2話
「ふーん…あの大神が一目惚れねぇ…」
高良は隣で真っ赤になる大神を信じられない思いで見つめた。
次の日、どこかよそよそしく、キョロキョロと周りばかりに気を取られている大神の姿に違和感を覚えた高良は何があったのかと詰め寄った。大神は意外とあっさり白状し、現在に至る。
「笑いたきゃ笑えよ…」
真っ赤になりながら俯く大神は、昨日年上の先輩を何人も返り討ちにした人物とは思えないほどだった。
「で、相手は?誰?」
「さぁ…」
「さぁって…名前も知らないのかよ…」
「お前以外、ほとんど知らねぇよ!!」
大神はそう叫んだが、その声はまるで怖くなかった。高良はパックジュースを飲み干し、遠く離れたゴミ箱へめがけて思いっきり投げる。
鷹なだけあって目がいい高良は見事に投げ入れて見せた。その時ふと思いつく。
「探してやろうか?」
「できんのか!?」
大神はその提案に一も二もなく食いついた。
「できるよ。なんせ俺は目がいいからなぁ。その子の特徴をよーーっく教えてくれ。」
「あ、ああ…」
大神は少し俯いて片手で顔を覆った。尻尾が嬉しそうにリズムよく左右に揺れる。
「その…白くて、ふわふわで…耳が長くて、垂れてた…たぶん、種族は、」
大神の言う人物に、高良は心当たりがあった。
「兎?ついでに目は青くなかったか?」
「知ってんのか?」
大神の尻尾がちぎれんばかりに加速した。
「知ってるも何も、有名だよ。レアカラーで超かわいい兎がいるって。ちょっと待ってな…たしか…」
高良は携帯を取り出して何やら探している風に画面をスクロールする。
大神は不思議そうにその光景を見つめていた。
「あったあった。ほら、この子だろ?」
そう言って見せられた画面には、ふんわりと笑顔を見せる彼女の姿が映し出されていた。
「そう!!そうそう!!!あいつだ、間違いない!」
高良ははぁ、とため息を吐いた。
「彼女の名前は宇佐美雪。俺らと同じ1年。種族は兎でレアカラー。見ての通りの容姿だ。人気は凄まじく、本人は知らないと思うがファンクラブまである。これはファンクラブのページ。」
「そう、だったのか…」
「問題は…性格だ。」
「性格?」
大神は尻尾を止めた。
「そう。酷く臆病で俺らみたいな肉食とは目も合わせられない。おまけに肉食が少しでも近づこうもんなら彼女の親友にローキックを食らう。」
「はぁ?」
「諦めるしかないね。そのうち熱も冷めるだろ。相手が悪すぎる。両想いどころか仲良くなるのすら難しいよ。」
大神は眉間にしわを寄せた。
「そんなの、やってみねぇとわからねぇだろ?」
「やめときなって。怖がられて、嫌われるだけだよ。」
そうは言われたが、大神の胸の高鳴りは止みそうにない。
また尻尾を勢いよく揺らしながら立ち上がった。
「よし。会いに行く。」
「へ?」
「今から草食のクラスに行くんだよ。話せなくても、一目見れればいい。」
「本気?草食のクラス委員に追っ払われるのがオチだって。」
「知るか。」
大神は高良を無視して軽い足取りで草食クラスに向かった。高良はやれやれとその後に続いた。