呪具
Nやんから聞いた話です。
日が傾き始めた逢魔ヶ時、Nやんと待ち合わせをして喫茶店に入る。
ピアノのBGMが心地良い店内の窓際に陣取った。
「Nやん、最近見たアニメでね? 特級呪物とか特級呪具とかって単語が出て、オドロオドロシイ描写で描かれてたんだけど、あんなのって本当に有るの?」
「それって呪術〇戦の話か? どうかな? 呪物の方はあまり見た事が無いから何とも。呪具に関してはまあ、有るだろうな」
一度首をひねって、苦笑しながらNやんは首肯した。
「例えは例えば? どんな物が有るの?」
「有名な所だと刀、特に太刀に多いと思う。後は弓なんかも有名か。弦を弾いた音には退魔の効果が有るとされてるな。乱暴に言ってしまえば幽霊や妖怪を撃退した逸話が有れば有る程強力に成っていく傾向は有るな」
「Nやんは何か持ってるの?」
「まあ、特級とは言わないがな?」
そう言うと、Nやんは語りだした。
「お届け物でーす」
唐突に友人の住職が玄関に現れた。
元々脈絡の無い人物では有るが、今回も面白い登場の仕方だと思う。
ドアを開けて招き入れると住職は一本の木材を片手に下げていた。
お茶を出してから取り合えず聞いてみる。
「その棒は杖、じゃないよな?」
「違うよ、Nやんにお守りに渡そうと思って」
そう言って手渡された。
全体を回し見て形状を確認する。
「散杖――ではないよな? 確か先端に蓮の絵が彫り込まれてるんだったか?」
そう言うと友人は苦笑して口を開く。
「Nやんのその知識って普通の仏教徒でも知らない人が多いと思うんだけど? これは護摩壇の支柱の一本。何年か置きに組み直すんだけど、その時の支柱は良い魔除けに成るから」
俺の足に爪を立てているのを指しているのは明らかだった。
「私も先生も引き剥がすのは無理。根本的な解決が不可能なら、対処療法的になにか手は無いかって話だけど、えっとNやんの叔父叔母からの邪気を薄めるしか思い浮かばなかった」
手の中の白木の棒に視線を落とす。
「かなりの貴重品って事か。で? 使い方は? 持ち歩けば良いのか?」
「いや、一日一回、右回り三回左回り三回、回す時に真言を唱える」
「それで邪気払いをしていく、と?」
使用用途を問うと友人は頷いた。
つまり、迦楼羅炎と同等の効果を再現出来ると言う事。
火種が無ければ出来ない事を、この柱が有れば出来ると言う事に戦慄を覚える。
試しに一度使ってみると微かにその場の温度が上がった気配が有った。
視認不能なナニかが生じた気配だけがする。
ただ、そもそもこの細い柱その物に強い力が感じられないのが不思議だ。
柱その物が破邪の道具ではなく、破邪の力を引き出す鍵でしか無い、と言う感じか。
呪具としての存在感は薄い割に効果が高い、そんな物も有るのだと感心する。
「へ~、面白いね。でも私、Nやんがソレを使ってる所見た事無いよ?」
興味深い話に何度も頷きながら、気に成った点を私は口にした。
「いやいや、霊能者じゃないんだからあんなの持ち歩かないさ、中途半端に邪魔だ」
確かにカバンには収まらないだろうし、何かケースを用意する程大きくも無い様だし、面倒臭いと言う感じかも知れない。
「でも、今度見せてね?」
「良いけど、本当に唯の棒だぞ?」
一見、何の変哲も無い物がモノとしての面を隠しているのが面白い。
興味をそそる、ソレを目にするのが待ち遠しかった。




