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陽当たり悪し、陰できる

作者: 冬山七

 話の3割くらいは実際にあった話です。それをご都合主義的に話がつながっている部分が、フィクションだと思っていただければ大方あっていると思います。

 そして主人公が謎について考えていますが、それはよくありそうな謎であり実際に自分の身の回りで起こっても当事者にならなければ真実を追求しないであろう程度の謎です。


 いつも夜だった。


 はぁっと白い息が街灯によって真っ暗な道の中、さらに白くみえる。人それぞれ全く違うものが好きだし、考え方によって様々な幸せがあるのではないだろうか。それらは個性や特色として受け入れてもらえるだろう。けれど人には、人に言えない秘密を誰でも1つや2つ持っているものだ。


 そんなことを考えながら夜道を歩く。普段からよく履き慣れたスニーカーは靴底が柔らかく足音は聞こえない。そのせいで地面の固さが直に伝わってくる安物だ。紺色のスニーカーがアスファルトの道を踏みしめる様を見続けても意味がない。すぐ前にある山を見上げる。


 人口15万人を越す地方中心都市であるこの街は昼間の喧騒はどことやら夜はあまり人と会うことなく散歩できる。

そんな理由で夜に散歩をするのが好きだった。目的なき散歩、要するに徘徊とも言えるかもしれない。深夜徘徊は青少年なんとか条例違反だが、この街にはそれを取り締まる者の姿も夜は見られない。昼は地方都市にありがちなしがない温泉街であるが、夜は静かな住宅街になる。街にそびえることはない標高300m未満の小さな山がいくつか連なっている。その山にあるハイキングコースを観光資源としているが、この街に温泉宿はもう3軒しかない。しかし、そんなことは関係ない一般宅の次男坊、高校三年生が僕、鶴間好春(つるまよしはる)だ。


 3軒しかないとはいえ温泉街。普通の街とは違うこの街を散歩するのが好きだ。そして今日もまた、夜の街に繰り出している。補導する者の姿が見えないとはいえ、補導されても面白くない。だからまだ時計の針は10時を指すかどうかという時間に家を出た。

 寝巻き代わりにしている裏起毛のスウェットのポケットに家の鍵と、携帯を入れマウンテンパーカーを羽織る。マウンテンパーカーは山で便利なよう胸や腰の部分左右両方、たくさんポケットがついていて、右の腰部分に二つ折り財布を入れた。

 温泉街を自称するこの街の道は宿が密集する我が家の周りだけアスファルトがうっすらと黄色に塗装されている。この街が栄えていた大昔に塗装されたせいだろうか、いたるところにアスファルトの亀裂が見られる。この黄色の道沿いに進むと、駅に面する赤と灰色のレンガ敷きの歩道へたどり着く。


 このまま駅方面へ進めばまだ夜はそんなに深くない、誰かにあってしまうだろう。山の麓を走る東名高速の側道へと足を運ぶ。


 最近、市内のすべての電気がLEDに交換されたせいで電柱の真下だけが白く煌々と黒いアスファルトを照らしていた。いくつかの光の輪を抜けると家から一番近いコンビニに着く。


店に入ると店内放送で自社製品をネタに芸人が漫才をしている。


(コンビ名はなんだったかな。)


 最近、よくTVに出ていたと思うが思い出せない。歩いている内に小腹が空いた気がしていた。目的は飲み物と軽食の入手とした。

 まっすぐ冷蔵庫へ行きコーラを手にしてレジに向かう。途中スナック菓子を1袋だけ取り、コーラと同じ手に持った。パーカーの右ポケットから財布を出す。いつもレジ前で、もたつくのが嫌でレジに行く前には財布を出すようにしている。レジのカウンターに片手に持っていた商品を乗せる。アルバイトをしない僕にとってコンビニで買い物をする時はふと、スーパーの方が安いなと気が変な方へ向いていた。


「やっぱりヨシハルか」


 店員の顔を見る。ニヤついたいつもの奴の顔がそこにあった。そいつは同じ高校に通い、同じ写真部という少し難のある部活に所属する、中学からの旧友、大和悟(やまとさとる)ではないか。基本表情が笑顔である、サトルの顔を殴ってやろうかと思ったがそこは法治国家、防犯カメラがある。我慢して嫌味たっぷりに会話に乗ってやる。


「なんでお前がこんなとこにいるんだよ」

「今日からアルバイト始めたんだよ」


 それは普段いく店が潰れたに等しい発言だ。小田舎で家から近いコンビニに行けないとなるととてつもなく不便だ。散歩が好きとはいえ、夜にわざわざ隣町のコンビニまで行かないといけなくなるというのは死刑宣告にも近い。


「そうか、では冬休み明けに会おう」


気持ちとは裏腹に明るく去ろうとしたがサトルは納得しなかったようだ。


「おいまた来いよ!てか今日はまだ冬休み初日だろ!!」


 そんな、犬みたいにキャンキャン騒ぐサトルを後ろ手に僕は店をあとにする。買ったものを袋に入れてもらったがコーラをすぐに出した。片手に持った財布をもう一度ポケットに戻すのが億劫でコーラの代わりに袋の中に財布を入れた。せっかく誰にも出会わないよう歩いていたのに面倒なのにあった気がしてしまう。そんな気分を流すのに紅いキャップを外してコーラを飲みこむ。そうしてやっと脚を家に向け再び歩きだす。

