13 座敷わらし、魔物と遭遇
残酷な描写がありますので、お気をつけください。
「さっきからなんだか嫌な匂いがしますよぅ」
ネコがいうには獣や鉄の匂いと、香りの強い植物の匂いが混ざり合わさっていて、何とも言えないらしい。
「獣か。用心しないとな」
「獣臭い動物って怖いイメージしか浮かばないんだけど」
「我が偵察してきますぅ」
ネコがそう言って走っていったと思ったらすぐに戻ってきた。
「たぶん獣? 見たことがにゃいような生き物の死体がありました」
しばらく行くと一本道の先に大型の動物がポツン、ポツンと何体か倒れているらしい。
「でも普通の動物とはちょっと違う感じだったんですよね。遠くからだったのではっきりとはわかりませんが」
「戻った方がいいな」
そう言えば昨夜あいつらが『森から離れていても安全だとは限らない』と言っていた気がする。それはすなわち森は危険だってことにほかならない。
失敗した。
気がついた時にはすでに遅かった。私たちは何者かに見つかってしまったようだ。
大昔のマタギのように動物の皮や毛皮を身に着けた二本足のそれは、立ち姿が一見人間のようだと思えるが、顔を見れば明らかにそうではないとわかる。
そんな生き物が森の中から二体現れた。
「頭が豚だな」
その目はこちらをじっと見つめている。
「うわぁぁぁ」
唖然としていた十也が突然大声で叫んだ。
十也が騒ぐのも無理はない。この生き物たちは一体ずつ手に何かを持って引きずっていた。
なんとそれは昨晩私たちと争った桃髪とポニーテールだ。足が変な方向に曲がっており、引きずられているにもかかわらず、身動きひとつしない。
「あ、あれオークなの? オークって魔物だよね。あの人たちオークにやられたってこと!?」
遭遇したオークは身長二メートル半ほどだ。豚の頭部さえ除けば、服と言ったらみすぼらしすぎるが、それでも毛皮を身に着け、二本足で歩き、人間とそれほど変わらない風貌をしていた。
二体のオークは引きずっていた男たちをそこへ投げ捨てたかと思うと、棍棒を片手に砂塵を上げ、こちらに向かって走ってきた。どうやら武器も扱えるらしい。見るからに狂暴そうだ。
「逃げるぞ」
私たちは急いで元来た道を走った。どこまでも一本道で、隠れるとしたら森の中だが、そんなことをしたら草に足を取られてしまう。ひたすら真っすぐ全速力で逃げるしかなかった。
十也は息を切らしながら走り続けたが、砂利で道が悪かったことと体格差もあり、あっという間に一体のオークに追いつかれてしまう。
私は十也を庇うため意図して十也のうしろを走っていたのだが、オークの身体能力が思っていたよりも高く、私に向けて振り下ろした棍棒の先が背中に当たりそうになった。
「あぶない」
それに気づいた十也が私を助けようと、いきなり私の腕を引っ張ったためバランスをくずしてしまい、そのまま二人で転倒し地面に転がった。
こうなったら戦うしかない。そう思って私が立ち上がろうとすると、十也が這いずりながら私のそばへ来て、突然上から覆いかぶさった。
「十也!?」
十也は身体を盾にオークから私を庇ったのだ。
その十也に向かって再びオークが攻撃しようと棍棒を振り上げた。
まずい。
「しゃああああ」
間に合わないと思ったその刹那ネコが機転を利かせて、オークの目の前に飛び出した。おかげで攻撃しようとしていたオークが驚いてひるむ。
いまは考えている余裕は全くない。
私は十也を後ろに押しのけ、身体を実体化させたまま変幻したのは、体高三メートル弱ほどの肉食恐竜『ユタラプトル』だ。
「お、お楽!?」
うしろから十也の怯える声がする。今はオークの対応が優先だ。十也の声を無視して前を見据える。
ユタラプトル化した私はオークを見下ろしていた。これで形勢逆転。
私はすぐさま鉤爪を振り下ろした。それは至近距離にいたオークの顔に当たる。軽くなでた程度だったが、思いのほかオークの左頬を深くえぐった。
「ぶぎゃあ?」
オークは叫びながらも状況が呑み込めずに血だらけの頬に手を当てた。そしてユタラプトルになった私を見上げる。
その瞬間、今度は左手でオークの喉元を狙い鉤爪で掻っ切った。あたりに血しぶきが飛び散り真っ赤に染まる。
「ぎっ——」
オークは悲鳴も上げられず、その場に仁王立ちのまま背中からドスンと倒れこんだ。
「ぶひぃぃぃぃ——」
そうしている間にもう一体のオークが追いついてきた。
しかし、私の変幻を目の当たりにしたため困惑しているようだ。
私はさっきと同じように鉤爪で攻撃しようと接近する。
ところが、その攻撃はオークが両手に持っている棍棒で受け止められてしまった。
「ぶひっ、ぶひぃぃ」
命が掛かっているからなのか、何度攻撃してもオークが必死に防御するため倒すことができない。
真後ろに十也がいるのでこの場所から移動することもできずに、何度も鉤爪で攻撃し、それを棍棒で防がれる。それが何回も続いた。
「きりがない」
お互い両手で鉤爪と棍棒を交え力で押し合いをしていた時、ちょうど見下ろした先に隙だらけのオークの右肩が目に入った。
「あまりやりたくはないが、いけるか」
私は口を何度か開けたり閉めたりして試したあと、おもいっきりその肩に噛みついた。
「ぎゃあああああ」
オークを襲ったユタラプトルの噛み傷はとても深い。肩から胸にかけて食い千切られたオークは絶叫を上げた。それでも、まだ倒れず立っていたので、私は腰を思いっきりひねりユタラプトルの尻尾でオークの身体を殴りつけた。
オークの巨体が大きな音とともに吹き飛び木々に激突する。
「やったか?」
オークは今、数メートル先で悶絶している。
「とりあえず大丈夫そうですよぅ」
そうしてやっと死闘に決着をつけることができたのだった。




