心霊映像
Nやんとの酒の席での話です。
「ねえ、Nやん。心霊写真って有るじゃない? 幽霊ってあまり動画に映り込む印象が無いんだけど、なんでかな?」
最近は心霊写真と言う物があまり話題に成らない事が気になって聞いてみた。
加工技術が上がって偽物と本物の区別が付かなくなって取り上げられなくなった、なんて聞く事も有るけれど。
実際の所を聞いてみた。
「さて、幽霊も動画に映り込む事は有ると思うよ? 手元に在る訳では無いけど、昔俺も撮れた事が有るし」
「え? 本当に? どんなどんな?」
「伏見稲荷って知ってると思うけど、千本鳥居で撮れた事が有るんだよ」
そう言うとNやんは語り出した。
俺は霊媒体質のAと二人で京都に遊びに行った。
京都内の色々な寺院仏閣を巡り、観光を楽しみつつ共通の趣味のオカルト系のスポットにも行き、丑の刻参りの発祥の地で怖い物を見ての帰り道。
車を走らせて二人は伏見稲荷の千本鳥居を見に行く事にした。
「やっぱりこれだけ有ると壮観だね~」
千本鳥居の内部に入るとほぼ隙間なく連なる鳥居の朱色で視界が赤く染まった。
「目がチカチカするな、ここまで赤いと」
Aはおもむろにデジカメを取り出して写真を数枚と動画を撮り始める。
前を歩くAが横に動いたのか、映像がズレてそしてそのまま進んでいく。
後方の俺も思わず横に避ける。
本殿でお参りをし、一しきり伏見稲荷を観光して帰宅する。
帰りの道中にもバタバタと怖い思いもしたが、それは別件で書く事に成ると思う。
帰宅して数日が経った頃、Aから俺は呼び出された。
伏見稲荷での写真と動画を見て欲しいとの事だった。
モニターに映し出された写真を順々に見るがそこに映るのは記憶に有るのと同じ一面朱色の鳥居のトンネルだった。
「ん? 特に違和感は無いけど……、何か映ってるのか?」
「ああ、Nやんは見えなかったか」
「そりゃ、俺の見鬼の才は低いからなぁ」
俺には写真に写り込んだらしい霊の姿は認識出来なかった。
「うん、まあ良いや。問題は動画の方でね」
そう言うとAは一分ほどの動画を再生した。
鳥居のトンネルを歩き、奥まで進んでいくだけの動画。
他に誰も移り込まない静かな映像。
「そう言えば、伏見稲荷は人が沢山居たのに、千本鳥居は人が居なかった、様な? ん?」
不思議そうに呟いた所で声が上擦る。
画面に違和感を覚えた。
「なあ、この透明な人の輪郭――なに?」
俺の違和感は画面中央。
鳥居の奥からゆっくりと歩いてくる透明な人影。
腕を振り、脚を上げて極々自然に歩く、透明なヒトガタ。
「わかんない。だからNやんにも見てほしかったんだけど」
「この時、人とすれ違わなかったよな?」
「すれ違ってない。と言うか私達以外誰も居なかった」
「あれだけ大きな神社で無人って変じゃないか?」
年間の参拝者数は277万人を誇る伏見稲荷大社の日中であり得ない現象だった。
調べてみたが特にその日に別に催事も無かった。
無人の千本鳥居はタイミング次第かも知れないが、この透明なナニかは異質だった。
全身に鳥肌が立つ。
でも怖くは無かった。
怖いというよりも畏れを感じる。
「なあ、これって……神様なんじゃないのか?」
「うん、やっぱりNやんもそう思う?」
「神様が人払いをして歩いていて、俺達は何らかの理由で紛れ込んだって事かも……」
人影が直ぐ目の前に来た所で映像が横にブレた。
まるで前から来る人を避けようとした様に感じるタイミングだ。
「今、A躱したよな?」
「うん、そうだと思う。でもこの時私何も見てないんだけどね?」
どうやら見えなくても察する物が有ったのだろう。
二人は神様かそれに類するものと遭遇したらしい。
そして、映像はそこで終わった。
「それでどうなったの?」
私は話を終えたNやんに訊ねた。
「どうと言われてもな。神様が映像に映り込んだ珍しいケースの話は以上だよ」
「ってか映るんだ?」
「あれを映ったと言えるかは謎だがな」
グラスを傾けながらNやんは苦笑する。
確かに透明な何かが動画に映り込んでいるのを映っていると言えるのか、とか、神様が使う人払いの渦中の映像だったとしたらそれは本当に珍しいとは思う。
そして残念ながらそれらを証明する術は誰にも無い。
オカルトがオカルトな所以である。
「そう言えばケンキって何?」
「ああ、霊を見たり、霊の持つ背景を霊視する能力を見鬼と言うんだ。要するに俺は霊能者の中で特に目が悪いって話だよ」
「それでも見えてるんだよね?」
「まあ、見えていると言えば見えてはいるけど、よく考えてごらん。人間の歴史の長さを考えたら霊の目撃情報って少な過ぎない? 俺の周りでも平安時代から前の霊を見たって人居ないんだよね」
Nやんの言及に、確かに怪談話でも江戸時代前後から現代までの幽霊の話しか聞いた事が無い。
「つまり霊能者の目にもランクが有るって話だね。ああ、眼の話に成ったし、次はそれにまつわる話をしようか」
彼は興が乗ったのか、楽しそうに口を開いた。




