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山もしくは森の精霊

 Nやんから聞いた話です。


「神様、妖怪、幽霊と話を聞いたけど、他に何か面白いお話ってある?」

 今までNやんから聞いたお話とは別のベクトルのお話が無いかを聞いてみる。

 Nやんはしばらく悩んでる様に目を閉じて考えこむ。

「神様、妖怪、幽霊以外って妖精か精霊って話か? ってか妖精と妖怪の違いってなんなんだろうな?」

「可愛いのが妖精で気持ち悪いのが妖怪?」

「それ、妖怪が聞いたら気を悪くするぞ?」

 そう言ってNやんは苦笑しながら私をたしなめる。

 確かに、妖怪の中にも可愛い妖怪も居るだろうし、気持ちの悪い妖精も居る気もする。

「まあ、そもそもあやかしの類なんて滅多に見ないんだがな?」

「そうなんだ?」

 少し意外な様な、少し納得出来る様な話では有るけど。

「精霊なんてほぼ視た事無いしな」

「ほぼ?」

「ほぼ」

 ほぼと言う事は“多少は有る”と言う事だ。

 今日はそのあたりの話を教えてもらうとする。


 車で二時間。

 お気に入りの温泉に夜中一人でひた走る。

 東北道を北上し、栃木県に入る。

 秋の夜はそれなりに肌寒い。

 山道の入り口で車を寄せて、一度車外に出る。

 紅葉にはまだ早い時期、緑が弱くなる時期。

 連なる木々と山全体を仰ぎ見る。

 馴染みの温泉が有る山は機嫌の良し悪しが露骨に出るから困ってしまう。

 特に週明けや連休明けは山の機嫌が悪い事が多い。

「今日は……、良くも悪くも無い。いや、良い方か?」

 高速を降りて山に差し掛かった所で一度観察をしてみると、拒絶の雰囲気は無かった。

 これなら山に入れる、もしくは湯に浸かれると感じた。

 山の機嫌が悪い時には、立ち入るのもはばかられると言うのか、拒絶の神意に腰が引けて退散した事が数回ある。

 拒絶とはいかないまでも、虫の居所が悪いと温泉までの体感距離が倍近くなる事も有る。

 都心部から数時間の距離なのに、そんな神の息吹を体感出来る、そんな山。

 ある意味で貴重な話では有る。

 神話と今日が真っすぐ繋がっている事を感じて笑みがこぼれる。


 車を停めて、街頭も無い山道を入っていく。

 月明りを頼りに緩やかな道を上っていくと複数の妙な気配を感じる。

 山鳩や四つ足とも幽霊とも違う、曖昧な感覚に首をかしげる。

「地仙……でも無い、もっと自然な感じ……なんだ?」

 そもそも、神と仙人と妖怪とは何だろうか?

 立ち止まって考えていても仕方がない、と歩みを進めて目的地に向かう。

 木々に遮られてはいるが、所々から月明りに照らされる賛同を進んでいくと湧き水の小川の脇に建物が見えてくる。

 お目当ての野天温泉に到着して小さく溜息をついた瞬間にまた気配を感じて振り返る。

 物音もさせず、淡い存在感を放つナニか。

「悪いモノじゃないんだろうが……、ん?」

 根本的におかしい。

 物音もしないのに気配ってなんだ?

 幽霊には特有の臭いが有る。

 害が強ければ強いほど臭いもキツイ。

 でも、この気配には臭いが無い。

 いや、少しだけ土の匂いが強い気がする。

 何度も来た事が有る、何度も嗅いだ事の有る腐葉土と苔の匂い。

 山の匂いが今日は強い。

「ああ、そうか……。森の精霊なのか……」

 気配のする方向を見据えて、頭の中の瞼を開く。

 霊的な害意を感じた時以外には開かない様にしている瞼を。


 月明りが強くなった、訳じゃない。

 夜闇には変わりは無いのに、微かに月明りが強くなった気がする。

 黒い。

 細い四肢。

 不釣り合いに大きい頭。

 鼻も口も無い。

 その分大きな二つの眼。

「あ~、木魂ほど可愛くないなぁ……」

 気持ちが悪いとかグロテスクとまでは言わないが、愛らしさは無い。

 一体が視えると、周囲にちらほらと似た様なモノが居る。

「これは……興味、か? 俺が山に悪さしないかを見ている? でも監視って感じでも無いか」

 多分、山に悪さをしたら即座に山の神様に伝える役目でも帯びてるのだろうか?

 いや、木魂は山の神様の監視カメラみたいなモノか?

 精霊の精神構造なんて分からないが、色々と希薄な感じがする。

 ああ、そうか。

 木魂を含めて山の神、なのかも知れないな。

 そう認識すると体から緊張が抜けた。


「まさか精霊と遭遇するとは思わなかったわ……」

 Nやんはそう呟いて珈琲の最後の一口を呷る。

 冷めて苦くなったのか、眉をしかめて話は終わった。

 うん、可愛くないなら木魂は別に見たくないかな?

 私は素直にそう思った。


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