願いと代償
Nやんから聞いた話です。
スマホから聞こえるNやんの声は力無く、なんと言うのだろう衰弱を連想させた。
「Nやん、どうかしたの?」
「ああ、ちょっと疲れたと言うか、根こそぎ持ってかれたと言うか……」
普段と違って歯切れ悪く、ポツポツと語りだした。
令和三年の年始。
それは突然起きた。
勤務中、何の前兆も無く意識が飛んだ。
いや、一瞬胸元が熱かった様な気がした、位か。
――次に気が付いた時には病院だった。
医者からの説明だと、突然昏倒した俺に同僚が付き添って救急車に乗せられ病院に緊急搬送されたのだと。
家族を呼ばれ、一通り検査が行われたが異常が無い。
臓器も正常に活動しているし、血液の数値も昏倒に至る様な異常な物では無かった。
ただ、意識が戻らない為にそのまま入院と成った、と説明された。
そんな説明を受ける間、異常はないと言われてはいるのだが強烈な倦怠感と眠気と、何よりも声の出が悪い。
ただ、健康状態と言うか、なにか死にそうな感覚も無い為に安堵した。
原因不明なのが気にはなるが。
医者は“おそらく過労でしょう、年末ですしね”と患者を安心させるための笑顔を浮かべて、明日には退院出来る旨を告げて病室を出て行った。
会話が終わった所で意識が途切れる様にして寝入る。
それから看護師さんに起こされるまで一度も起きる事無く熟睡をしていたらしく、そのまま退院の手続きを行った。
力の入らない体を引きずって自宅に戻り、再び泥の沈み込む様な感覚と共に意識を手放した。
翌日、目を覚まして全身の倦怠感は多少緩和されていたが、それでも思うように動けないで居た。
働く様になった頭で状況を整理してみる事にした。
まずこの倦怠感は病気を含む身体的異常では無さそうだ、と言う事。
感覚的に表すと“体の中身が抜け落ちてスカスカしている”そんな感覚。
この感覚は以前に何度も経験している。
つまり、体内の気と呼ばれるナニかが抜け落ちている、と言う事だ。
その上で意識を失った時に思い当たる出来事も無かった事から消去法で答えが出る。
管狐に大量に抜かれた、と。
名前を付けた―秘匿情報―縁を結んだ管狐がそれだけの力を必要とする何かが起きたと言う事だろう。
そして今でも力が吸われている事から平常運転中だと言う事も解る。
無事、危険は回避出来たのだと思うと安堵する。
最も、こちら側の状況は完全無視なので、万事問題なしとは言いにくいのだが。
それでも、管狐が頑張ってくれたのが実感として分かるのには満足している。
「どうか、これからもお幸せに……」
ただただ、そう心から想うのだった。
「って感じでなぁ……」
Nやんからの説明に溜息が漏れる。
この人は何と言うのか、自虐的と言うか自己犠牲型だと思うとどうにも遣る瀬無い。
「Nやん、それいつまで続けるつもりなの?」
不健全な状況に思わず否定的な響きの声が出た。
「さて、まあなんだ、愛が死ぬまで、かな?」
そう言ってスマホの向こう側で小さく笑っているのが伝わってくる。
本当に、バカな人だと思う。
本当に。
あけましておめでとうございます。
本年も、どうかよろしくお願いいたします。
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