 僕は出会わないように歩く。知り合いに。友達だとか恋人とかそんな契約も何もない関係が信用出来なくなっていた。昔、読んだ本の主人公も同じようなことで悩んでいたが、やはり僕もそうなのである。誰にも隔てなく話すし、教師からも信頼されている方だと思う。唯一なんでも話せる友達……まではいかないが、人に友達だと紹介できるやつはサトルだけだと思う。

 不意に携帯が震えメッセージの着信を知らせる。スウェットのポケットから携帯を取り出しSMSアプリを開いて確認する。


『昨日の事件、驚いたよ』


サトルからだった。バイト中に携帯をいじってメールをしてくるでない。


『バイト中に携帯をいじるな。それにあれは運が良かっただけで期待されても困る』


 メールを返し、携帯をしまう。昨日の事件を語るにはそうだな、先週の出来事から語るのがいいだろう。

そう先週は北からの寒波で特に寒かった。



12月21日 金曜日


 帰りのHRが始まる前の業間休みだった。

みんな、いつもに比べそわそわしたような浮ついた空気がただよっていた。それは週末前のあの空気感だけではない。毎週末こんなに浮ついたクラスではない。たぶんこれは、今し方終わった期末テストから解放されたことと授業が冬休み前で午前終わりなのが原因だろう。


そして、これは僕も例外でない。


毎日毎日電車と自転車を使い通学するのは結構億劫なのだ。「冬か夏のどちらが好きか?」と問われればコンマ何秒かで「冬だ」と答える。服さえ着込んでしまえば寒さをしのげるからだ。

そんな僕でも耐えられないことが起きた。つい先日、愛用していた手袋に穴が空いてしまったのだ。今朝も自転車に乗る僕の手を寒さを超えた痛みが襲っていた。これからもこれが続いたら手が凍傷してしまうだろう。だからもうすぐ長期休みが来ることにいつも以上に喜ばしく思っていた。冬休みの始まりは来週だがとりあえず今週の土日は何をしようかと考えていた。


「ヨシハル、今日はどっかいくかい?」


 唐突に横から声をかけられた。いや、声をかけられる時はだいたいそれは唐突だ。考えことをしていて現実世界に焦点があっていなかったという意味で唐突だった。


「なんだサトルはどこか行きたいのか?」


唐突に声をかけられ、反射的に聞き返してしまったが、サトルはなかなかにアグレッシブで突然、予想だにしないところへ行ったりするから少し身構えることになってしまった。


「じゃー今日は終わりにするぞー日直!」


担任の河原先生の一言で日直が号令をかける。


「きりーつ、礼!」


 気をとられていたせいで反応できなかったが、特に何も言われなかった。

 サトルの方を見るとまだ何か考えているようだったが、こいつの考えを聞く義理もないから先に帰ろうと思い、鞄を持ち上げ席を立とうとしたところでまたしても唐突に声をかけられた。


「鶴間!」


 声をかけてきたそいつは去年から同じクラスで今年からよく話すようになった青木和也(あおきかずや)だった。何かと揚げ足取りしてくるのであまり良いイメージはないが直接的な害はないので普通のクラスメイトとして接している。


「どうした、なんか用か?」


 浮かしかけた腰をもう一度いすに下ろす。青木は横の席にまだサトルが座っていたので空いていた僕の前の席に腰掛けながら答えた。


「今日、森たちとオケオールするけどくるか?」

「おけおーる?」


 質問に答える以前の疑問を抱いてしまった。週末に何かの誘いという時点であまり良い予想はつかなかったのでそんな物は知らない、嫌だなというニュアンスを少しばかり含んでいたかもしれない。

 青木はそれに気づいていたかもしれないが気にしていないようだった。


「カラオケオールだよ。よく知らずに生きてこられたな」


そんなもん知らなくても一ミリも困らないなとは言わない。


「むしろそんなことしていた方が死にそうだな」

と軽妙に冗談まで飛ばしてやった。青木はその冗談を一蹴して訪ねてきた。

「つまり?」

「断る!」


即答した。


 すると青木は少し考えたような顔をして口を開き、何か言いかけたが、やめて無言で立ち上がり、廊下に出て行ってしまった。ほかの誰かに声をかけにいったんだろうか?

 さて僕は寄り道せず帰ろうかと思い今度こそ席から立ち上がるとサトルも帰るのだろうか一緒に立ち上がった。結局どこかに行きたいのだろうか、と思い話しかけた。


「帰るか?」


 するとサトルは突然思考していた顔をにやつかせて言った。


「どうだい俺と一緒にデュエットしにいかないかい?」

「勘弁してくれ」


やれやれと手を腰につきながら歩き出す。二人で肩を並べて廊下に出ると青木の姿はもうなかった。




12月22日 土曜日


 休日は最高だ。


平日は登校に1時間くらいかかるせいで朝が早いのだが、休日になると風邪をひく時のように突然、起きられなくなってしまう。それを周りにつつかれると決まって僕は「低血圧だから」という、何も言い返せないであろう言い訳を使って逃げている。


暖かい布団の中でエンジンのかかり始めていない脳でそんなことを考えていた。冬は布団の中がこたつと並ぶ程の快適空間になる。しかし、今日は目的があるので、すんなり布団から出ることができた。昼を前に起きてリビングに行くが誰もいなかった。家族全員、僕を置いて旅行……という某クリスマスの日の映画みたいなことではなく、中々起きない僕に痺れを切らして出かけてしまったのだろう。

