佐藤澪と僕
僕たちは、様々なものを日常の中で見ている。
当たり前のものを、当たり前のように見ている。それは、毎日歩く道だったり、その道端に咲く花だったり。公園で走り回る子どもたちの姿や、照りつける太陽、そして、一緒に笑う友達の表情。
すべてのものが、僕たちに何かを教えてくれているのだ。
……だけど、僕には彼女の気持ちが分からない。
なぜなら、僕たちは人の心を見ることはできないのだから。
しかし、僕は出会った。
人の心も目に視えてしまうという、彼女……佐藤澪という存在に。
事件というのは、唐突に起こるものだ。
「ちょっと、……これどうしよう」
麗英高校美術室で、うちのクラスの女子学級委員長、佐々木友梨の声が頼りなく響いた。
その場にいたクラスメイト、そして僕も、彼女の元へ駆け寄る。
「あっちゃあ〜……これはヤバイな」
「先生に言った方がいいんじゃない?」
一同、頭を抱えた。僕たちの目の前にはクラスメイトが作った生け花の作品が所狭しと並んでいて、その中の一つ……乙川彩葉の作品が、壊れていた。
僕が通う麗英高校は毎年、「地域フラワーフェスティバル」というお祭りに参加していて、美術の授業で作った生け花を出品している。その「地域フラワーフェスティバル」には生け花のコンクールもあり、多くの生徒が入賞を目指し、とても楽しみにしているのだ。
「きっと、掃除のときに箒かなんかがあたっちゃったんだよ。乙川さんって上手だから言い出せなかったのかもね」
クラスメイトの一人がそう言うものの、僕にはそうは思えなかった。
乙川さんは去年、一年生の時にコンクールで最優秀賞を取っている実力者で、家が超有名な華道の名門なのだ。並大抵の人じゃとてもかなわない相手。乙川さんの作品の「壊れ方」とこれらの情報から推測すると、おそらく。
「……意図的」
「……っ?!」
すぐそばで声が聞こえ、驚いて周りを見回すと一人の少女と目が合った。
……僕と同じ事を考えてる……?いや、それより。
僕は、彼女……普段声を発することのない佐藤澪が、自分から周りに関わろうとした事に驚きを隠せなかった。
ミステリー初挑戦です!
きちんと「ミステリー」になるように頑張ります。