呪具箱
前作の、被害者の視点のお話です。
年末の大掃除で本家実家の蔵の掃除をしていた。
他の親族の男衆と3人で蔵を開けて空気を入れた。
何となく、埃っぽさの中に生臭さを感じた気がする。
壺等、様々な物が収められた木箱を庭に並べていく。
その中で、一つ周囲と違う木箱が棚に見えて手に取った。
手に取ると漆塗りの箱がむき出し。
不思議に思った所で、唐突に手に手を重ねられた。
ギョッとしてその手を見ると、真っ白いく皺だらけの手が自分の手の上から箱を掴む。
血の気が引く、と言うのか寒気がし始めた。
不気味な感覚に驚いた後、視界がブレた。
お面を被った時の視界に近い感覚。
変な感覚。
外から感情が流れ込んでくる。
悲しいとか、悔しいとか、許せないとか。
端的に言うと交じり合った嘆き、の様に感じた。
悲しくて悲しくて、涙が出る。
自分の感情じゃない。
他人の感情で泣くと言うのはうまく説明できない。
滲んだ視界のまま、箱を持ったまま蔵を出て、庭を渡り、門を出て、道路歩いていた。
今思うと全部に違和感を覚えるはずが、その時には微塵も不思議に思わなかった。
視界がグルグルと回っていて酔いそうだ。
微かに痛みを感じる気がするが、どうしてか“遠い”と感じる。
それでも少しずつ冷静になっていく自分を認識する。
微痛が足から来ているのが分かった。
ここでようやく怖いと感じ始めたのは、自分がどこかおかしいのではないか?と思う。
時間感覚が無い。
自分がどれだけ歩いたかも分からない。
気が付くと杖を突いた男が目の前に居た。
何か喋ってる様だが聞き取れない。
ただ、その男は不快だった。
恐怖とか忌避感が流れてくる。
自分が自分じゃない世界に突然音がした。
獣の鳴き声の様な音が遠くから聞こえた。
直後に全身から力が抜けた。
突然、脱力感と疲労感が圧し掛かってくる様だった。
その男は平然と箱を握りながら色々と話しかけてきた。
欲しいと言うので、その恐ろしい箱はそのまま譲る事。
そして十分とか、その位して救急車が現れて病院に運ばれた。
診察の結果、過労と手の擦り傷だけだったので、家族に迎えに来てもらって帰宅した。
後日渡された名刺の番号に電話をしてその時の事を聞かれたので出来るだけ詳しく説明すると、男は「古い、曰くつきのモノで処分した」との事だった。
蔵にあんなヤバい物が在るとは思わなかったし、他にないかが不安になって、調べてもらえないか? と聞いてみた。
「今忙しいので、しばらく先に成りますが」と。
他にも色々言われたが、怖く、不思議な出来事だった。