 家に誰もいないので仕方なく、自分で朝飯兼昼食を作る。しかしながら男子高校生がご飯など作れるはずもない、というのは周知の事実。そして今はなんでもデジタル時代、文明開化などなんのその。電子レンジ一つでなんでも食べられるのは料理ができない我々、料理弱者の救世主だと皆、口を揃えるだろう。というわけで、冷凍庫にあったいつ買ったか分からない、市販のチャーハンを温めて食べることにした。


 腹を満たした昼過ぎ。穴の空いた手袋を新調すべく、学校の最寄り駅に行くことにした。わざわざ電車に乗って地元を後にするのは、全く店がないからである。さすがに本屋が潰れた時は、住民としてもうやっていけないのではないかと本気で思った。コンビニですら潰れる街なのである。

 高校の最寄り駅である「本厚井駅」は駅前にいくつかの商業施設や古着屋、ゲームセンターといったレジャー施設、それだけでなく大人が楽しむそういった店もある。夜でも明るい、少し危ない街でもある。昼間は周りの街に比べれば栄えた繁華街である。

 その中で、目的を果たせそうな駅からすぐの大きな商業施設に入る。だが、アルバイトもせず、収入は現金支給……お小遣いしかない僕がブランド品を手に入れようとするはずもなく全国展開している、安い量販店に向かった。


 買ったばかりの手袋をつけて帰るのは恥ずかしいので、袋に入れてもらった。

 目的を果たし歩いているが、帰るか、まだ街を歩くか迷っていると一番街という街の中で一番栄えている通りに出ていた。


(そういや昨日、誘われたカラオケはどこでやることになったんだろうか?)


と思いだして通りにあるカラオケ店に目を向けた。店は通りに面してはいるが、あるのは入り口だけで店自体はビルを上がったところにあるようだ。店の前にあるやたらとカラフルな看板に値段が一時間150円+ワンドリンクとかフリータイム900円と時間ごとに羅列されていた。どうやらオケオールとやらをやるには2000円弱くらいする上に、18歳未満には少し難しいのではないだろうか。


トントン


 突然、後ろから肩を叩かれた。あまり治安の良い街ではないこの地での出来事で体がこわばる。恐る恐る後ろを振り返るとそこには見知った、しかし決して会いたくはない女が立っていた。


「へーヨシハルくん、ヒトカラするんだねぇ」


上は白色のセーターに革ジャンを羽織ったパンツスタイルの女、同じクラスの佐藤花華(はなか)だった。久々にみた私服姿だった。


「違うな。値段を見ていただけだ」


少し強気の口調になってしまうのは、こいつには弱いところを見せたくないのだ。


「そうだよね、付き合ってる時いかなかったもんね」

「それはまぁ、機会がなかっただけで・・・」


歯切れが悪くなって仕方ない。しかも冬なのに変な汗をかいてきた。あのとき、ふらつかず帰っていればよかったと後悔し始めていた。


「花華は何してたんだよ?」


攻められてばかりいられず反撃する。


「ふーん呼び捨てして彼氏面まだしちゃうんだ……ううん、ただアニメショップでイベントしてたからそれに参加して、カラオケでもいこうかなって来たところだよ」

「ヒトカラとかオケオールとかみんな大忙しだな」


言われたことを無視しつつ、のほほんとした回答でごまかした。


「オケオール?」

「知らないのか?」

「知らないわけないじゃん。そうじゃなくて誰かとしてたの?」


オケオールを知らない同志を見つけたと思って、ぬか喜びした僕の純情な心を3秒で打ち砕いてくれた。


「同じクラスの青木たちがするらしい」

「へーそうなんだ。それ知って店の前にいるの?もしかしてストーカー?」

「そんなわけあるか!」


冗談だと分かっているが、ここはハッキリと否定した。


「買い物してふらついてたらここにいただけだ。おまえもカラオケいくなら、どうぞ」


かいた汗が風に吹かれて寒かった僕は、一刻も早く帰りたいので花華にカラオケ店へせかす為に左手で階段を示しながら一歩引いてカラオケ店に誘導する。が、花華は動かなかった。


「いい。会員登録してる安くなる店があるからそっち行く」

「そうか、じゃあ僕は帰るよ」


 このとき僕は、何か期待していたかもしれない。しかし、それは気の迷いだったのかもしれないし、それが何かを知るには僕には経験も知識もなかった。僕にも彼女にも用がない店の前にいても迷惑なだけだ。僕は帰るために駅へ向う、彼女は別のカラオケ店へと、別々の方向に脚を動かし始めた。




12月25日 火曜日 -事件当日-


 朝は嫌いだ。

ピピピピッ—どこか遠くから近づいてくるサイレンの音のように現実に引き戻される。枕元に置いてある携帯に手を伸ばす。デジタル表記でAM07:00......ああまたいつもの朝が来た。朝は残酷で誰にも平等に訪れる。朝にも眠ることを教えてあげたら多分彼も幸せになると思う。


