11 座敷わらし反省する
完全に男たちの姿が見えなくなってから、私はヒクイドリから姿を元にもどした。
十也に動物にも変幻ができることを説明すると初めは驚き「確かにそんなことは言ってたけどさ、いきなり過ぎるよ」と呆れられた。
最終的には私の能力について考えるのを止めたようだ。
「もう、訳がわからないから、そういう生き物だと思うことにする」
ボソッとつぶやく。
十也の左頬は桃髪に殴られたせいで赤く腫れあがっていてるが、手当ては無理だし、水もないので冷やすこさえできない。
「トウヤさん大丈夫ですか」
「うん、平気。ちょっと痛いけどね」
「すまん、あんな人間だと初めから気づいていればこんなことにはならなかった」
「しかたないよ。水や食べ物を分けてくれたし、僕だっていい人たちだと思っていたからね」
「急に態度が変わりましたからねぇ」
「そうだよね。そう言えば、ここってやっぱり魔法が使えるみたいだね。お楽の姿が消えたら上級魔法だって言っていた」
「確かに勘違いしていたな」
私の術が魔法だと認識されるのであれば、昨夜のようなことがあっても躊躇する必要がなくなる。力がない私たちにとっては朗報だ。
「ねえ、ところであの鳥は何?」
「ヒクイドリだ。十也が殴られたから蹴ってやろうと思ったんだが逃げられたな」
ヒクイドリの方は使役獣と呼んでいたので魔法とはカテゴリーが違うのかもしれないがこちらも有効そうだ。
「そうだったんだ。でも争いにならなくて良かったよ。剣を持ってる相手にどこまで対抗できたかわららないし。お楽が危なかったかもしれない」
「ああ、まだ何もわからないからな」
「本当に異世界なら、冒険者の能力って想像以上に強かったりするしさ」
「そうかもしれん」
「我も何かできればいいのですが」
「ネコちゃんもありがとう。僕がお肉につられたせいで、襲われる理由にされちゃってごめん。それに何も聞けなかった」
この世界で初めてあった人間だったのに、ほしい情報を得ることができなかった。
相手が悪すぎたが、十也が食事をしている最中に私が町の場所だけでも聞いておくべきだったと反省している。
ここから暗がりを移動してせっかく見つけた道がわからなくなるのも困るので、そのまま男たちが使っていた焚火の近くで休むことにした。
残っていた肉は今後のことも考えて、しっかり焼いてから持って行くことにする。私たちがこの焚火に気がついたように、遠くからも目につくかもしれない。
男たちが戻って来てまた襲われても困るので肉をすべて焼いてから火は念のため消すことにした。
「さすがに疲れた」
そう言った十也はその辺を足でならして石ころをどけた後、地面で横になった。そのまま寝ることにしたようだ。
夜が更けてから、見上げた空には欠けた青白い月が浮かんでいた。
元の世界では街の明るさが邪魔をしているため、見ることができないであろう小さな星までもが光輝き、空一面覆いつくしている。
そんな非日常的で幻想的な光景にも目をやる余裕がないほど、十也の疲労はたまってたのだろう。
私は今のところ力を温存する必要もなさそうだ。
転移してくる前は、夜になると十也の家のゲストルームを勝手に使って休眠状態になっていたが、さすがにこの世界では何があるかわからない。私は不寝番をすることにした。
ネコも私と同じで睡眠の必要がないので十也のそばで、あたりを警戒しながら夜を過ごすようだ。
これから朝まで何時間もある。
私には考えなければいけないことがてんこ盛りなので丁度いいだろう。
まず自分の犯した失態についてだ。偵察がおざなりだったために十也を危険な目に合わせてしまった。
男たちは多少悪人よりではあったが、最初の時点で不穏な気配はなかったと思う。
たぶん私たちを見た瞬間、男たちが変わった。状況によって人の心が変化するのであれば、普通に見える人間では、良い人間と悪い人間とを見分けることが難しい。
『やっちまわないのか』と言ったポニーテールの言葉に『貴族に手を出すのはやばい』と桃髪が返していた。
男たちの勘違いのおかげで十也が殺されずにすんだのなら、この世界は命の扱いが軽いのかもしれない。
現代日本にいた感覚でいると足元をすくわれそうだ。十也は早急に何か防衛方法を考えないとまずい。
「ここは危険にゃ場所にゃんですかねぇ」
十也の寝息が微かに聞こえ始めてからしばらくたっていた。ネコは十也が熟睡したことを確かめてから私に話しかけてきたようだ。
「そのようだな。私とネコは普通の人間相手だったらそうそう問題はないと思うが……」
「トウヤさんは大変かもしれませんねぇ」
二人の視線の先には十也がいる。
「元の世界に戻ることはできるんでしょうか」
「来ることができたのだから、帰ることもできるのではないか? 戻れないは十也の前では禁句だぞ。それとこれからは十也の安全が最優先だ」
「そうですね」
そう言えば、さっき十也が私を助けようとしたことで幸運量が増えていた。
さっそく十也に授けておこう。




