表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/294

12 座敷わらし、森を発見

「うー、身体が痛いー」


 気候は日本の初夏ほどの温かさだ。外套を着ていて寒さは問題なかったらしいが固い地面に寝たせいで十也は全身が痛むらしい。


 人間の身体は大変だな。



 今日も荒野の中を通っている轍の跡に沿って進むことにした。二時間ほど歩いたころから、少しづつ上り坂になってきた。


 傾斜はなだらかだが十也は体力を奪われて呼吸が荒くなっている。


「少し休むか?」

「ううん、もう少しでここから抜け出せそうだし、いったん休むと動けなくなりそうだから歩けるだけ歩くよ」


 十也が言うように今までの風景とは様変わりして、遠くにこんもりとまとまった状態の緑が見え始めている。

 ずっと変わらなかった砂と岩だけの風景に、少しづつだが草も姿を現しつつあった。


 荒れ地部分の所々に雑草が群生しており、場所によっては野原のようになってきている。それでも地を這うような種類だけで、足元を覆い隠すような背の高い草は見受けられない。


「やっぱりあれ森だよね」

「そうだろうな」


 進むにつれ、だんだんと草の面積が増えているため、先の方では道の部分だけが灰色で一本の線のように長く伸びていた。そしてその先のある地点から線を引いたように風景が変わっている。


 後方の何もない荒野と打って変わり、前方には大木が連なる鬱蒼とした森が出現した。私たちはその森へと黙々と近づいていった。


 どうやらこの道を行くと木立の間を通り抜けるらしい。日差しを遮っている場所なら十也は歩きやすくなるではないだろうか。


「木陰のある場所まで行ったらいったん休憩するぞ」

「どこまで荒地なんだろって心配してたから、風景が変わっただけでなんか安心しちゃうね。あの森の中に、泉とか、食べられる木の実とかあればいいんだけどな」

「我も身を隠す場所があるとほっとします」

「そう言えば座敷わらしってこんなに出歩いていて大丈夫なの?」

「家移りする時は結構遠出もするから別に問題ではないぞ。ただ、外出していると不運ばかりたまるし、万が一自分より力の強い妖精や妖に遭遇すると面倒だからな、あまり外にいたいとは思わない」


 だから人ごみを避けて田舎に暮らす座敷わらしが圧倒的に多いのだ。

 十也の家の付近も昔は緑豊かな長閑な場所だったのだが今では人口が増え、大きな街へと変わってしまった。


「今みたいにずっと外にいたら座敷わらしじゃないよね。そういうのもいるの?」

「私は仲間に会うことがほとんどないからな。ネコに聞け」


「ずっと外で暮らしている座敷わらしは知りませんねぇ。座敷わらしって呼ばれる種族は実はいろいろいるんですが、総じて引きこもりですし。童の前で言うのもにゃんですが、座敷わらしって慎重で臆病にゃんですよ」

「臆病?」

「ええ、でも臆病って決して悪いことではにゃいんですよ。外には危ないことがいっぱいありますからね。逆に外をフラフラしている猫妖精の性質の方がやっかいにゃんです。面白そうなことに飛びつかないように気をつけにゃきゃいけません」

「『好奇心猫を殺す』だな」

「童は他の座敷わらしに比べて、割りと昔から順応性がありますけどね」


「そっか。それでも早く町を探して、どかに泊まった方がいいよね」


 少し休憩してから森の中を歩いていると、私たちの行く手に黒い棒のようなものが落ちていた。近づいて見るとそれは刃が根本から折れた剣の柄のようだ。そしてその向こうには背負い袋も転がっている。


「これ、昨日の男の匂いがしますよぅ」

「なんでこんなとこに落ちてるんだろう。中を見てもいいかな」


 十也が拾って調べた始めた。


「コインが入ってる。たぶんこれ財布だね」


 ずっしりと重みがあった革袋の中にはこの世界の物だと思われる百円玉サイズの硬貨が入っていた。色は銀色と銅色。サイズ違いでいくつか種類があるようだ。


「このタプタプしているのは水っぽいよ。水筒替わりってことかな」

「皮で作られた水袋みたいだな」

「それとこっちは食べ物。何かを固めて作ったバーみたいなのとビーフジャーキーだ」


 その他にも刃渡り十センチほどのナイフ、麻布で片面がテカテカしている雨具か防寒具っぽいポンチョが入っていた。


「使えそうだから持っていこうと思うんだけど、拾ったものを貰っちゃったらまずいのかな?」

「この世界のルールはわからんからな。とりあえず持って行って様子をみるか」

「そうだね」


 すべて状態がいいものだったので、このまま捨てていくのももったいない。ゲームだったら拾った者の所有物になるのだろうが、ここではどうだろう。


 休憩を終えて、再び三人で歩き始めた。


 だんだんと進むにつれて森は鬱蒼さを増し日の光を遮り、樹木の匂いが濃くなっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