羽虫
過ちを犯してしまったのです
オイルランプがぼんやりと照らすのはあの日の思い出
ぼんやりとした瞳の少年が湖の淵に座り込んでおります
手負いの少年は歩く気力を失っておりました
ひんやりと湿ったくうきに疲れ切った身体をふるりと震わせて
少年はぼんやり感覚を失った指をみつめておりました
祖父から貰った古びたランプの光はぼんやり古びた写真を照らします
笑う少年と照れくさそうに笑う老人
あそこから転げ落ちたのでございます
点々としたたる血の後に続く羽虫は
少年の周りをぐるりと覆い
妙に生温かい晩のこと
胸がむかむか し内臓すべてがどろりと外へ出そうなそんな夜のこと
外の方へ飛んでいった羽虫がわたしの目に留まりました
きらきらしておりましてなんともかなしい風景でした
あそこで足をすべせたのは其処に罠が仕掛けてあったからでございます
小柄な若い雄じかがヒューヒューとくるしげに訴えておりました
点々としたたる血の後の続く羽虫は
雄じかの周りをぐるりと囲い
覆っておりました
妙に生温かい夜のこと
雄じかはそっと羽虫に何かを伝えたかのようでした
ふわりと舞った羽虫の大群は
ふわりふわりと空を舞い上へ上へとのぼっていきました
雲がひとつも無い晩のこと
ほの白く照らされる羽虫の大群は
上へ上へとのぼっていきました
倉庫の片隅に眠っていた古びたオイルランプを照らしたくなったのは
妙に今日があの日に似ていたからでございます
そっとランプを照らしたところ
小さな羽虫の大群がランプの周りへ寄ってまいりました
しゅーしゅーしゅー
羽虫は大量に集まってまいります
何処からか鹿の鳴き声がした気が致しました
ぼんやり照らされたほの明るい光の中で羽虫が舞っておりました




