推理披露
「さ、佐藤さん。佐藤さんも、あれが誰かが意図的に起こしたものだと思ってる?」
僕は、学校からの帰りに、前を歩いていた佐藤さんに思い切って声をかけた。
佐藤さんはひどくゆっくりと僕の方を振り返り、ぼんやりとした瞳を何度か瞬かせて、消え入るような声で答えた。
「……うん。思ってるわけじゃなくて…………確信」
佐藤さんは僕の隣に並び、歩き出した。
「……堀部君は、どうして?」
普段話さない彼女に少し戸惑いながら、僕は丁寧に言葉を探す。
「えっと……、上手く言えないんだけど、生け花の『壊れ方』に違和感があったというか……」
パッと見た時、まず始めに「おかしいな」って思ったのだ。明確な言葉にできるようなものではなく、感覚的な、直感的なものだろうか。「誰かが意図的に壊した」そんな気がした。
「感覚的に………」
それを聞いた佐藤さんは、納得したのか顔を少し上へ向けて口を閉じてしまった。
ーーー相変わらず口数が少ないなぁ。
そうは思ったものの、やっぱり気になるではないか。
佐藤さんはどうして、あれが意図的に起こされたものだと思ったのか。
「どうして佐藤さんは、あれが意図的に起こされたものだと思ったの?佐藤さんは確信してるんでしょ」
「……どう考えたっておかしいから。『壊れ方』が…おかしい。………不自然」
佐藤さんは、僕が舌を巻くほどの推理を披露してくれた。
披露……というよりは、告白でもするかのように小さな声で教えてくれた。
「生け花……の、折れ方。物が〝偶然〟当たったとかじゃなくて…、一本ずつ、人の手で折ったような状態だった」
そう言い、鞄からスマホを取り出して、その時の写真を僕に見せてくれた。
ーーーあの状況で写真まで撮ってたなんて。
僕は佐藤さんの評価を改めなければならないようだ。
周りに自分から干渉せず、常に人に合わせ、自分の意見を口にすることはない。
騒ぎが起こったとしても外側から眺めているだけ……のはずが、今回だけは違った。
自分の中の、こだわり……みたいなものだろうか。
そういったものには全力なのが、佐藤澪の本当の姿なのかもしれない。
「で、意外としっかりしてる」
「………?」
僕のささやかな独り言すらも聞き取ったようで、佐藤さんは首をかしげた。
「……一つ…いい?」
「どうかした?」
佐藤さんはそれはもう恐る恐るといった様子で、僕の表情を伺いながら
「その、佐藤さんっていうの……呼び捨て、でいい」
「…え?」
……何を言うのかと思ったら。
「あ、もしかして〝さん〟付け嫌だった?」
佐藤さんはぶんぶん、と首を振り、肩にかかるくらいの長さの黒髪が、左右に暴れるようにして揺れた。
「別に嫌じゃないんだ」
「……嫌じゃなくて、普通に……普通にだよ」
「語彙力が」
「……たまにはそういうこともある」
思わず僕は笑ってしまった。堅い印象のある佐藤さんだけど、実はそうでもないのかもしれない。
せっかく呼び捨てでいいと言ってくれているので、ここはお言葉に甘えて
「じゃ、僕はこっちだから。また明日ね、澪」
「……また、明日………堀部君」
僕と澪は、それぞれ別の道へ別れた。
引っ込み思案な澪、可愛いですね。
また推理披露の機会がある予定ですので、お楽しみに!