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人形と骨と魂と

 Nやんから怖い聞いた話です。


「Nやん、最近何か面白い事無かった?」

「最近? ああ、それなら人形の話をしようか?」

「うん、聞きたい」



 知人に誘われて球体関節人形展に行った。

 個展を開ける位著名な人形師らしく、個展にはケースに納められた人形が所狭しと飾られていた。

 特に興味が有る訳では無いが、取り敢えずクリエーターの端くれとしては人脈作りもしくは取材としては良いか、と思い見て回った。


 可愛らしい服、ゴスロリを着た人形が大量に有り、そのどれもが精緻に作られていて見応えは有った。

 しかし、個展の建物に入った瞬間から異様なまでの存在感を放っている人形が気になって落ち着いて見て回れない。

 順路を外れると他のお客さんの迷惑に成る為に順々に歩いて行く。


 気になるが近寄りたくない、それが正直な感想だった。

 まさかこんな事に遭遇するとは思わずに、護法の道具は持ち歩いていなかったのが手痛い。

 10分か15分かして件の人形の前に俺は立った。

 立ったと言うか押し出された、と言うべきか。

 その人形は一際大きく、多分150㎝位のほぼ等身大と言っても良いサイズの人形だった。

 ガラスケースに納められて綿の様な物で背中が直接ぶつからない様に保護されている。

 人形の足元にデコレーションか毛玉毬が。

 その人形はドレスは着せられていない。

 関節も、胴体も剥き出しだ。


 正直怖かった。

 何が怖いって、他の人形は手入れの関係で色も入っていたのだけれど、その人形だけは化粧をしているのだ。

 それも人間の女性が使う種類のファンデーションやらなにやら。

 髪もウィッグなのだろうが……、これ人毛だよな、と言う不自然なまでに自然な光沢をしていた。

 目は当然義眼、何度か手に取った事も有るので一目で分かったのだが、視線を顔から外そうとした瞬間に瞬きをした。

 いや、瞬きをした様に見えただけかも知れない、そうであって欲しい所だ。

 その人形の眼球は顔を向いた方とは少しずれていて、どこかを両目で見ていた。

 視線を辿ってみると一人の女性を見ていたと思う。

 その瞳には憎悪が籠っていた。

 ビリビリとした怨念と言うのか怒りと言うのか、周りに居る人間は一切無視して一人だけを憎悪していた様だ。

 頬が引き攣る感覚を覚えて早く逃げ出したいと思うが、連れも居るしそうも出来ない。


 次の人形の所まで道が空いたので足早に移動して一息吐いた。

「何をどうしたらこんな事に成るんだ?」

 思わず独り言をこぼす。

 一巡した所で知人に誘われて個展を開いた作家さんの所に連れて行かれた。

 それは人形の憎悪を向けられていた人物だった。

 時折人形に魂が宿る、とか怪談の鉄板では有るが、その気配は異質だった。

 人形供養で持ち込まれた人形を目にした事は何度かあったが、それらは大抵が人形に何か別の存在が憑依している場合が多い。

 しかし、件の人形は毛色が違う気がしたのだ。

「あの人形だけ、一際存在感が有りますね」

 そう愛想よく話を振ると作家さんは嬉しそうに俺に解説してくれた。

「そうですか? それなら嬉しいです、あの子は今までの子と違う作り方をしてるんですよ~」

「それはどんな?」

「磁器って有るじゃないですか? あの子は骨の粉を混ぜた磁器で作ってるんですよ~、骨もね、牛じゃなく特別な骨を使ってるんですよ~」

 所謂 ボーンチャイナ、骨灰磁器(こっかいじき)と言うヤツだ。

 確か牛の骨を砕いた物を陶土(とうど)に混ぜて作る奴だったはずだ。

 「だから白さに透明さが有って綺麗な子でしょう?」

 そう、まるで愛娘を自慢する母親の様な体で話す作家。

 作家としての姿勢としては正しい、正しいのだがその作品が異質な物に成った説明とは程遠い。

 嫌な予感がして踏み込んだ質問をした。

「ボーンチャイナは英国で人気ですからね、何か特別な事でも?」

「ええ、骨は厳選しました」

 そう笑顔で返されたがその笑顔が怖い、関わってはいけない種類の悦を含んでいる。

 どんな骨を使ったらあんな事に成るのだろうか?

 いや、違うか、あの人形は、あの人形として完成してから魂を持った様に感じる。

 つまり原料が原因では無いのだ。

 遠因では有っても原因では無い気がする。

「今にも動いて、喋り出しそうですね」

 水を向けてみると作家はこう答えた。

「ええ、でもあの子は動きません。残念ですけれど関節が巧く動いてくれないのです」


 ああ……、あの人形の憎悪は動けない事に起因するのか、と感じた。

 何の骨を使ったのかは分からないが、人形として完成した瞬間にただの人形以上にオカルトな存在の器として完成していた訳だ。

 完成した直後に既に付喪神と同質の、意識を持っていた訳だ。

 魂もしくは人格?が生まれた所で動けない、それが無念で親を憎む子の様な物に成ったのだろう。

 そして親の無邪気な愛情が余計に憎しみを呼ぶ事になったのだろう。

 作りが甘かったのだろう、関節部分が巧く動かない為に服を着せられない。

 周りの自分の姉妹?達は綺麗な服を着ているのに、自分は裸のまま。

 もしあの人形の魂が女性だった場合は余計に悪い、自分だけ裸を強いられ、周囲の目に晒される訳だ。

 憎しみは憎悪に、そしてそれは呪詛に至る、一番悪いパターンと言える。

 多分後2、3年であの人形その物が呪詛の道具並みの代物に成るだろう。

 あれは明らかに人を殺す種類の物だ。

 しかし、俺にはアレを祓うだけの力は無い。

 どうにも成らない。


「値札付いてましたけど、手放すんですか?」

「ええ、可愛がってくれる人になら、ですが」

 俺は首を振ってそれを止める。

「あの人形だけは手元に置いておいた方が良いでしょう」

 酷い言い方だが、あんな呪具を世に出してはいけない。

 作家さんを見殺しにする事には成るが、無関係の人を巻き込むのは不味い、最悪だ。

「あの人形は貴女が手元でずっと可愛がるのが良いと思いますよ、ええ、きっと」

「そうですか? そうですね、私もあの子は特別なので、そうします。それと、あの子をあの人形と呼ぶのは止めて貰えますか?」


 その刺す様な殺気混じりの視線と共に釘を刺された。

「失礼しました、ええ、あの子は貴女の側が相応しい」

 本当に、貴女の側以外には有ってはならないよ、本当に……。

 取材としては収穫が有ったと思う事にして、俺は早々に、逃げる様にして個展を後にした。



「いやあ、あれは怖かった~、作家もあの子もヤバいヤバい」

「Nやん、それでその後はどうなったの?」

「さあ? 知らない、知るのが怖いから調べてない」

「そんなに怖かったの?」

「だってさ、あの子の体を構成してるのどう考えても、ねぇ……」

「え? なに?」

「いや、怖いから言葉にしたくない」


 そう言ってその後Nやんは固く口を閉ざした。

 何度聞いても教えてくれません。

 皆さんには分かりましたか?

 私にはNやんが口にしたがらなかった事が今でも分かりません。

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