 無理だろうな。

布団から出られずに変なことを考えてしまう。冬は寒い。細かいことを言えばシベリア気団だ、西高東低だと原因はあるが理解は体を温めてはくれない。

 寝巻きだけでは心もとない。昨夜、脱いで布団近くに置いていたパーカーを引っ掛けて洗面台に行く。


鏡に写る自分の寝起きのヘアスタイルをみる。


見事にほぼすべての髪先が天井を向いている。ヘアスプレーを使い、寝癖を直す。高校生と言えばおしゃれを気にする年頃だがおしゃれにも流行りの音楽にも興味ない、僕としては髪型は髪先が上を向いてなければ満足だ。

 朝食を食べようとお湯を鍋で沸かし紅茶を淹れる。やかんやポッドがあれば便利なのだが昔から鍋でお湯を沸かしていた。コップを用意して茶葉を入れる。朝は紅茶だと決めている、といえば格好がいいが特にそんな決まりは一向にない。30分ほどかけて菓子パンと紅茶をゆっくり頂きながら朝のニュースを聞き流す。個人情報流出。3千万円横領。サイバー攻撃。空き巣。社長の失踪。――平和だな。質素な朝食を片付け自室に戻る。


 こうすればやる気が出るのだと言わんばかりに勢いよく制服の裾に足を突っ込む。色々あって入ってしまった写真部のために買わされた全然使わないカメラを本棚の上から取り鞄に丁寧に入れる。カメラは高いのだ。


 心の中で我が愛しの家に「いってきます」を言い家を出る。どこかで聞いたのだが行く時に「気をつけて」を言われるだけで事故に会う確率が下がるらしい。人間の思い込みとはなんと神秘なことか。と、つまらないことを考えていたら家を出るのがいつもより遅れた。これで高校が近いなら特段問題ないのだが、高校は三つ隣の駅だ。電車に乗り遅れては洒落にならない。いつもの電車に乗るには少し小走りしなければ間に合わない。 

 駅に続く、薄い黄色に塗装された温泉街とは名ばかりの路地を白い息を吐きながら急ぐ。高校生にもなって走っている所を見られるのは小っ恥ずかしい。駅に近づくと人が少なからずいるので走るのは路地だけにした。この小さな街の駅は昭和レトロな外観で全70駅くらいあるこの路線で50位くらいの利用者らしい。

 

 駅に着くとちょうど電車が来たところだった。三年も同じ時間帯の電車に乗っていれば嫌でもスーツのおじさんや謎の登山者風のお兄さん、厚化粧のおばさんの顔くらい覚えるだろう。

 家でも報道番組を見たが携帯でもネットニュースを読む。電車の中は満員とはいかないが席は空いてないので片手に携帯、もう片方の手でつり輪を掴む。高校の最寄駅本厚井駅へは10分で着く。この10分が短いようで長く感じるのは退屈だからだろうか。

 車窓は田舎駅である最寄駅から高校のある駅へ街並みが徐々に栄えていくのが高速で流れで行く。本厚井駅からはバスで20分かかる不便なとこに高校はある。だがバスの料金が高く感じてしまうのと人が多すぎて座れないのでバス通学は避けたくて自転車を駅の近くに借りた駐輪場に置いている。これでも運動は嫌いではない。買ったばかりの手袋をして、時計を見るとあと30分ほどで始業時間だ。自転車を必死に漕ぐことにする。高校に着く頃には手袋を暑く感じるくらいに身体が温まるだろう。

 

 教室に入るとクラス内でいくつかのグループが各々別々の話をしている。「昨日の試合観た?」「三次元に興味がない」「今週バイクツーリングどこ行く?」スマホゲーで遊ぶグループ、どこにでもある高校の朝だろうか。

 HR(ホームルーム)が始まる頃には低血圧の僕でもさすがに意識はしっかりとしてくる。担任が連絡事項を話しているが毎朝のことで聞き流していた。担任の河原は最後に日誌を閉めながら言った。


「鶴間、このあと職員室来てなー」


 朝から呼び出されてれてしまった。隣の席に座るサトルがいつもの薄笑いを顔に貼り付け囁いてくる


「お前なんかしでかしたのか?」


ああだから朝は嫌いなんだ。


 冬休み前、最後の今日は2学期最終日でもある。朝のHRのあとは全国津々浦々終業式は体育館でという決まりがあるかのように我が校でも全員体育館で終業式に参加する。同じクラスの面々が防寒具代わりに毛布を持っていたり脱いでいた制服のブレザーを来て準備をする中、僕は職員室に向かった。

 僕が通う厚井商業高校は鳥観図で見ると口の字型をしている。東側に正面玄関や正門があり、校舎をはさんだ西側に体育館と格技室がつながっている。職員室は今いる3年のフロアと同じ2階ではあるが体育館とは方向が反対なので人の波に逆らい人気のない廊下へ進むことになる。同じフロアにある職員室だが今いる一般教室が並ぶ一般棟から特別教室が並ぶ反対側の特別棟に行かなければならない。

 向かうまでになぜ呼び出されたのか考えながら歩く。先生に職員室に呼ばれて良いことはないという帰納的推理によって何をしでかしたか分からないが怒られるのではないかと予想を立てていた。


