずっと甘えてきた部分が多かったと思う。
これで何をするにも、気にすることがなくなった。それを言ったら「気にしてたことなんかあったの?」と十也に呆れられてしまった。
どうしたら人間らしくいられるか、これでもちゃんと考えているんだが?
自分のことが片付いたから、気になるのはニホのことだ。
私が以前に会ったことがあって、しかも恩がある人間。
そんな限られた者なら特定することは簡単そうだ。しかし、私にはまったく心当たりがない。
この長い年月の中で、人間と関わっていた時期。そして私が誰かに助けられたこと。それで思いだしたのは、記憶の奥にしまってあった、若様たちの姿。
まさかな、あれから何百年たっていると思っている。
だが、ニホの姿を見ていると、あの頃のことが鮮明になってくるのは、どうしてだろう。




