145 座敷わらしとニホとエウリュアレ様
「ああ、鬱陶しい」
エウリュアレ様は振り返るととても嫌そうにそう吐き捨てた。
「貴女いったい何なのよ。こちらは警戒していると言うのに、変な目で見つめるの止めてもらえないかしら」
エウリュアレ様が怒鳴りつけたと言うのに、それを瞳をキラキラさせて見ているニホ。
赤爪兎の毒騒動から、エウリュアレ様はニホの監視仲間から脱落したと思っていたが、仲が良くなっていたわけではないらしい。
今日の狩りは、ニホの荒稼ぎに便乗してきたエウリュアレ様とフェルミも一緒だ。ニホがすごい勢いで狼をセンターに持ち込んでいることを知ったエウリュアレ様に東門で待ち伏をされていた。
「わたくしたちも一緒に行くわ。フェルミは狼に慣れる必要があるのよ」
「そんなこと言って、エウは服代が欲しいんじゃないの?」
「そ、そんなわけ、ないじゃない。それよりそこの木っ端、何かあった時のためにフェルミに力を貸しなさい」
フェルミに図星をつかれたエウリュアレ様は珍しく口ごもっていた。
いま稼いだとしてもリーニアの町にいる間は三歳児なのだから、着飾ることはできないのに。
そう思いつつ、狼に出会ったフェルミが、精神を病んだときのことを見越して、私は言われた通りフェルミに幸運を授ける。
「ちょっといいかしら」
十也たちと別れ、山奥へ向かっている途中の休憩時間、フェルミの横に座って丸パンと薬草クッキーを齧っていたニホにエウリュアレ様が声をかける。
「はい、なんでしょう」
こっちにこいと右手を振ったエウリュアレ様のあとを、楽しそうにニホはついていった。
心配したフェルミが腰を浮かせたので、それをとめて「私が間に入るから」そう言って二人のそばにやってきたのだが。
「私はただ仲良くしてほしいだけなんです。エウさんには命も救ってもらいましたし。感謝の気持ちでいっぱいなんですよ」
「正体を隠していて、何者かわからない貴女が何を言っても信用できるわけないでしょ」
「それもそうですね……エウさんは見せてくれましたものね」
ニホに初めて会った日、ニホの正体を怪しんでいたエウリュアレ様は、ニホに本体を重ねて見せたらしい。
たまに私にも本体が見える時がある。あれは気のせいではなく、エウリュアレ様が有無を言わせないために術を使っていたことを後から知った。
エウリュアレ様は特定した相手だけに幻覚を見せることもできるようなのだ。
「この世界なら魔法もあるので大丈夫ですよね。そうゆうことにしてもらいましょう」
ニホがそう言った刹那その場の空気が変わった。
虫の鳴き声が止まり、近くにいたであろう鳥たちが一斉に飛び立つ。
数メートル先にいるフェルミも息を飲んだ。
生き物の出す音がなくなり、あたりは静けさに包まれた。と思ったら、その凄まじい力が一瞬で消える。
ニホが力を解放した時間があまりにも短すぎて、私には正体を掴むことはできなかった。
それでも、驚愕しているエウリュアレ様の姿を目の当たりにすれば、ニホの凄さがわかってしまう。
やはりただの人間ではない。
「エウさんにはあとですべてお話しします。私、本当に貴女とは仲良くなりたいんですよ」
「ええ、そうしてちょうだい。仲良くするかは保証できないけれど」
目をパチパチさせているフェルミと私を無視して、ニホとエウリュアレ様の二人だけで内緒話をするらしい。
ここまできたら、教えてくれてもいいのではないだろうか?




