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夢見

「最近どうしたの?」

「ん? なにが?」

 ここ最近、Nやんの話が妙に怪談から外れてる気がして、訊ねてみる。

「なんか最近オカルトって言うか、あっち側にどっぷりなんじゃない? って気がして……」

「そうだな……、確かにそうだな」


 夢を見た。

 脈絡の無い夢を。

 二つのすべき事が有る。

 一つ、ある人に知りうる身を護る術を全て教える事。

 一つ、己が魂を羅刹女に喰われない様にする事。

 その為の段取りを組む必要が有る。

 神降ろしの巫女との接触もその下準備だった。

 自身を供物にされない為に、別の供物を用意してご機嫌伺きげんうかがいをした。

 つまりは神様の接待だ。

 その結果、気に入られはしたが、縁が結ばれた。

 縁が結ばれた日の夜、夢を見た。


 俯瞰で見下ろす形の夢。

 大きな口に放り込まれ転落し続けた。

 ボチャンと水面に叩き付けられて沈んでいく。

 暫く間を置いて血生臭い水中を溺れている。

 暗闇で、ただ広い空間だと言う事だけが分かる、壁や何かに隔たれた様には見えない。

 その暗闇の底から、血まみれで薄い膜を引き裂いて現在よりも歳若としわかの自分が這い出る夢を。

 満たされた血に溺れている感覚。

 漸く呼吸が出来たと感じる程の息苦しさ。

 視界が開ける様に目の前がハッキリ見えた所で俯瞰が主観に切り替わる。

 そして目が覚めた。


 目が覚めて最初に考えたのは自分が何から這い出たのか、だった。

 そして、歳若と言うか明らかに二十歳は若返ったと言うか、二十歳の頃の自分の顔位は覚えている。

 人間はどう頑張っても若返る事は無い。

 では、あれはどう言う事なのだろう?

 結局、仕事をしながらもその夢の事が気に成ってモヤモヤと時間を過ごしてしまった。


 縁は切れない糸の様なものだ。

 ただ、その糸にも種類が有る。

 身の外側に張り付けられた糸と魂に括りつけられた糸。

 正確には、魂の端っこを掴まれて、自分の魂が細い糸の様に伸ばされて手繰り寄せられる様な。


 正直に言えば分からない。

 トランス状態に入った詐欺師か、解離性同一症の可能性、そして本物。

 分からないが、俺が荼枳尼天と細い縁が結ばれていた事を言い当てられた。

 これは怖かった。

 コールドリーディングの域を超えている。

 だからと言って百%本物だと断言も出来ないが。

 ただ、この夢がそれらの影響で作られた、とも断言しにくい物が有る。

 夢は本質的には記憶の整理だ。

 しかし俺は血の海から立ち上がった事は流石に無いし、奇妙な膜を手で引き裂いて這い出た事も無い。

 つまり、記憶の整理とは別質の物に感じられる。

 誰かの夢と繋がった『夢渡ゆめわたり』とも違う。

 夢と違う世界が繋がった、とも違う気がする。

 未来が分岐した、その瞬間を感知した様な。

 どうにも不確かで、捉え処の無い夢だった。


「って夢を見てな」

 Nやんはそう困惑混じりに笑った。

「結局それって何の夢だったの?」

 Nやんの話としては特にフワフワとした話に首を傾げた。

「さあ? 俺に解る訳がない。まあ、予想はしてるけど……どうなんだろうな?」

 なんだか、言葉にするのを躊躇うように濁された。

 この人は何を見て、何を感知して、そしてどこに行くのだろう?

 私とは違う法則を見ている様な気がして、少し怖くなった。


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