146 座敷わらし オークションに行く
私たちはオークションを見学するためケンビルの街へ向かっていた。
リーニアの町からもオークションに行く人間が何名かいたので、センターが馬車を用意してくれた。タマムシヘビが落札されればその二割を手数料としてセンターに納めることになる。
このくらいのサービスは必要だと担当眼鏡が判断したのかもしれない。
「ぴぴっ、ぴぴぴっ」
私の頭の上でヒナが羽をパタパタさせてはしゃいでいる。
「町の外に出るのは初めてだったか」
「ほんとに青いんだな」
「ラトレルさんは魔小雀を知ってるんですか」
「ああ、普通頭は黒い鳥なんだよ。それにヒナちゃんは少し大きい気がする」
ヒナも飛べるようになり、今回は魔物狩りに行くわけでもなかったので連れてきた。ヒナが静水館に残るのを承諾せず、私から離れなかったのが一番の理由でもあるのだが。
「なんでお楽さんにはべったりなんでしょうね。(黒いのに)」
まだ少しヒナに警戒されているニホがボソッと言った。色が瑠璃色になったのも、私に懐いているのも、たぶん卵の時に授けた幸運のせいなんだろう。ヒナは私がちょっとくらい黒くなっても好きでいてくれるようだ。
景色を見ながら馬車の旅を楽しんでいると、西の空がほんのり染まり始め、徐々に夕焼けで赤く埋め尽くされた。今日は一晩だけ最寄りの町で宿泊するそうだ。明日の午前中にはケンビルに到着するらしい。
街道に少しづつ民家が増えてきて、宿泊予定の宿についたとき空は藍色に変わっていた。もうそろそろ夜告げ鳥の声も聞こえてくる頃だろう。
「昔はそんな妖もいたな。やつのは悲鳴みたいに聞こえたがな」
「夜に悲鳴? 何それ、なんか怖すぎる」
「懐かしいですね。いい意味ではありませんが……」
馬車に場所がないため、いままで頑なに遠慮していたネコが、今日は十也の膝の上に乗っている。
そこで、こそっとつぶやいた。
「やっぱり怖いよねえ」
「そうですよねぇ~」
そんな十也とネコの会話をラトレルさんとニホは笑顔で聞いている。
あのニホの表情を見ると、普通の女子中学生のように「きゃあ、こわーい」なんてことはなく「私がいるから安心して」とでも思っていそうだ。
ニホに対して私が辛辣なのは、もったいぶって何も教えてくれないニホが悪い。のだと思う。
ここは街道に沿って街並みがにぎやかになっていった。魔物の脅威がない場所はリーニアの町のように外壁で囲う必要がないのだろう。
知らない場所でニホを一人にするわけにいかないと十也が言うので、二人づつに分かれて宿泊することになった。
ニホの相手はもちろん私だ。
私を十也と同じ人間だと思っているラトレルさんは男女で同じ部屋を使うことに不思議そうな顔をしていたが「私たちふたりでは絶対に間違いは起こりませんから大丈夫です」ニホのその一声で何を納得したのか「俺や十也だと問題ありそうだしオラクだもんな」と反対をしてくれなかったため、なし崩しに私がニホと同室になってしまった。
これでは眠ることができない。眠る必要はないのだが、エウリュアレ様さえ驚愕する得体のしれない者とずっと二人きりは嫌だ。
現実逃避したいから休眠したい。
でもそれも怖ろしい。
「ぴぴっ」
「お主がいたな。ヒナのおかげで私は安らげるぞ。一晩中お主を見ているからな」
「お楽さんの態度、ちょっとモヤモヤしますけど……あとでミケも招き入れますからとりあえず安心してください」
そして一夜明け、私たちはようやくケンビルの街へと降り立ったのだ。




