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8 顔合わせ ~安治~

「じゃ、安治君、あきちゃん、そろそろ行こうか」


舞子さんが仕事に戻ったので、僕たちも部長さんに会うために、第一食堂から部室に向かって歩き始めた。・・・はずなんだけど。


「こっちって、部室棟のある方向じゃないですよね。昨日入学案内の地図見てて気付いたんですけど、第一食堂から見て部室棟と第二食堂って逆方向なのに、なんで第二食堂の方が部室に近いのか疑問だったんですよ」

「ウチの部室は部室棟じゃなくて第三教員棟にあるからね」

「なんでそんなところに」

「あたしも詳しいことは知らないけど、この間の町江の話からすると、大学側と裏取引して部室を確保してるみたいだし、大学側からしたら、こっちの方が融通しやすかったんじゃないかな」

「うん、たぶんそう」


部室の場所が他と違うことも、サークルの存在が公になってないことと無関係じゃないんだろうな。


「部室の場所が秘密ってことは、出入りの際は人に見られないように気を付けたりするんですか?」

「いや、普通に出入りしてるよ。公表してないだけで、別に秘密ってわけでもないし。知ってる人は知ってるからね。まあ、あまり大勢で一度に出入りすることは、なるべくしないようにしてるくらいかな。良くも悪くも学内の有名人が多いからね」

「そうなんですか。ウチはてっきりエレベーターに乗って1階を3回と2階を2回押したりするもんかと・・・」

「お前はラノベの読みすぎじゃ。トト・ブックスか」

「ふふふ、ウチの部室は地下じゃなくて3階にあるわよ」

「安治君も、あきちゃんにツッコミ入れる時は、時々広島弁になるんだね」


美乃さん、サラッと「地下じゃなくて」とか言ったけど、それって元ネタ知ってるってことだよな。

それより、広島弁が出てたか。まあ、相手が広島弁使いの亀山だし、大阪弁に次いでツッコミに使いやすい方言だからな、広島弁って。(個人の感想です)


「もう一つ聞きたいことがあるんですけど」

「何かな?」

「『表彰台』ってなんですか」

「「「!?」」」


あれ、微妙な反応だな。


「あ、そうそう、ちょうどこの真上あたり、2階に第二食堂があるんだ」

「元々こっちには学生があまり来ないし、教授陣は見栄張ってお高い店に行く人が多いから、一般教養の先生や学部の講師陣を相手に細々と営業してたのよね」

「今は少し改善されて、学生も足を運ぶようになった」

「・・・あの、露骨に話題を変えようとしてません?」

「バレたか。まあ、別に黒歴史ってほどじゃないからいいんだけどさ」

「自分から言うのはちょっと恥ずかしいわよね」

「ウチの大学では、10月下旬くらいに学園祭があるんだけど、そこで毎年『極大人気者コンテスト』ってイベントをやっててね」

「ミスコンみたいなものですか?」

「昔はそういう趣旨のイベントだったらしいけど、昨今の風潮でいろいろいわれることが多かったみたいで・・・。今は年齢制限なし、既婚者もOK、開催要項にも『美しさだけを競うものではない』って書かれるように変わってるんだ」

