黒くてオオキイ者
これは多分10年位前だったと思う。
その日私は親しい友人と四人でドライブに出ていた。
四人共霊感的な物を強弱は有っても持ち合わせた、オカルトマニア。
運転は最年長のNやん、助手席にK、後部座席にRと私。
その日はみんなで八王子に遊びに行った。
とは言っても目的地が有る訳でも無く、話題に出た怪談に似た所にNやんが車を進めただけだけど。
八王子の城跡周辺を一周して怪談をしながら楽しくドライブをしてた。
途中Kが不思議体験をして三人で慌てたり色々有ったが、特に怖い事は起きなかった。
「そろそろ戻ろうか」
Nやんが言うので名残惜しいが帰る事に。
住宅地に迷い込んでしまい、Uターンをしようと車が減速した瞬間に悪寒が走る。
隣のRも息を飲んでいる。
助手席のKが低く唸り、Nやんは強張った顔で前方を凝視している。
車の前方20m位先にそれは居た。
電信柱の影からそれはのそりと姿を現した。
何か分からない、黒くて大きいモノが。
Nやんは車を静かに止め、車のライトを消して逃げ込める路地を探しているのが分かる。
Nやんはゆっくりと、黒いモノに悟られない様に、静かに車をUターンさせてその場を離れた。
物凄い勢いで、しかも無灯火で住宅地を抜けて国道に出て猛スピードで逃げだした。
その間もNやんは片手で印を結び、何かを念仏かな?をブツブツと唱えながら運転していた。
20分位車を走らせて、とある市街地の大きい神社の前に強引に車を止めるとNやんが「鳥居を潜れ!」と叫んで全員で車を飛び下りて境内に逃げ込んだ。
転がる様に鳥居を潜ってようやく安堵したのを覚えている。
四人共地面に腰が抜けた様に座り込んで身震いをしている。
それから私達が見た物が何なのかを話し合った。
それぞれ見え方が違い整合性も取れないのだが、取り敢えず羅列してみる。
私達が見た物は黒くて大きいモノだった。
私には2m位の黒い輪郭の無い何かに見え、Rには見えてはなかったが恐ろしいモノが居ると感じたそうだ。
Kは黒い、ボディービルダーみたいな、でも人じゃない物が見えていたと言う。
Nやんにはハッキリと見えていたらしく、曰く、
「背中を丸めた2m超のマッチョな黒い鬼」が見えていたと。
「至近距離で野生の虎を遭遇したらあんな感じなのだろうか?」とも「目が合ったら、それだけで心臓止まるかも……」とも。
私は虎は連想しなかったが、あのまま逃げ出せなかったら死んでいたと思う位には怖かった。
短くて、何が怖かったのか伝わりづらいとは思うけど、明確に死を意識させるモノが居る事を書きたかったんだ。
あれがNやんの言う通りの鬼なのかは分からないけど、妖怪とか怪異は幽霊とは別枠として存在するみたい……。
私達はあれから八王子方面には一度も寄り付かなくなりました。
だって怖いもん……。