「失礼します。3-1の鶴間です。河原先生はいらっしゃいますか?」


 と言ったものの3年の先生達はドアをあけてすぐの所に机が集められている。


「おう、きたな。」


 ドアの前に立つ僕の顔を確認し、招き寄せる。


「これこないだ言っていた入学前ガイダンスの資料な。」


 河原先生が軽い口で言ってきたので用はこれだけなのか不安になって聞いた。


「えっこれだけっすか?」

「それだけだ。他に書類はなかったぞ?」


 話が噛み合ってない気がするが他に用がないのなら満足だ


「終業式、始まるから早く体育館にいけー」


 クリアファイルごとプリントを受け取り、暖房の効いた暖かい職員室を名残惜しくも出る。廊下は中庭に面してはいるが朝は申し訳程度に日が入っているだけで、暖房が効いた部屋から出たばかりではとても寒い。そのまま体育館に向かおうと思っていたがいかんせん急いで出てきたせいで教室に体育館履きを忘れてしまった。効率が悪いな、と思いながら来たルートを戻る。


 教室の電気は消えていて誰もいなかった。


ガタッ


 ドアを開けようとしたが鍵が絞められフックが引っかかる音がした。可能性は低いが前側のドアにも手をかける。


ガタッ


 やはりだめか、と思っていると廊下の奥から教科担任の林先生がやってきた。


「おおっ、どうした」

「体育館履き忘れたんですが鍵がかかっていて開いていませんでした」


 自笑気味に言うと林先生もドアに手をかける。


「あー開いてないな。諦めて体育館早くいけー」


 そして僕はまた、体育館へ脚を運んだ。



 気づけば昼だった。終業式は最後だからと、生徒指導の先生や生徒会やらが出てきて言いたいことを言い、終わった。一時間弱あったためかこの12月の寒さは生徒たちから体温を奪っていた。そのため我先にと三三五五教室に動きだす。

 僕は職員室に寄ったせいで体育館履きを忘れ、足先から冷えてしょうがない。教室に行く前に自販機によってあたたかい飲み物を買って温まることにした。

 

 教室に戻ると各自思い思いに友達と話していたりで騒がしかった。

 後ろから二番目の一番窓側に自分の席がある。冬でも日が入る午後は居心地がよく気に入っている。着くとサトルが話しかけてきた。


「そういや朝はなんの用事だったんだ?」


 窓から見える職員室の方を見ながら言った


「ただ大学の資料渡されるだけだったぞ?」

「そっか、つまらないね~」


 つまらんとはいかんせんひどいなと思っているとザザっと放送のスイッチが入る音がした。


『本日、2階3-1の教室にて携帯2台、財布2個がなくなった。携帯にはGPSがついている。校内から出れば場所がわかる。間違えて持って行ってしまったもの。心当たりがあるものは担任か先生に名乗り出るように』

「え、3-1ってこのクラスじゃん」「え、誰の?」


 一瞬にして、にわかに信じがたいのかクラスが騒がしくなった。が、ドアが開く音で立って話していた級友たちが揃って席に着く。先生が入ってきたのだ。

 教卓の前に立った先生は神妙な口ぶりで話しだした。


「え~今の放送で大体わかると思うが先程全校集会でみんなが体育館に行っているあいだにこの教室で窃盗が起きた。二人の鞄からスマートフォン二台や財布の中身が盗られていた。心当たりのあるもの、間違えて持って行ってしまった奴はこのあと俺のところに来てくれ。」


 成績表が返されると思ってそわそわしていた僕たち3-1の生徒は電池が切れたように静かになった。



 終業式中に教室から携帯と財布がなくなった。率直に言うとこの3-1の教室で窃盗事件が起きたのである。そしてここが一番の問題なのだが僕も容疑者になってしまったことだ。式中に盗まれたのであるから終業式に遅れてきたもの、途中で抜けたもの全員に犯行が可能なため職員室に行って遅れた僕も容疑者の内の一人になってしまったわけだ。


「それじゃ一応話聴きたいから鶴間、青木、森、岩田は会議室に行ってくれ」

と他人事のように先生が言った。


 同じクラスではあるが他の容疑者三人が仲良く固まって話しているので僕は先にひとり会議室に向かうことにする。

 職員室横にある会議室に入ると10人ほどの容疑者がすでに座って待っていた。学年こそバラバラだったが全員が男だった。とりあえず近くの席に座り呼ばれるまで待つ。


 管理職の先生とそれぞれの担任に一人ずつ呼ばれ取り調べが始まった。3-1の僕はすぐに呼ばれた。河原先生に呼ばれ職員室に行ったことを話し河原先生と林先生がアリバイの証人になってくれたおかげですぐに疑いが晴れた。

 しかし、自分が一時とはいえ疑われた事件の犯人に一言いってやりたい感情に襲われる。


「ところでこの事件どうなんですかね?」


 先生の話によると教室の鍵は日直によって施錠されていた。が、終業式が終わり最初に戻ってきた生徒によれば後ろのドアが開けられていたそうだ。ピッキングした形跡はなく、鍵は日直が施錠後体育館で担任に渡していた。何らかの方法でドアが開けられていたのだ。携帯と財布が盗まれたのは女子生徒2人だった。そしてここが一番面白いのだが財布は何も盗まれることなく特別棟の最上階の階段踊り場で、財布2つと携帯1台が無事見つかったそうだ。


 容疑の疑いが晴れ解放された僕だったがどうも釈然としない気持ちで教室に戻る。

 なぜ、誰が、何の目的で盗ったのかわからない。

 まあ自分にはもう関係ない話だな、と割り切ることにした。が、教室に入ると同時に声をかけてきた我が部、写真部部長桜ヶ丘女史の、周りをはばからない大声によって打ち壊される。