「てことは『表彰台』って」

「そう、そのイベントの上位3人が表彰式で上がるのよ。男女別だから都合6人が表彰台に上がって、コメントするの」

「で、去年は2日目の中間発表まではさっき居た舞子さんが3位に付けてたんだけど」

「最終日の3日目に町江が前日の5位からごぼう抜きで一気にトップに躍り出て、舞子さんが4位に落ちて悔しがってた、って話よ」

「町江は最終日に別のイベントでも優勝して、1日に2回表彰台のてっぺんに立ったんだよね」

「あれがごぼう抜きの原動力だったわね」

「さっきから舞子さんと私のことばかり話してるけど」

「「ぎくっ!?」」

「美乃と和泉も2位と3位だったんだから、表彰台に上がってるよね」

「そ、そうね」

「まあ、そうだね」

「だったら自分達のことも話そうって気にならない?」

「よ、美乃が2位に入った原動力は、なんといっても『第二食堂出入り禁止事件』だよね」

「あ、こら和泉。あなただって『空手部撲滅事件』とか『柔道部殲滅事件』とか『ボクシング部根絶事件』とかあるでしょ」

「ボクシング部は1人だけだよ」

「それに『二食』に出入り禁止になったのは、わたしだけじゃなくて仁君も一緒よ」

「盛大に自爆している2人は置いておいて、去年はいろいろあって私達3人が表彰台を独占したわけ。入学案内の表紙もその影響」


表紙のモデルはそれで決まったのか。

でも、便利な言葉だな、「いろいろあって」って。


「じゃあ、舞子さんが3強を崩すのは厳しいって言ってた『3強』って・・・」

「あの人、そんなこと言ってたの?」

「たぶんあたし達のことだよね」

「まあ、そういうことなら、ディフェンディングチャンピオンとして舞子さんに胸を貸してあげましょうか」

「ディフェンディングチャンピオンは私」

「ちょっとした言葉のアヤでしょ!」

「なに? 町江、2連覇狙うつもり?」

「去年はちょっとやり過ぎて失敗した。今年は控えめにする」

「やり過ぎたって、やきそば?」

「そっちじゃない。ステマの方」

「「ステマ!?」」

「美乃と和泉が上位に入るのは分かってたし、私だけあまり下位に沈むとちょっとカッコ悪いから、5~7位くらいになるように調整したつもりだった」

「そんなことしてたのね」

「今明かされる衝撃の真実、ってやつだね。さあ、着いたよ。ここがウチの部室」

「みんなでゾロゾロ入って大丈夫なんですか?」

「ここに来るまで誰ともすれ違わなかったでしょ。普段から学生が少ない場所の上、今の時間帯は特に少ないから、ウロついている学生探す方が大変だよ。さあ入った入った」


和泉さんはドアを開け、「こんちわ〜」と言いながら入っていく。

あとに続いて「おじゃまします」と言いながら部屋に入ると、先に入った和泉さんを除いて4人の人物がそこにいた。


部屋は、2スパンの広さがあり、左側に長机が4つ、縦向きに2×2で配置され、その周りをいくつかの丸椅子やパイプ椅子が取り囲んでいる。その奥には校長室とかに似合いそうな重厚な感じの机がある。右手前にはソファセットがあり、その奥に本棚が背中合わせにふたつ、壁に対して垂直に置かれている。本棚の陰からシンクらしきものが覗いており、その横に割と大きな冷蔵庫がある。


「ようこそ極東大学秘密倶楽部、略して極大秘部に来てくれた。私がここの部長を務めている生川おいかわ貴、経済学部1回生だ」


奥の机に座っていた人が最初に口を開いた。顧問の先生かと思ったけど、この人が部長さんか。どう見ても三十過ぎに見えるんだけど、1回生ってことは学生なんだ。


「部長、やっぱりその略称使うのやめません?」

「しかし香君、『東大』と略すわけにはいかないだろう」

「いや、そっちやうてですね」


うん、そんな略し方したら、大阪は阪大だらけになってしまう。


「まあ、まずはサークルメンバーの自己紹介といこうじゃないか。下村君から順に頼むよ」

「工学部2回生の下村 久です。川口君だっけ? 君も工学部だって聞いてるんだけど」

「はい、そうです」

「同じ学部だし、教えてあげられることも多いと思うから、分からないことがあったら遠慮せずに聞いてね」

「ありがとうございます」


長机の左に座る、下村と名乗ったその男性は、爽やかなイケメンだった。


「今日はこの後、少し用事があるので付き合えないけど、マンションの方も気に入ってもらえると思うから、今後ともよろしく頼むよ」

「次はウチの番でええんかな? 商学部2回生の久山 香です。新人さん、特に麻雀があんまり強うない新人さんは大歓迎です」

「香さん、ぶっちゃけ過ぎ」

「ええやん、ウチ4回連続でファイナル出場中で、その内2回罰ゲーム食らってんねんで」


下村先輩の隣に座っている、さっき略称で部長さんにツッコミを入れていたお姉さんは、コテコテの関西弁を少し早口で話す、パワフルな感じがする人だった。


「僕かてファイナルは4回連続出場してます。っていうか、僕正式に参加してからファイナル皆勤賞ですやん。香さん以上に歓迎せな。社会学部1回生の豊野 ひとしです。でもできたら『ひとし』やのうて『じん』て呼んで下さい」


