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プロローグ


 ヤエ姉と一緒に見る朝焼けが大好きだった。


 四年ほど前、僕は体に不調を抱えていた。

 その不調とは、障害が発症したとか発育不全を起こしたとか、そこまでの事態ではなかったものの、体の諸機能に違和感、ひいては若干の不備を感じる具合のものだった。

 なんでも、僕の体は成長に際し、栄養を人よりもたくさん要求するようになってしまったのだそうだ。そしてそのせいで、慢性的に僕の体は栄養が欠乏状態になり、少しばかり虚弱体質に寄ってしまったとか。

 そんな僕の不調を心配してか、ヤエ姉は僕を朝の散策に誘うようになった。


 ヤエ姉っていうのは、ヤエカという名前の僕の三つ年上の姉のことだ。ヤエ姉は僕よりもずっと大人で、つねに僕よりずっと深いところまで物事を考えていた。

 この朝の散策も、ヤエ姉の細やかな配慮の現れだったのだと今なら思う。彼女は当事者の僕自身よりも、僕の体の不調を気にかけていたのだろう。


 その散策はこの都市〝リュウセン〟でもっとも高い丘に登るというものだった。薄暗がりの中、目を擦りながら丘を登るんだ。

 丘の道は険しいとは行かないまでも、平地に比べれば、当然踏破するのに体力が必要だった。白状すると、体力の有り余るヤエ姉に付いて行くのは、当時の僕には少し厳しいものがあった。

 だけどそれでも、登り切ってしまえばそんな疲労も軽く吹き飛んでしまうほどの絶景がいつも迎え入れてくれるんだ。ヤエ姉のペースについて行くと、上まで来た頃ちょうどまさに、下界は朝色に染まり始めている。


 その景色は、今でも目に焼き付いている。


 遮るもののない丘から下界を見下ろすと、眼前に広がる世界は、初々しく輝きを帯びだしていた。それは空から降り注ぐ光の色よりもわずかに淡く輝いている反射の色だった。包みこむかのような広がりを持った朝の色なんだ。

 僕もヤエ姉もこの一瞬だけは、二人でいる事を忘れて、自分だけの景色をその目に焼き付ける。そして気付けば、目を奪われているその間に自分たちも光を反射していて、立派な朝の一部になっているんだ。

 僕は指で眩すぎる光を制限しながら空を見上げ、そして同時に目を細めつつ味わうように新鮮な空気を取り込んだ。

 肺のふさが緩やかに広がっていく。やわらかく満たされていく。


「眩しいくらいね……」

 僕の隣でヤエ姉は吐息をもらす。語りかけたられたわけではないのは知っていたけど、僕はヤエ姉の呟きに頷いていた。

 頭上では燦然と輝く光。本当に、眩しいくらいだった。

 空から僕達を照らすのは、ランティという恒星。

 そして、ランティの発する温かいベールのような光は決して比喩などではなく、僕達に活力をくれる。

 その光は、たとえ僕が目を閉じたとしても、薄いまぶたなんてやすやすと貫通してしまうくらいに力強くって、生きとし生ける者の営みの起点となるんだ。


「……よし、今日が始まるぞっ」

 ランティの光をたっぷりと浴びながら、ヤエ姉は朝一番の伸びをする。

 追随するように、僕も深く息を吸った。

 すると、まるで僕の吸った分の空気を補うかのように、風がそよぎ始める。

 ざざざ……と、草どうしが頬ずりでもしているかのようなホワイトノイズ。そしてそのタイミングで、


 丘がにわかに光を放った。


 先ほどまでは何事もなかった地面や木々の隙間から、疎らに光が漏れ輝いているんだ。

 目を凝らして、その光点の一つ一つを窺ってみると、あるものは果物のような、またあるものは芽のような固形物が、燐光をまとって生えていることがわかる。


「いけない。ぼうっとしてた」

 目の覚めるような光を四方から浴び、僕とヤエ姉も夢うつつから覚めた。しばらく個人の時間をすごしていたが、その様々な形をした固形物が輝きだすのを合図にして、まずヤエ姉が動き出す。