「ねぇねぇなんだったの?情報は?犯人は?」


好奇心が溢れ出ている桜ヶ丘に小声で注意する。


「このクラスに被害者がいるんだから少しは気をつかえ」


 反省したのか肩を落とし、ただでさえ中学生と見間違える桜ヶ丘が小さくみえる。

 こいつ、桜ヶ丘夏海(さくらがおかなつみ)とは小学生の頃から同じクラスになることが多く、こいつのせいでいくつもの厄介ごとに巻き込まれた。要するに腐れ縁と言ってもいいだろう。小学生の時は大人びていたイメージだったが顔が高校生になっても変わらないので今では幼く見えてしまう残念なやつだ。とにもかくにも中身も外見も子どもみたいなやつだ。


「また桜ヶ丘さんを泣かしたのか?」


 サトルが軽口を叩くので自分の席に戻り隣の席に向って言う。


「泣かしてないわ。叱っただけです。」

「ヨシハルがいじめてくるー」


 知らん無視だ。


「で、どうだったの?」


 サトルと桜ヶ丘に、女子生徒2人から盗まれたこと、ピッキング跡はないこと、盗まれた財布と携帯1台は見つかったことを要略して話した。


「ふ~んまだ犯人は分かってないのか。ということは我々写真部の出番か・・・」


と何か物騒なことを続けて言う。


「まさかまた探偵ごっこやるのか?」


率直な疑問を口にするがすぐさま桜ヶ丘が否定してくる。


「ごっこじゃないよ!!写真部はこの厚商での探偵社なのだよ!!」


サトルも一応写真部に所属するくせに完全に他人ごとだ。


「ははーヨシハルガンバレー」


 この高校は商業高校であるくせに部活動全員参加という謎な校則がある。そのせいで部活動の申請が比較的簡単に出来るせいか目的が定かでないこのように写真部ができてしまった。

 そしてこの写真部が僕、鶴間好春の落ち着いた高校生活を奪う。それはいつも唐突に起きる事件や謎をこの桜ヶ丘がなんでもすぐ己の好奇心と自己探究心を満足させるためだけに動き出すのだ。

 そして人ごとのように僕にエールを送ってきたこのサトルは、その人あたりの良さとコニュミケーション能力の高さを活かして色んな人から情報を集めてくる。将来、ろくなやつにならんと思っている。だから少し文句を言いたくなった。


「なんでサトル、お前はよそ者を演じるんだ」

「まぁ俺も手伝ってやるよ」


それに桜ヶ丘が乗っかる。


「それじゃー本題に入ろう!!まず被害者は誰だっけ?」


 そこからかと冷ややかな目でサトルが桜ヶ丘を見る。僕もそれすら知らなかったが言うと僕まで同じ目で見られるのでサトルと桜ヶ丘の話を聞いている。


「し、知ってるし!ちょっと忘れちゃっただけだし」


目が泳いでるぞ。


「じゃあ被害者の佐藤花華さんと容疑者の一人になってる青木が付き合ってるのも知ってたかい?」


 俺は知らん。知りたくもなかったが。


「知らなかった!!」


素直だな桜ヶ丘。


「携帯が一台だけ戻ってきてないけどそれは今教室にいない佐藤さんのか?」


 一つ疑問を投げかける。が、そこはサトル。立てたまな板に水を流すように答える。


「うん、そうらしいよ」


 被害者に非があるとは思わないが率直な感想が口を出た。


「このご時勢に教室に財布も携帯も置いていくなんて防犯意識が低いな」

「教室に鍵をかけるから気が抜けたんじゃないかな」


学校にどんな奴がいるかしれたことじゃないのにな、と思う。


「そういえば鍵をかけた日直が疑われてないのだどうしてなんだ?」

「そりゃあ愛生ちゃんと一緒に私がいたからだよ」


 無い胸を張りながら桜ヶ丘が説明してれた。


「それじゃお前もグルって可能性だってあるじゃないか」

「グルじゃないよっ」


 僕のくだらない冗談に頬をまたリスのようにふくらませて否定する桜ヶ丘。


「ヨシハルの冗談はさておき、その愛生ちゃんこと岡本愛生さんがもうひとりの被害者だったんだよ」

と的確に情報をくれるのはやはりサトルの方だった。

「愛生ちゃん盗られたの!?犯人許さん!!」


 怒ってばかりの桜ヶ丘はそれを聞いてすぐに岡本さんの元に走って行った。

 岡本さんはうちのクラスの学級委員であり、皆から慕われているが近寄り難い高嶺の花といった感じだ。無論僕も近づけない口だ。それを見送りながらサトルに確認する。


「今行方がわからないのは携帯一台で他の3つはもう戻ってきたんだろ。なら岡本さんのはモノはもう返ってきているのか」

「そうじゃないかな。でなければここで笑いながら喋ってないよ」


 教室の前方に目を向けると岡本は、はしゃぐ子犬のような桜ヶ丘の相手をしている。岡本と目があってしまった。岡本が手で招き寄せる仕草をしてきた。立って喋っていたのが辛かったのか自分と入れ替わるようにサトルが僕の席に座った。だから僕はひとり教室の前側に居る岡本さんの元へ移動する。