あ、この人は『子猫ちゃん』の人だ。


「そっちの3人の女の子と同期で、って、もう1人女の子いるやん! 誰?」

「この娘はもう1人の新人候補の亀山 あきさん。豊野のことが事前に知られて逃げられるといけないから内緒にしてた」

「なんで? なんで逃げるん? なあ川口君、キミは逃げたりせえへんよな?」

「僕も『子猫ちゃん』の動画を見た時はちょっと逃げたくなりました」

「ちょっと待って。『子猫ちゃん』の動画ってなに? 和泉ちゃん、あの時動画撮らんといてって頼んだよね?」

「あたしじゃないよ」

「ほな誰なん」

「動画を撮ったのは極東大学教務課」

「ああ、病気とかで欠席した学生のための配信サービスかいな。でもあれって専門課程の講義だけで、語学とかの一般教養は対象外のはずとちゃうん?」

「録画自体は全講義で実施されている」

「けど、それって一般には出回らへんはずやね。こんなことするのは・・・津本、お前しかおれへん!」

「黙秘権を行使する」

「そんなん『私がやりました』言うてるんと一緒やん」


豊野先輩が会話に加わると、一気に騒がしくなるな。天性のツッコミ体質みたいだ。


「だいぶ脱線したようだが、君達を連れてきた3名を含めたこの7名が、現在の陣容だ。次は君達の自己紹介をお願いできるかな」

「自己紹介はいいんですけど、入部が認められるかどうかの面談って聞いてたのに、もう入部が決まったような流れになってますよね。いいんですか?」

「人柄に関しては、和泉君達の見る目を信用してるからな」

「巨人ファン云々というのは?」

「巨人ファンなのかね?」

「特にどこのファンというのはありませんが、強いて言うなら中日ファンですかね」

「そっちのキミは?」

「ウチは広島ファンです」

「だったら問題ない。君達の方に入部をためらう理由がなければ、だけど」

「僕は特にありません」

「ウチは、なんか町江さんって方に嫌われとるみたいで・・・」

「別に嫌ってない。広島が気に食わないだけ」

「まあ、島根県民にとってはそうだろうね。滋賀県民にとっての京都府のようなものだ」

「滋賀県民にとって、京都府民は敵なんですか?」

「滋賀県が夏の甲子園で初勝利をあげたのは、第何回大会だと思う?」

「10回くらいですか?」

「最初の頃は出場校が少なかったから、もしかして30回目くらいまで勝てなかったんじゃ・・・」

「ちなみに滋賀県の高校の夏の甲子園()()()は第35回大会だ」

「「え!?」」

「昔は京津大会、京滋大会といって、京都府と一緒に地区大会が行われていたんだが、当時は京都府の方がレベルが高く、特に平安高校の全盛期などは目も当てられなかった」


まるで見てきたように言うな、この人。


「初出場の後も、記念大会で出場校が増える時くらいしか出場すらできず、初勝利をあげたのは、正式に1府県1代表制となった第61回大会だ」

「第61回・・・」

「まあ、平安高校に勝たないと甲子園に行けないのと、滋賀で一番になれば甲子園に行けるのとでは、モチベーションが全然違うだろうからな。1府県1代表制が決まってから、滋賀県のレベルは大幅にアップしたんだ。だが、それまでの長い年月、全国的に高校野球で盛り上がっている時に、テレビを点けても地元の学校は現れず、たまに現れたと思ったら完封負け。実際初勝利より前は0勝9敗だったんだが、9試合で失点が68に対して得点はわずかに3点。日本で一番盛り上がるスポーツイベントでこんな状態が続いたら、京都を恨みたくもなるだろう?」


うわあ、想像以上に悲惨だった。でも恨むなら京都じゃなくて高野連だよな。


「なので滋賀県では遅効性の毒薬を琵琶湖疏水に流すことで京都の弱体化を図ってきたのだ」

「「「いやいやいや」」」

「この方法なら、ついでに大阪も弱体化できる」

「あきませんて」


どこかの島根県民と同じ発想だな。


「まあ、冗談はさておき、なんの話だったかな? そうそう、町江君が広島を敵視するのは単なる県民性なので、気にする必要はない、ということが言いたかったんだ」

「ほんまですか?」

「うん、個人的に嫌ってるわけじゃない。むしろ大歓迎」

「そういうことでしたら、前向きに考えさせてもらいます」

「よし、それじゃ自己紹介の続きを、と思ったが、川口安治、大阪府出身、工学部。亀山あき、広島県出身、文学部。これだけ分かってるんだから、あとは質問コーナーにするか」

「あ、それいいですやん」

「じゃ、一人二問までってことで。よーい、始め」


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