「よっと……」

 ヤエ姉は近くの木によじ登る。そして、その木に茂った輝く果実を二つ程もぎ取った。


「ユー」

 ヤエ姉は僕を呼ぶ。僕はユミトだからヤエ姉には『ユー』と呼ばれていた。

掛け声の方向に体を向けると、ヤエ姉は今さっき取った実の一つを投げて寄越してきた。

 ヤエ姉の投球は見事なので僕にキャッチの技術は必要なかった。投げられた果実は初速度と重力のみで奇麗な放物線を描いて、棒立ちの僕の腕の中におさまる。


 投げ渡された果実を持ち上げると、ぎっしりと形いっぱいに詰め込まれたかのように重みがあった。そして同時に、目を細めてしまうくらいに眩い燐光をまとっているんだ。

 この重量と輝きは、新鮮な朝日を吸ったせいなのだろう。もぎ取られてもなお、果実は輝きを失わない。とてもおいしそうに見えた。

 当時栄養の欠乏していた僕の体は、この実を強烈に欲しているらしい。目の前にするだけで唾液はすぐに溢れかえってくる。


 でもちょっとした理由があって、僕はすぐにがっついてしまうのには躊躇を覚えてしまっていた。だからそんな時、僕はワンクッション置くようにヤエ姉を盗み見る。そしてヤエ姉が自分の方を見ていないのを確認すると、そこでやっと僕は果実をすばやく口に運ぶんだ。


 ランティの実は、氷をかじったかのような、固くて脆い歯ごたえをしていた。僕はそのまま、ろくに噛むこともせずに嚥下する。

 すると直後、体の中心付近がうごめくような感覚を覚えた。喉を通って落ちてきた果実に反応して、臓器が活発化しているかのような、そんな感覚だ。


「これで足りる?」

 僕が食べきるのを確認するとヤエ姉はいたわるような調子で尋ねてくる。

 僕は質問してきたヤエ姉の方に一度振り向いて、でも、かと思うとすぐさま視線を逸らす。そしてつまらなそうにこう言うんだ。

「…………当たり前じゃん」

 このての、体をいたわるような問いかけに対して、僕は無愛想に返す事が常だった。当時の僕には煩わしく感じられて、ついそういう態度をとってしまっていた。

 なんだか自分の体の軟弱さを痛感させられるように思えて悔しかったんだ。


「強がらないの。あなたの体は、マナが不足しているんだから。栄養をしっかり摂らないといけないのよ」

 僕がすねたような態度をとると、ヤエ姉はそう言って僕をたしなめた。

「朝一番の〝ランティの実〟は光を消耗する前だから栄養をたくさん蓄えているのよ」

「そんな事……僕だって知ってるよ」

 朝一番の光を浴びた〝ランティの実〟はそのエネルギーを徐々に消耗していく。

だから、光を吸ったばかりの早朝の実が、一番栄養価が高い。そんなことは常識中の常識だった。


「でも別にこんな所まで登って、わざわざ食べなくたって僕は平気だよ。…………ヤエ姉は大げさなんだよ」

 ヤエ姉に心配されると何だか無性に情けない気持ちになって、僕はよく心にもない事を言った。本当はこの朝の散策が大好きだったのに。

「平気なものですか」

 僕が強がりを言うと、ヤエ姉は諭すような口調に早変わりする。

「いい? 私達に限らず、生き物にとってマナというのは燃料であり、そして肉体そのものなのよ?」

 そのヤエ姉の高説は、百回は聞いたことだった。僕は何度も余計に頷く。

「はいはいっ。それも知ってるよ!『マナとは最高位のエネルギーと認識されているモノであり、万物はそのマナが形を変えたもの』だろ? 初等部で一番に習うことだ!」

 僕は煩わしげに言い返す。

「分かっているのなら、そんな投げ槍な態度を取らないの。足りないマナを補充するには、ランティの光を取り込まないといけないのだから」

 ヤエ姉は、言いながらもう一つ実を投げ渡してくる。


〝ランティの実〟は別名〝光の結晶〟ともいう。ちょっと比喩的ではあるけど、この実は光を固形物の形に閉じ込めてくれるって事で、光の結晶って呼ばれていた。

 だから、当時の僕みたいに、照射されるランティの光だけではマナの生産が追いつかない人は、この〝ランティの実〟を経口摂取した。

 そう、この実は、普通の人は食さないモノなんだ。

 普通の人間は、ランティの光を浴びるだけで、マナの生産が追いつく。

 でも、なぜだが僕はマナをたくさん要する体質らしく、結果このようにわざわざ、朝一のランティの実を食べて、ようやく人並みという具合だった。

 そんな経緯があったから、当時の僕にはこの実は病人食のように感じられて、食べる事には躊躇を覚えていたんだ。


「……私もね、あなたくらいの年のころは、同じような症状がでたのよ?」


 僕が煩わしげに実を見つめていると、ヤエ姉はこう言って気を紛らわせてくれた。

「本当よ?」

 ヤエ姉は意味深に目くばせをする。すると、直後、ヤエ姉はその場でほとんど何の予備動作もなく後方二回宙返りをしてみせた。

 そして綺麗に着地すると、僕に凛々しく微笑えむ。

「でも、今じゃ、クラスの誰よりも運動能力が高いわ」

 宙返りはその証拠のようなつもりだったのだろう。確かに説得力はあった。

 ヤエ姉のその言葉を聞くと、僕はいつも少なからず励まされた。なぜなら、ヤエ姉が言っている事はすべて事実だったから。

 当時の僕と同じくらいの年齢の時に、ヤエ姉が体に不調を覚えていたのも確か。そして、その後に調子を整え、誰よりも活発になったのもまた、この目で見てきた、厳然たる事実であった。


