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01 座敷わらし、異世界へ

 私は日本で座敷わらしと呼ばれている妖怪。世界的に言えば妖精に分類される者だ。

 そんな名前がついている通り、この世に発生してから、そのほとんどを家の中で過ごしてきた。それなのに……。


「ここは……いったい……」


 私の目に映るのは、ほとんど何もない一面荒れ地だけの風景。

 そこに今、なぜかひとりでぽつんと立ち尽くしていた。



 気がつくと私は、何もない荒野のど真ん中にいた。

 右を見ても、左を見ても岩と砂ばかりで地面に申し訳程度の草が生えているだけ。遥か彼方に見える山と、上空に広がっている青い空を除けば、ほぼ灰色の世界だ。

 何が起こったのかわからないが、つい先ほどまで八畳ほどの洋室にベッドと机がある、いわゆる子ども部屋にいたのだから、元居た場所ではないことだけは確かだった。


 人間の精気を糧に存在してきた座敷わらしの私は、こんな人気のない場所で果たしていつまで姿を保つことができるのだろうか?


 目に映る寂れた景色を見ながら、一番最初に頭をかすめたのはそんな心配だった。


「うわ、ここどこ。僕、部屋に居たはずなのになんだよこれ。――君だれ?」


 突然うしろから声をかけられた私は、すぐさま振り向いて声の主を確認する。驚愕した表情で佇んでいたのは、私が住み着いている家の一人息子『太郎』だった。


 目を丸くしてこちらを見ているが、私だってびっくりしている。きっと私も太郎と同じような表情をしているのではないだろうか。


 あれ? そういえば、いま声をかけられたような……。


「太郎には私が見えるのか? おぉ!? 実体化してる」


 座敷わらしが存在するためには霊力が必要だ。それがほとんどなくなっていた私は、姿が地縛霊よりも薄くなっていたはず。

  そのせいで人間に気づかれることもなかったし、下手をすればそのまま消滅しまうのではないかと危惧していたほどだ。


 それがあろうことか霊体ではなく実体としてこの場に存在していた。


 いま起こっていることが信じられない。これまでの状況を顧みれば当然だろう。


 私は自分で自分の身体にペタペタさわって確かめた。

 太腿や胸をさすったり、腕を掴んだり、頬を押さえたりしてみる。間違いなく私の手には感触がある。


「どういうことだ?」


 分からないことだらけで頭が追い付いていかない。一体何が起こっている?


「太郎ってだれ? 何か知ってるの? もう何が何だかわかんないんだけど」


 腕を組んで考え事をしていた私は、その声で太郎に目をやる。

 頭を抱え、私に質問してくるくらいだから、太郎もこの状況に混乱しているのだろう。


「ふむ」


 ここに飛ばされる前、私は何をしていた? それを思い出してみれば真相に近づける気がする。


 振り返ってみれば、心当りはありすぎた。たぶん太郎が持っていた『チョコレート』のせいだと思う。


 太郎が食べていたチョコレートが美味しそうで、味見をしたかった私は、人に認識されていないため、独り言になってしまうことは承知の上でチョコレートを所望した。


 ところが、その声に、聞こえるはずのない太郎が、今日に限ってなぜか反応して返事をしたのだ。

 突然チョコレートという『供物』を捧げられた私は、なぜか急激に霊力が高まり、抑えることができなくなってしまった。


 そのせいで自覚のないまま、私の願望だった『冒険小説にあるような活気のある世界へ転移』してしまったのではないだろうか。


 しかし、見る限り活気とは正反対の場所だから、それもあてにならない……。


 この場所は目印になるものが何もないし、今の状況でここがどこなのか見当をつけることはとても難しい。もしかしたら私の知らない日本のどこかということもあり得る。


 考えれば考えるほど、わからなくなってきた。


 それに今まで太郎に私の声が届くことなど一度もなかった。一緒に転移してきたのも不可解だ。


 こんな場所でぽつんと二人っきり。これから私たちはどうしたらいいのだろうか?


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