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懐かれる

 最近お話する様に成った好きな物書きさんの話を読んで思い出したお話。


 午後七時、交通量の多い幹線道路。

 仕事終わりに車に戻る自分の視界に一匹の猫の姿。

「おいおい、無理だろ、止めろって」

 そう思わず口から独り言が溢れるのとほぼ同時にその猫は走り出した。

 そして、予想通りの結末を迎えた。

 猫を撥ねたタクシーは減速したが直ぐに加速して走り去った。


 やるせない気持ちに成り、そのまま放置して見なかった事には出来ず、信号が赤の内に駆け寄った。

 猫に駆け寄ったのは自分だけで無く、若い女性も一人居た。

 可哀想な姿の猫を見下ろして躊躇う女性に着ていたジャケットを預けて、息絶えた猫をYシャツで繰るんで歩道に戻った。


 思わず連れ帰ったがどうしたものか、そんな事を考えているとその女性が初めて口を開いた。

「その子、どうするんですか?」

 正直考えて無かったが、歩道に放置は出来ない。

「埋めてあげないと」

 そう短く応えて、取り敢えず自分の車に向かう。

「あの、私も一緒に良いですか?手伝いますから」

「いや、車で埋めれる所を探すから」

「お願いします、私ずっと気になってて。助けられなかったし……」

 一度溜め息を吐いて了承した。

 車を走らせて近所を回ると公園を見付けた。


 車を路駐して、猫を抱いて公園の中の木の根元に埋める。

 迫るヘッドライトは怖かったろう。

 撥ねられて痛かったろう。

 もう怖がらずに眠れる事を祈って手を合わせた。

 血でドロドロに成った両腕を公園の水道で洗い流して、その女性を駅まで送ってから帰った。


 その日から時折、猫の鳴き声を耳にする機会が増えた。

 失恋で気落ちしていると度々「ニャー」と。

 何となくあの時の猫だろうと思った。

 犬は怖いが猫は嫌いじゃない。

 飽きるまで好きにさせて置こう。

 都市伝説だか怪談だかで、助けようとしたが助からなかった猫に怨まれた話を思い出すが、今回は怨まれはしなかったらしい。

 そんな距離感と関係は管狐と縁を結ぶまで続いた。


「その後どうなったの?」

 Nやんの珍しく柔らかい話に後を聞いてみた。

「ん? その女性が俺のストーカーに成った。ちゃんちゃん」

 待って? なんでそんなに変な人を集めるの? 貴方は。

 この人の女難は筋金入りらしい。

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