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15 座敷わらし、十也の気持ちを聞く

 次の日、私とネコは十也が起きるまでそのまま放っておいた。目を覚ましたのはかなり日が高くなってからだ。


 起きた十也は、なにやらキョロキョロ周りを見渡していた。

 どうやら私を探しているらしい。


 十也には私の姿が見えないんだったな。


「十也、眠れたか? 」

「……よかった」


 十也がボソっと言ったが元気がない。


「トウヤさん、おはようございます」

「ネコちゃんおはよう」

「今日こそ人間のいる場所を見つけるぞ。十也はしっかり食べておけよ。確か昨日焼いておいた肉がまだあっただろ」


 十也は自分のポケットに詰め込んであった肉を、取り出してはみたが口にしようとはしない。


「私はまだこんな状態だ。いつ実体化できるかわからないから慎重に進むぞ」


 十也は黙って頷いた。


「我も(にゃに)もできにゃくてすみません」

「昨日は私の確認不足で危険な目に合わせて悪かったな。十也が私を守ろうとしてくれたことには感謝している。だが、私は普通の武器では害せないから、今後は私を助けようと思うな。逆にお前のことは私が守る。これからは自分の命を最優先にしてくれ」


 十也が目を見開いて、見えない私を探しているようだ。


 しばらくして。


「座敷わらしだけど……見た目女の子に守るとか言われるの情けないんだけど」


 いや、今はユタラプトルだけどな。


「だったら、次に実体化するときは男になるぞ。犬や猫にもなれるが希望は何だ?」

「動物になっても話せるんだっけ。あ、でもやっぱり人間でいてほしい」


 十也はネコを見てからそう言った。


「ではそうする」

「僕さ、昨夜のことが起きるまで、本当は日本のどこかだって、人がいる場所に着けば家に帰れるんだって思ってた。骸骨も誰かの演出で、テレビのドッキリみたいなのかなって、あり得ないことが起きても、ずっと否定していたんだ。でも本当に何かが襲ってきたり、死んだりしちゃう世界なんだね。僕、お楽とネコちゃんがいなかったら、とっくに死んでいたか、おかしくなっていたかもしれない」


 はぁ、と十也はため息をつきながら腫れた頬をさわり、今の気持ちを私たちに呟き始めた。


 胸の内を吐き出した方が気持ちが軽くなるだろうと、私は、ああ、そうか、と相槌を打ちながら聞き役に徹している。


 私も、もし十也とネコがいなかったら寂しかったかもしれない。座敷わらしが人間に認識してほしいのは寂しがりやな部分もあるからではないかと実は最近思っている。


「昨日からいろいろ悩んで、ちゃんとこの世界と向かい合うために、頑張るって宣言しようと思ったら、先に守るとか言われちゃってかっこ悪いな」


 とりあえず十也は気持ちに整理をつけて多少元気になったみたいだ。


「ねぇ、昨日のあれ恐竜だよね? お楽だってわかっていても僕も襲われるかと思っちゃったよ」

「今もその姿だぞ。十也のとなりには見えないが恐竜がいる」

「そうにゃんですよ、怖いのが側にいて、我は背中がぞわぞわします」


 ネコはただの猫だった時代があるので、今でも強そうな生き物は苦手らしい。


「あはは、想像すると面白いね。恐竜と話してるんだ僕」


 十也は無理して笑っているように見えたが、前向きになっている、それに水を差す必要もないので気がつかないふりをしておいた。

 ここ数日で私も空気を読めるようになってきたのだ。


 町を目指す前に、少しでも目立つことを避けるために、桃髪が上等な服だと言っていた十也のジャージは裏表逆に着てイラストを隠した。


 荷物の中身が少ないと言うことは、あの男たちがそれほど遠出ではないと十也が言う。

 食べ物も手に入ったし、このまま歩いていけば十也が倒れる前には人の住む場所まで行けそうで少し安心した。


「お楽いる?」

「ああ、隣を歩いている」

「……」


「お楽……」

「なんだ」

「何でもない」


「お楽? その歌、なに」


 何って、テレビで流れていたから覚えたものだ。道中、十也が何度も私を気にして確認するので、私の存在がわかるように歌い始めた。ネコも一緒に歌っている。


「流行っていただろ。十也は知らないのか」

「たぶんそれ、父さんたちが若いころの曲だよ。僕は知らない」


 私は座敷わらしとして長くこの世に存在しているせいで、時間の流れがおかしくなってるんだな。最近流行った歌だと思って、選曲したんだが——。


「でも、そのまま歌っていてよ。恐竜のままなんでしょ。想像したらやっぱり笑える。猫も歌ってるし、ね」


 そう言って猫と目を合わせニカっと笑う。

 十也がそう言うなら歌い続けるか。でも目の前で実体化したら腰を抜かすだろうけどな。


 その後、十也も知っている歌を選んで三人で口ずさみながら歩き、次の曲を何にするか話しながら歩いていると進んでいる方向に人影が見えた。


「十也、人間が来る」


 私は今、ユタラプトルで体高が三メートルあるため視界が広く十也より遠くを見ることができる。おかげで空は飛べなくとも背が高い生き物に変幻すればある程度は見渡せることがわかった。


 霊力も妖精体でなら変幻する時にしか使わないから多少大きな動物でも大丈夫だろう。


 私たちが歩いて来た先には、男たちとオークの死体がある。男たちはオークの仕業だが、私たちが疑われないという保証はない。実際男たちの荷物は持ってきているし、慎重に行動した方がよさそうだ。


 十也とネコは道から外れた場所にある、身を隠せるサイズの岩の陰でやり過ごすことにした。


「私はどうせ見えないから、人間の様子を探りに行ってくる」

「ちゃんと話を聞いてきてくださいねぇ」

「大丈夫だ任せておけ」




 ユタラプトルの身体は大きくて歩幅もあるし、恐竜の中でも素早い種類なので、あっという間に人間のそばまで駆け寄ることができた。

 そこにいたのはまたもや冒険者風の男が四人だ。


 盗み聞きをするために男たちの真横について歩き始める。


「東門食堂にマシャケが入るんだってよ。今回のオーク狩りの報酬で食べに行こうぜ」

「あそこに新しく入った店員かわいいよな」

「そうだっけ? 僕はトムの店のデイジーちゃん一途だから関係ないけど」

「デイジーちゃん、昨日『ラインの剣』のやつが口説いてたぞ」

「うそ? 僕ちょっと帰る」

「ここまで来てバカ言うな。どうせ、いろんな奴に口説かれてるさ。今から行ってもかわりゃしねえって」

 

 ずっと聞き耳を立てていたが、ほぼ、どうでもいい話ばかりだ。


 それでも辛抱強く話を聞いていると、オークのことが少しだけ出てきた。

 どうやら私たちが来た方向にオークの狩場があり、そこを目指しているようだ。どうも昨日の森のことらしい。


 そう言えば昨夜の男たちもセンターの依頼でオークを退治するとか言っていた。ということは冒険者がやって来た方向に町があるのだろう。

 さっき帰ると言って足を向けていたのもそっち側だったしな。


 四人組の冒険者が見えなくなるまで待って、隠れていた十也たちに声をかける。


「やっと町に着けそうだぞ」


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