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118 座敷わらしとロックチョウの卵 再び 5

 帰り道には誰もいなかった。岩鳥(ロックチョウ)に追われ冒険者たちはどこかへ行ってしまったようだ。


「今のうちに安全な場所へ急ごう」

「ラトレルさんは大丈夫なのか」

「このくらいの重さなら何ともないよ」

「だったらよかった。このまま邪魔が入らないといいな」

「そうだね」


 ところが、ことはそう簡単には進まなかった……。



 私はいま、大魔熊(オオマグマ)と対峙している。こんな時に限って大物の魔物と出会うとは……。


 これは十也の時の玉虫蛇(タマムシヘビ)の再来か。

 ラトレルさんと卵には幸運を授けているのでそう思ってしまうのも仕方がないだろう。

 大魔熊に狙われたのはたぶん私のせいだ。


 実は予定よりかなり早い段階でエウリュアレの幻影魔法が解けてしまった。ラトレルさんの姿があらわな状態で進むのはとても危険すぎる。


 魔物除けと岩鳥の親鳥に見つかった時、ラトレルさんの盾になればいいと、私はヒグマに変幻して並走していた。


 先を急いでいた私たちは、茂みに隠れていた大魔熊に気がつかず、目の前を駆け抜けてしまったらしい。


 ありがたいことにラトレルさんとネコは眼中にないようで、大魔熊のターゲットは私だけ。


 縄張りの争いで大魔熊が威嚇しているのだとしたら、私が同じ熊の姿でなければ追いかけてはこなかったかもしれない。


「ラトレルさんは絶対に守るぞ」

「はい」

 私の声にネコが頷く。



 巨大な猛獣とのにらみ合いが始まった。立ち上がって咆哮を上げる大魔熊の方が私より大きい。これでもまだ若い熊だ。成体だったらもっと大きいはず。


 私も大魔熊に負けてたまるかと大声で吠えて威嚇する。立ち上がって臨戦状態をとったが、たぶんそれがいけなかった。


 体格差で大魔熊は自分の優位を確信したのだろう。一気に私との距離を詰めて前脚を振りあげる。これをまともに受けたら吹っ飛ぶ可能性が高い。

 ラトレルさんの盾でいるために、何としてもこらえなければ。


 ガツッ


 大魔熊が振り下ろした前脚が私の左肩に当たり大きな音をたてた。


 爪の当たった場所はえぐりとられたが、攻撃される瞬間に大魔熊へとネコが飛びついたおかげで、大魔熊がそちらに気を取られ、軌道がそれた。前脚がかすって肩は傷ついたが、まともにくらわなかったので私は何とか踏みとどまれた。


 やはり大魔熊は、同じ熊である私しか興味がないようで、自分をすり抜けるようにして地面に着地したネコには見向きもしない。

 もう一度私に向かって攻撃しようと両手を振りあげている。


 次はやばいかも、と思ったその瞬間、私の肩の上ギリギリを何かが通り過ぎた。


「ぐがあああああ」


 大魔熊は悲鳴を上げる。

 それもそのはず、鎖骨あたりに槍が刺さったのだから。


 ラトレルさんが大魔熊の隙を逃さず投擲したらしい。

 私という壁があるにも関わらずそれを的確によけて大魔熊に槍を突き刺した。たとえ私に痛みがないとしても、ラトレルさんは間違っても傷つけるようなまねはしないはず。

 ラトレルさんの技量に感心するばかりだ。


 痛みで前かがみになっていた大魔熊の顔に向かって、先ほどのお返しとばかりに私はできる限りの力をこめて前脚で一撃をくらわした。


 ラトレルさんの槍が効いていたこともあり、顔面へもろに打撃が入り大魔熊は左側に倒れこむ。


 これが通常の魔物狩りであればとどめを刺すまでやるのだが、今日は目的が違う。


 大魔熊が起き上がる前に急いで槍を回収してその場から逃げ出した。


 大魔熊の状態は、軽症ではないが致命傷でもない。

 魔物は攻撃性が強いものが多いので、怒りで再び追いかけてくる可能性もある。だから私たちは全力疾走で山を駆け抜けたのだった。


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