【超短編】ミッドナイト・スナイパー
彼はうつぶせの姿勢で息を潜めながら、スナイパーライフルを構えてスコープを覗いていた。
ボルトアクション式で旧式のモデルであったが、彼にとっては最も馴染み深いものだ。
「距離は300、横風はなしか……」
目標までの大体の距離と、目標周辺に干してあった洗濯物らしきものの動きから横風がないことの検討をつけた。
横風が吹いていないのは敵を狙うのには都合が良かった。
また、目標までの視界を遮るものはなく、こちらが構える場所を変える必要はなかった。
深呼吸をしてから再び円形の中に描かれる世界に集中した。
単独で行動していたその敵は、脅威がないと思い込み、一息ついているようだった。
狙撃のための条件が整った後の彼の行動は、正確で、静かで、どこかゆったりとした雰囲気を持ちながらも確かに鋭いものであった。
ボルトをできるだけ素早く動かし、次弾を薬室へと送り込んだ。
トリガーに指をかける前にトリガーガードで指の屈伸運動をし、指の動作に問題がなくスムーズに行われることを確かめた。
そしてついにトリガーに指をかけ、絞るようにゆっくりと引いた。
ストンという感触が、引き金が発射されるのに十分なほど引かれたことを示していた。
彼のライフルから放たれた一発の弾丸は、まるで導かれているかのように目標へと吸い込まれていった。
弾が命中した瞬間、目標は弾けた。
原型を失い、体液を撒き散らしてその場に散らばったのだ。
「任務完了」
彼はそう言うとそそくさと立ち上がり、ティッシュペーパーとビニール袋を用意して今しがたスコープ越しに対峙していたゴキブリを片付けた。