場の記憶
Nやんから聞いた話です。
「自殺を繰り返す怪談ってあるでしょ? あれってなんで繰り返すのかな? 何度も死ぬって辛くないのかな?」
「ん~、何度も死ぬのは辛いと思うんだが、お前さんが言ってるのってどのパターンなのかが微妙なんだよな」
「え? パターンって何?」
「つまり、繰り返し飛び降りる霊と、毎晩首を吊る霊って同じループなのかな? って話」
「ごめん、全然分からない」
Nやんの疑問点と私の疑問が繋がってるのかが分からなくて首を傾げた。
良く分かっていない私の顔を見て、Nやんは話し始めた。
真向いのマンションは有名な自殺マンションで、毎日同じ人が飛び降りるのが窓から見える。
そんな相談を友人から受けた。
四流の俺にどうしろと言うのかと思うが、まあ見に行かないと相手も納得しないだろうし、しつこいので諦めて出向く事にした。
都内某所のマンションに訪れて、友人の部屋の窓から向かいのマンションを眺めていると、確かに人影が屋上から落下したのが見えた。
「あれを繰り返すんだよ……」
友人の言葉に眉をひそめていると屋上に人影が現れて、そして落ちた。
物凄くスムーズに身を投げ出して、落ち、そして再び屋上に人影が現れる。
何度か繰り返した所でその現象は止んだ。
念の為、どれかが本当の投身自殺じゃないかを確認しに向かいのマンションに行ったが、その痕跡は見つからず安堵した。
「取り敢えず、向こうのマンションの現象でお前が出来る事は無いな。諦めて引っ越しをお勧めする。後、何の慰めにも成らないがお前さんには何の影響も無いよ」
可哀そうだがどうにも出来ないので、感じた事をありのまま伝えた。
一点、そこに幽霊の気配は一切感じられ無かった事は除いて。
曰く付き物件に住んでいる別の友人から相談を受けた。
本人も事故物件だとは聞いてはいたが幽霊が出る等の話は無かったと言う不動産屋の言葉を信じて移り住み、毎晩悩まされているとの事。
断りずらいSOSに仕方が無く応じて友人の部屋に向かった。
その部屋は洋室のデザインなのに何故か梁が有り、その梁に照明が付いていて小洒落た部屋だった。
問題はその梁からぶら下がっている幽霊なのだが。
仕方が無いのでスツールをその幽霊の足元に置いて、その上に剣山を十数個置いてみる。
丁度足を置ける高さの椅子。
でも足を置くと剣山を踏みつける事に成る。
暫くその幽霊の表情を見ていると苦悶と苦渋が入り混じっていた。
「取り敢えず、これこのまま暫く触らないでおけ」
数日後、その友人からは首つりの幽霊は出なくなったと報告があり感謝された。
まあ、感謝はされたが冷血漢と言うありがたくない評価も貰った訳だが。
また、こんな話もある。
全焼したアパートの跡地に新築のマンションが建った。
マンションの一回はエントランスと管理室があり、部屋は二階から。
そんな二階で呻き声が聞こえると言う怪談。
アパートで首つりの幽霊出ると有名な場所が取り壊されて、オフィスビルが新たに建った。
オフィスビルではその霊は一度も出ていないらしい。
「共通点なんて有るの?」
「有るのかな? 何となくなんだけどな、間取りが違うと幽霊が出なくなるパターンと、同じ事を繰り返すパターンと、何が違うんだろうな?」
「え? 間取りが違うと出なくなる物なの?」
「さあ? でも高さ的に無理なら幽霊も繰り返さないって事も有るんじゃないか? もしくはそもそも幽霊じゃない事も有りそうだし」
「幽霊じゃないのに死に続けるって何?」
「さて、場の記憶とか土地の記憶とか言う言葉も有るしな。記憶ってそもそも幽霊ですら無い気がするんだよな」
「前に言ってた、石の記憶とかと同じ話?」
「まあ、それに近いな。結論は出せないが、な? 俺にはこの世のすべての霊が見える程目は良く無い、見鬼を名乗れるほどの才も無い」
そう言って自嘲気味にNやんは笑った。
この人は自分で四流と名乗っているが、やっぱり多少のコンプレックスは有るのだろうと感じた。
同時に、その才能が有ったとして良い事だとは誰にも言い切れないとも思うけれど。




