結婚
雲一つない晴れた日になった。気温も穏やかで、暑くもなく寒くもなく。
結婚式は穏やかな日に行われた。
見届け人の前で結婚に関する書類に署名を行う。その後は結婚の報告を行う宴が行われた。
家族はもちろんのこと、その他にも沢山の人からお祝いの言葉を贈られた。
オーガスト様もイザベル様も参列していた。イザベル様はぎゅっと抱きしめてよかったわ、と泣いて喜んでくれた。
こんなにも穏やかな気持ちで結婚ができると思っていなかった。
婚約者がルシアン様でなくなり、アルフレッド様に代わって少し不安だった。長い時間をかけて築いてきた関係を、ほとんど知らない人と1年で築くなど無理だと思ったのだ。
でも時間なんて関係なくて。
お互いにどれだけ歩み寄ろうとするかなのだと知った。
勝手に不安に思ったり、聞けずに願うばかりでは駄目だと。
そう思えば、わたしはルシアン様に甘えっぱなしだったのだろう。勇気をもってレオナ様と向き合えていたら、もしかしたら相談してもいいと思ってもらえたかもしれない。
辛い経験だったけど、今はもうルシアン様を思ってもさほど胸も痛まない。ただ彼も幸せになってもらえたらなと今では思う。
化粧直しに控室に戻れば、聖獣様が待っていた。
聖獣様は大きな姿でのっそりと歩いてきた。こうしてみれば、聖獣様は本当に大きい。四つ足でもわたしの腰の位置まで体高はある。大きな3つの尻尾が揺れていた。
『おめでとう』
「ありがとう」
みっともないところを沢山見せて、アルフレッド様についても散々相談した。聖獣様には頼りっぱなしだ。
『あの男とは幸せになれそうか』
「まだまだ十分な愛ではないかもしれないけど、大丈夫よ」
アルフレッド様とはずっと一緒にいたい。
結婚して、子供を産んで、家族になって。
毎日を丁寧に重ねることで、愛の色も変わってくるのだと信じたい。
『そうか。それならよかった』
「聖獣様?」
『私はこれで休むことにする』
驚いて目を見開けば、ぼんやりと輪郭が滲んでいく。徐々に形が崩れていくのを止めようと慌てて手を伸ばした。
「待って!」
『何かあったら、奇跡の種を植えろ』
「戻ってしまうの?」
『願いを叶えるまで。それが決まりだ』
ふわりと光が強く光ったと思ったら、その場から聖獣様が消えた。
手のひらには卵のようなつるんとした表面の種。
それをぎゅっと握りしめた。
「ありがとう」
聞こえているかわからないけど、『奇跡の種』にそっとお礼を告げた。
Fin.