「どうした岡本さん」

「心配してくれるのは嬉しいんだけどちょっと夏海うるさいから持って帰ってくれる、鶴間くん」

 残念な娘、桜ヶ丘夏海。

「ということだ桜ヶ丘、席戻るぞ」

「ひどいよ愛生ちゃん!」


 全く世話が焼けるやつだが、小学校からの付き合いだと思うとさすがにもう慣れて厄介だとか思わなくなってきた。毒されているのだ。


「でも愛生ちゃん、全部返ってきて良かったよ!」

「そうね、携帯にパスワードもかけてなかったから心配だったわ。でもなんだったのかしら?」

「わかんないけどそれはヨシハルに任しといてよ」


 この娘は全く悪びれずに人に放りやがったなと思っているとさらに追撃がくる。


「あれ、鶴間くんって頭良かったっけ?」

「岡本さんに比べれば劣るが指定校で大学に行けるほどの学力は持っているよ」

となけなしの誇りを口にする。

「ふ~んそうなんだ」


 興味があるのかどうか曖昧な返事だった。気にしない。桜ヶ丘も全く気にせず言う。


「とにかく、何も盗られてなかったわけだから放課後約束してた通りカラオケに遊びいけるね!」

それは良かった。もう僕には関係ないなと思い、サトルのもとへ、もとい自分の席にへと戻る。

「なんだったんだい、ヨシハル?」


 僕が席に戻ってくるのを見ると席を立ちながら問うてくる。


「いや何、桜ヶ丘がうるさい犬だってことだ」


 本当にそれだけなのかい?という笑みを浮かべながらもそれ以上は追求しては来なかった。

 席に座ってサトルのことを考えず事件について考えながら呟く。


「じゃあなにが目的で盗ったんだ・・・」

「そりゃあお金に困ってたんじゃないかな?」

「それならモノが戻ってくるのはおかしいだろ」


そういえばと、さっきの話を思いだし続ける。


「仮に戻って来るなら空の財布だけだ。けど戻ってきた財布からは何も盗られていなかった。それに転売すればそこそこ値が張る携帯も戻って来てる」

「そう言われるとお金が目的じゃなそうだね」


 財布と携帯を盗みそれが既に戻ってきている。なら理由は一つしか思いつない。思わずといった感じに口が動く。


「情報がほしかったのか・・・」


 聞こえなかったサトルが聞き返してくる。


「なんだって?」

別に隠す必要もないので繰り返す。

「いやなに、犯人が欲しかったのはお金じゃないのなら情報だったんじゃないかなと」

「情報?」


 サトルの眉間に皺がよる。繰り返し言ってみる。


「そうだ、個人情報」

「個人情報?」

「知らないのか?住所や名前、電話番号の総称だろ」


 そんなことも知らないのかと冷やかす。半分以上冗談で。


「知ってるよ。なんだって個人情報なんだって話だよ」

「恋人を知ろうとするのは当たり前じゃないか?」


 サトルは承服しかねるといった顔をする。


「それじゃあ犯人は青木だって決まったも同然じゃないか」

今度は驚きを体で表現し始める。それを落ち着かせるために言う。

「まぁ所詮は推論の域を出ないがな」


 考えをまとめるようにゆっくり最初から言う


「青木は佐藤さんと付き合っている」

「それは確認したことがあるから真実だよ」

うむ。

「そして青木が3-1、会議室への道中に森、岩田の三人の容疑者が仲良さげに話しているのを見た」

「その三人なら確か昨年度も同じクラスだったはずだよ」


 的確な情報をサトルが追加してくれる。


「それならこの三人が共犯な可能性が高いな」


 手持ち無沙汰からか長くほっておいて伸びてしまった前髪をいじりながら話す。


「青木と佐藤さんは付き合い始めてどれくらいなんだ?」


 あまり大きな声で言う話ではないと思ったのか、サトルは座っている僕の耳元で囁く。


「あまりはっきりしてないのだけど多分、青木が佐藤さんにクラス内でよく絡むようになったのが先週からだと考えると土日にlineか何かで告白したんだと思う」


 サトルにしては歯切れが悪い言い方だが、こいつも僕と一緒で人の色恋沙汰には興味がないのだろう。ただ、こいつは人間が嫌いな訳ではないから最低限知っておこうと行った具合だろう。


「なら二人はまだお互いをそんなに知らないだろうな」


 サトルが僕から離れ隣の自分の席の机に座りなおす


「もう2学期も終わろうというのに知らないもんかな~?」

「確固たる証拠があるだろ」


 本当か、と疑う笑みを浮かばせサトルが聞いてくる。


「なんだい、言ってみてよ」

「僕はお前の家すら知らない」


 サトルは処置なしといったように額に手を当てる。


「それはヨシハルが人に興味ないだけだろう」

それはごもっとも。

「だが、付き合ってもいない異性に自宅の住所を教えるやつは普通いないと思うが?」

「普通で思い出したけど、佐藤さんは普通の人じゃないみたいだよ」

「それはキャトルミューティレーションされた宇宙人だとかそういうことか?」

「冗談かい?珍しいね」


 と、肩に手を置かれ心配されてしまった。


「そうじゃなくて佐藤さんは別次元に生きる人なんだよ」

ふむ、何を言ってるんだ。

「頭おかしいのか?」

「ヨシハル思ってることとセリフが逆になってるよ」


 処置なしといった様子で両手を挙げやれやれといった感じだ。


「そうじゃなくていわゆるアニヲタ、二次元が大好きでしょうがない人種なんだ。」

「つまり三次元に興味がない、彼氏の青木にもそれほど関心がない可能性が高い。そういうことか?」

「ありえなくないね。ただ、本心はわからない」


 それは一番の問題だが、致し方ないものだと割り切って考えるしかないだろう。青木と花華は付き合っているが、どちらかというと青木の片思いに近いと思われる。花華は二次元に恋をするどちらかというと普通じゃないタイプの人間だ。これはサトルに言わないが、過去付き合った僕は知っている。

