創作クラスタ少女だって
『やべえwww超痛ぇwww』
『なwんwだwこwれw』
感想欄にはこんなコメントが溢れかえっている。
渾身の作品だった。渾身のキャラクターだった。
主人公のミーアは私の理想だ。ちゃんと絵だって載せた。赤と青のオッドアイで雪のように白い肌。胸が大きくて誰にでも優しくて愛されるキャラ。
オッドアイを持つ者は魔法を使える。国策によって差別されてきたという設定も、両親が殺されている設定も彼女にとって敵だらけの世界も美しいと思った。
周りのキャラクターだって考え抜いた。敵になったのは王。王様には悪い思念がとりついていてこれを倒せば国中の差別がなくなる設定にした。襲われそうになったところを助けてくれたのは勘当されていた王子様のジョン。幼馴染でオッドアイのジェームズ。母親を殺された傭兵のエドワードの三人。みんなキャラ立ちするように見た目のことはたくさん書き込んだ。もちろん。ミーナの心をほぐすために三人ともミーナに優しくイケメンだ。旅にいるのが不細工だったら普通に考えて抱きしめられてもきもいだけだ。
なのにこれだ。
『面白いのを見つけたwww』
『こwれwはwひwどwいw』
「どこがいけないのよ!」
だいたいこれだけ必死に書いた物語を侮蔑できるなど考えられない。私はこの話を書くために心血を注いだ。一日パソコンの前に座り込んで唸っていることもあった。インターネットでも優しくしなさいと学校で習わなかったのだろうか。
「ミーナ」
私の可愛い分身、ミーナ。あなたは幸せでしょう? みんなに幸せに守られて。私はあなたの様になりたくて物語を書いたのに。
「私のミーナを平気で馬鹿にできるなんてありえないわ」
悲しみ以上の苛立ちを感じて、私は最後にコメントをした奴の作品を見に行くことにした。
※
『異なる世界の理想郷』
題名からしてダサい。まあ、いい。読めばいい。偉そうに『こwれwはwひwどwい』とでも言える根拠を探してやろうではないか。
読み始めてみると、第三部分で吹き出してしまった。
『ドン!
ぎゃおおおおおお
俺は雷電を唱えて龍を倒した。
ティリカが後ろで目を丸くしている。
「さ、さすが、ローゼン。カッコいいわあ」』
第一部分でもなんだか不思議な状況ではあったが、第二部分までは我慢できた。さすがにこれはひどい。
コメント欄に同じことを書いてやろうか。そんな思いがよぎった。
作品の感想ページを開いてみる。同じように言ってやろうではないか。と思ったが手が止まった。
『草しか生えないわwww』
『小説なのか……? 絵のない漫画にしてもクオリティがw』
『こwれwはwひwどwいw』
これは……。
どう見ても私が書かれていた内容と変わらなかった。当然だ。こんなごみクズみたいな作品を平然と載せている人間が悪い。痛い。痛すぎる。
私も書いてやろう。この作品はひどすぎる、と。
と思った時に感想欄の言葉に目が留まった。
『人の作品を批判しているようですが、これではあなたの作品の感想欄はあれるばかりのように感じます。せめて、作品が愛されるよう、他の作品の感想欄を荒らす前に自分の作品の情報を小説の中でしっかり伝えることに時間を使ったらどうでしょうか』
こんな責めるような文章をよく打てるなと思った。この人こそ何様だと感じる。
感想欄にそう書き込んだ人の作品ページを見つけた。
感想欄もレビューもたくさんついている。評価はあまり高くない。なんだ。この人も人のこと言えなさそうだな。そう思って読み始めた。
『 見つけた。
ニコは心の中でそう叫んだ。
月の光を反射してキラキラと輝くそれは、この世に存在するのか疑いたくなるような代物だった。
――月光花。
それは、幼いニコに母が教えてくれた花の名だった。
ただの伝説と思っていたその花は今、ニコの目の前で眩い光を放っている。』
冒頭から見せつけられた。この人の文章力には到底自分は追いついていないと感じさせられた。
ブックマークをして、コメント欄に戻る。作品の評価は文章も物語も三程度。このレベルで三がつくとはどうも考えられない。感想欄もコメント欄も最近のものは、更新が楽しみだとか、ニコが可愛いとかそんなものだし、レビュー欄を見てもワクワクする冒険譚である情報以外伝わってこない。
何が低い原因なのだろうか、と考えながら感想欄をさかのぼる。
すると、感想欄に批判が多くなってきた。
『文章が壊滅的だわwww』
『え、一段落目に主人公の自己紹介とかwwwいつ流行った奴だよwwwあ、お笑い的な意味で(笑)』
『で、ニコって男なの。女なの。あ、おっぱいの話がない時点で男かな?www』
誹謗中傷だらけの荒れたコメント欄になっていく。
『こwれwはwひwどwい』
このコメントがなされたのは、一年以上前。最近のコメントはこんなこと書かれていない。これは。
※
『え、この作品なんでこんな誹謗中傷だらけなの? ジョン君格好いいですね。読んでいて乙女心を刺激されました。更新楽しみにしています。』
あれから四ヵ月。作品を書いていたらこんなコメントがきた。
作品を見直して、私はプロットを書いてみたりプロの小説を読み漁ったりして更新しながら修正を加え続けた。不思議なことに、迫害する側のキャラクターにも愛着が沸くようになり、ミーナも思った通りに行動しなくなってきた。最初は変だ、ミーナは私の分身なのにと感じていたのに、気がついたらこの作品が本当に好きになっていた。
あの時、あのコメントを見つけなかったら、私はさらに誹謗中傷を受けていたと思う。そして『異なる世界の理想郷』の作者のように他の作品に誹謗中傷を重ねていただろう。自分の自尊心を保つために。
私もまだまだだ。この子たちが作品の中で生きていけるように精進しなければ。
人のことを見下している人間って結局というお話。
フィリップ・スパークが何のことか分かる人はきっと吹奏楽に詳しい人。
作中作①の男性陣の名前を聴いて思うところがある人は、イギリスの有名人を知っている人。
ちなみに月光花のくだりは公開していない作品の冒頭をいじったもの。私だって文章力欲しいんです。