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105 座敷わらし、頼みごとをされる

 ――もうね、諦めて慣れるしかないと思うのだ。


 十也と夕食を終えてもどってみれば、ベッドの上にはネコを侍らせた童女のエウリュアレ様がいた。

 ドアを開けた時に十也と二人で凍りついたことは言うまでもない。今日は威圧感ある気配はまったくしなかった。


「うまく隠れている何者かの真似をしてみただけよ。気配を外に出さないよう自分の中に閉じ込めればいいだけで案外簡単だったわ」


 それが簡単にできるのは貴女様だけです。


「はあ、それで本日は何用でしょうか」


「フェルミを一緒に連れて行きなさいな」

「はい?」


「あの娘もそろそろ先を選択しなければいけない時期が迫っているの。もっと広い世界を見るべきだと思うわ。まずはリハビリも兼ねてその辺の山へ行くつもりだったけれど、フェルミ一人では町の外に出してもらえないのよ。わたくしを連れていたら尚更ね」


 もともとフェルミは十一歳ですでにDレベルの冒険者だった。痛ましい事件さえなければ今頃は宮使いの出仕もありえたという。

 今は農民として魔法とは無縁の農園で働いているがエウリュアレ様はそれを良しとはしていないらしい。


「隣町に行くのでしょう。そなたならフェルミも顔見知りであるし、あの娘ほどの魔力があれば足手纏いにはならないはずだわ。足りなければわたくしも戦力に数えてもらってよくってよ」


 戦力と言っても、実際エウリュアレ様は何ができるんだ? 聞いたところで能力を教えてくれるとは思えないが。


 私に否という選択肢はあるのだろうか。エウリュアレ様をチラッと見れば冷めた瞳で睨まれ、一瞬エウリュアレ様の本体が重なって見えたような気がした。


 応しかないらしい。


 ――ロックチョウの卵をとりに山の奥まで一緒にいくのははさすがに無理だが、Eランクの狩場であればラトレルさんがいなくても私がついていけば問題はないだろう。


 フェルミなら多少私が変なことをしたとしても見ぬふりをするだろうし。

 エウリュアレ様と付き合っているだけあって、あの娘はそういう賢さがあるように思う。


 十也は扉の前で立ち尽くしていたが、小さなエウリュアレ様ならわりと平気になったみたいだ。

 ネコは力がある者へ取り入るのが上手いから、すでにエウリュアレ様の取り巻きと化していた。


 エウリュアレ様が姿を消したあと、私たちはすぐにラトレルさんの部屋へ向かう。


 私が勝手に約束してしまったが、隣町へ行くメンバーの中で大人なのはラトレルさんひとりだけだ。

 責任が重くなるかもしれない。



「孤児院の院長に話してみるよ」

 やはり二つ返事で了承はされなかった。


 ここで約束を反故にした場合、私はどうなってしまうのだろうか。背中に悪寒が走る。十也を残して消滅するわけにはいかない。


 ラトレルさんがどうするかによって今後の選択が大きく変わってしまう。

 最悪ラトレルさんとはここで分かれることになるかもしれない。


 そんな心配をしながら膝を抱えて私は一晩明かした。


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