 今まで青木と花華が話している様子は無かったことから、青木は花華のことを詳しく知らないと思う。ならば好きな女子のことを知ろうとするんじゃないか?決して褒められたことではない、むしろ犯罪ではあるが、相手のことを知ろうとすることは普通のことなんじゃないか?といったようなことをいった


「青木は恋愛が下手だったのかな」


サトルが笑いながらいった。


「まあ、岡本さんは佐藤さんだけが盗まれると青木に角がたつと考えて盗ったとか、仲間の森か岩田も家の場所が知りたかったとかそんなとこじゃないか」

「えらい迷惑な話だね。それにしても佐藤さんの携帯は?」


さっき桜ヶ丘が騒いでる時の話を思い出す。


「岡本さんはパスワードを設定していなかったからすぐに情報が取れた。が、佐藤さんのは、パスワードが解けなくてまだ犯人が持っている可能性が高い」


 と言い切ってから気づく。


「そして今、彼らは会議室に詰め込められている。さらに証拠をわざわざ取調室に持っていくとは思えない」


 サトルは察したようで容疑者の席を確認するために授業をする先生の為に教卓に置かれている座席表を取りに行く。それに気づいた桜ヶ丘が岡本さんとの会話を切り上げこっちに来た。


「何かわかったの??」


 同じ話を最初からするのは面倒だ。百聞は一見にしかず。証拠探しに行こう。



「まさか本当に見つかるとはね」

「ああ、全くだ」


 サトルの驚いた声に同意する。


「これ花華ちゃんの携帯じゃん!」


 花華の携帯は彼氏の...いや、犯人であるはずの青木の鞄から無事発見された。

彼氏がいまでは犯人であるのはもはや明白になった。だが問題は。


「この携帯どうするの?」


 サトルが携帯を持ちながらいつもの微笑みで聞いてきた。


「真実の確認はしようがないが、青木が盗ったのが事実だ。だが、森たちの関与は分からない」


 ならばすることは一つだ。サトルの手から携帯をとる。そしてパスワードの入力画面をつける。0を4回押す。すると携帯はバイブレーションを揺らすことなくホーム画面を表示する。サトルが目を見開く。


「なんでヨシハルが佐藤さんのパスワードを知っているんだい!?」

「前に僕の前でロック解除するのを見ていたんだ。

まあ青木より僕の方が佐藤さん...いや花華との付き合いが長かっただけだ・・・」


 秘密は誰にでもある。

 そしてSNSアプリを起動させ青木とのトーク画面にしてメッセージを送る。


『放課後5階視聴覚室前にて待つ』


 視聴覚室は一般棟最上階の辺境。人気がない。隠れて合う場所としては適当だろう。

そして既読がつくのを待ってからそのメッセージを消去することを忘れない。


 5Fの視聴覚室前にはやはり3人で現れた。

 結末から言うと青木たち3人の容疑が日の光に触れることなく携帯は真の持ち主に返された。青木たちは先生たちの取り調べではシラを切り通したそうだ。そして携帯、財布を盗ったことを言わない代わりに佐藤さんと別れることを約束させた。



 1Fから一人でしらみつぶしで携帯を探していた花華には5Fに携帯が落ちていた、そういうことにした。


「やった!零さんが返ってきたっ!ありがとうヨシハル」

「零さん?」


 佐藤さんは知らないの?という顔をして自分の携帯の待ち受け画面を突き出すように見せてきた。


「このお方がそうなのだ!」


 そこには流行のソーシャルゲームの男性キャラクターがいた。

 幸せそうでなによりだ。だからこそパスワードも零なのか。と、合点がついた。


「なんかまた裏で動いてくれいたでしょ、どうせ」


 やれやれといった感じで、しかし優しい顔で立っていた。

 こいつには敵わない。寒い廊下に長いこといたせいで身体が冷えていた。昼をすぎて、傾いた太陽は一般棟に日を当ててくれない。さて家に一刻も早く返って温泉に浸かることにしよう。


 やはりサトルは僕にアルバイトを始めることを言っていないではないか。まだ冬休み初日の夜、僕はベッドで昨日のできごとを思い出してその疑問の答えへたどり着いた。


主人公、鶴間好春はこの事件に置いて完全に第三者であり、探偵でも警察でもありません。ただの男子高校生です。本人は、少し曲がった考えをしていますが、それも含めて普通な男子高校生だと思っています。だから、目的は女子に格好良い顔したいとかかもしれません。モノを取り返してもどうやって教室に犯人が入り込んだのかというミステリに置いて重要な部分は書かれていません。今回、重要だったのは「なぜ、盗んだのか?」だったからです。

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