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14 座敷わらしの運の力

 最初のオークはすでに絶命しており、もう一匹も痛みに耐えきれず失神してしまったようだ。


 これだけ出血していて助かるとは思えない。それでもとにかくこの場を離れなければ。


「お楽どこだよぉぉ? おいていかないでぇぇぇ」


 十也の泣き叫ぶ声がした。


「目の前にいるぞ?」


 しゃがみ込んでいる十也に右手を振ってみた。


「うそ、見えないよ、どこだよ」


 どうやらユタラプトルに変幻したことで実体化できる力を全て使い果たてしまったようだ。姿が妖精体になっているため十也には認識できないらしい。


「霊力が底をついて私は実体化ができなくなってしまった。とにかくここを早く離れるぞ。ネコ、周りの警戒を頼む」

「おまかせください。トウヤさん行きましょう」

「う、うん」


 ちなみにいまも、見た目はユタラプトルのままで妖精体になっている。妖精体でも変幻する時にも少しは霊力が必要だから、人間の姿になることができなかった。霊力が増えないと私は当分この姿でいるしかない。


 ちなみにネコは妖精同士だから私が妖精体でも問題なく見えている。

 ユタラプトルで話しかけるたびに、妖精だというのに背中の毛が逆立っている。

 こんな時に不謹慎だと思うがちょっと面白い。


 今回なぜ私がユタラプトルで実体化できたかというと、十也の善行のおかげだ。命懸けで座敷わらしを守ろうとしたことで私の霊力が膨れ上がった。


 私が十也を助けようと、とっさに最強の生き物を思い浮かべたのが恐竜だった。十也の家よりひとつ前に暮らしていた家の子どもが恐竜好きだったので、よく一緒に恐竜図鑑を見ていたのだ。


 そこに載っていた『ティラノサウルス』が頭をよぎったのだが、私の能力の問題で小型の『ユタラプトル』にしかなれなかったらしい。


 実体化する生物の大きさや強さに比例して霊力も必要になるようだ。


 今回はたまたま運が良かっただけで、今後私がユタラプトルで実体化しようと思ったら、もう一度十也に命を懸けてもらわないとダメなのだと思う。


 私の姿は消えたままだったが、ネコが十也につきそい、元来た方向へひたすら走り続けて惨殺現場から距離をとった。


 万が一、他のオークに見つかったら実体化できない私は戦力にならず、十也は戦うすべもない。だから十也の前をネコが、真後ろを私が走り周りを確かめながら進むようにしていた。




 ある程度森から離れた場所で十也は血の付いた外套を脱ぎ捨てた。持って来たリュックはあの状況から考えて、間違いなく昨夜の冒険者の持ち物だろう。リュックにも血が飛んでいたので捨てていくことにする。


 ナイフと携帯食はポンチョを風呂敷代わりにして、入らなかった分は十也のジャージのポケットにも突っ込む。


 革の水袋にはまだ水がたっぷり残っていたが、皮袋の匂いが臭く、トウヤはそれを飲むことにかなり葛藤があったようだ。


 結局、昨日から水分を取っていなかったため喉の渇きに耐え兼ねて口をつけた。すごく不味かったらしい。


 その後もとにかく歩き続けた。私たち妖精は疲れることがないので大丈夫だが十也は違う。


「十也少しは休んだ方がいい」


 私がそう言っても十也は反応せずひたすら前に進んで行く。


 十也はあの場所から少しでも離れたかったのか、私たちがどんなに声をかけても休むことをせず、疲れて歩けなくなるまで進むことをやめなかった。


 十也が足を止めた時には、気力も尽きてしまったようでそこに座り込んだまま動けなくなってしまっていた。


 膝を抱えている十也を、実体化できない私は見守ることしかできない。


 外套を捨ててしまったせいで寒いのか十也は震えだした。


 私は暑さ寒さは感じる程度で、人間より鈍感だからよくわからない。痛覚も同じで、実体化していても感触があるだけで痛みを感じたことはほとんどない。


 まさかとは思うがあいつらが英雄ってことはないよな? 人を襲う奴らが主人公なんてことはまずありえないから大丈夫だとは思うが今は何もわからない。今更ながら問題ない人物なのか心配になった。 


 オーク狩りに向かったあいつらが、逆にオークに返り討ちにあったことに関しては、あの場で剣が折れていたことを考えると私が不幸を授けたことが原因かもしれない。


 桃髪とポニーテールの自業自得だからしかたないが、今後、不運を授けることについては慎重にしないといけない。


 冒険者なのにオークに殺されてしまった男二人、なんの力もないが生き延びた十也。


 座敷わらしの授けた運がどこまで関係あるのか実際に知るすべはないのだが、ないよりはましだと思うので、今後も幸運が溜まった時点で十也にはどんどん授けて行くことにしよう。


 今夜も当たり前だが私は不寝番だ。

 ネコはずっと十也のそばに付き添っていた。


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