「安心なさい、ユー。あなたの体は、特別製なの。成長のために普通よりも栄養を求めるってことは、それだけ立派なものを形成しようってことなのよ。今は周りのみんなより少しばかり劣っているかもしれないけど、すぐにみんなを追い越してしまうはずだわ」

 力強い言葉と同じように、ヤエ姉は手のひらで力いっぱい僕の背中を叩く。貧弱な僕は、その衝撃で転倒し、丘を転げ落ちそうになる事もしばしばだった。


 僕はそのまま転げて、崖の縁でなんとか踏みとどまる。そしてそのまま斜面ギリギリから丘の下を見やった。

 その時だ……


 ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォンンンン………


 山鳴りのような地響きのような、腹を揺さぶる低音が響き渡った。

 その音を聞くと、何故かはわからないけど、ぞくりと怖気がはしる。そしてそれはヤエ姉も同じらしく、丘の下の、僕と同じところを睨みつけていた。

 僕たちの視線の先で、黒っぽくて半透明の巨大な何かが腰を上げた。


「目を覚ましたみたいだね」

 僕は、心底不愉快にこう言う。

「いいえ。それは違うわ、ユー」

 この時、ヤエ姉がすぐさま否定したことが印象に残っている。

「ティクオンは眠らない。彼らにあるのは、生きているという状態か、死んでいるという状態だけ」

 ヤエ姉は僕の方を向いて、理性的に答えた。

「生きている? あいつは生物なの?」

 ヤエ姉の謎めいた訂正に、僕は思わず指さして尋ねていた。

たった今、丘の下で雄叫びとともに腰をあげた黒い何かを。すなわち、人びとがティクオンと呼ぶ巨大な何かを。

「彼らは私達と同じように、マナを燃やして生きている、だから私達と同じ魔道生命なのよ」

 ティクオンをじっと見ながら、ヤエカは説明を加えた。


 生命には二種類ある。

 まず、僕達みたいにマナを消費して活動する〝魔道生命〟がいて、それとは別に、マナの生成・行使は出来ず、ATPという形で活力を得て、アミノ酸から体をつくる普通の生命がある。


 この丘に生えている草木は僕らとは違うその普通の生命だ。

 彼らは僕達のようにマナはつくらない。光合成をおこなって活動のエネルギーを得て、根から栄養素を吸収し体組織をつくっているんだ。


 対して、僕達みたいな魔道生命の体は、ランティの光のエネルギーをマナに変えて、それを体の色んな反応のために使ったり、体組織をつくるために使ったりしている。

 そして、ヤエ姉は、ティクオンは僕達と同じ魔道生命だと言った。これに僕は納得できなかった。


「でも、ティクオンはマナを自分でつくれないじゃないか?」


 僕は腑に落ちない顔で反論する。

 そう、ティクオンはマナを生み出せないんだ。

 それこそが、僕が感じているティクオンと自分との決定的な違いであって、そして僕がティクオンを生物と思えない最大の理由でもあった。


 ヤエ姉は一度頷く。

「ええ。マナを生成できるのはeバイタルという臓器だけだから、たしかにその臓器を持たないティクオンは自立的に活動できないわね。でも他種から供給してもらったマナを蓄え、それを使って動くことは出来るじゃない?」

 ティクオンは、人間から貰ったマナで活動している。それをヤエ姉は言っているらしい。


 しかし、僕はまだ腑に落ちない。

「それはできるけど……だからって生き物っていう事にはならないでしょ。それじゃあ、燃料を燃やして動く機械人形と同じだ」

「定義の問題よ」

 僕が訊くと、ヤエ姉は首を横に振った。

「私達の国では、魔道生命とは、マナを燃やして動くかどうかで決まるのよ。マナを生成できるかどうかは関係ないの。だからティクオンは、マナを燃やして動いているときだけ生きているという状態にあって、同時に生物であるのよ。彼らは機械仕掛けの人形ではなく、魔動生命なの」

 ヤエ姉は『生命』というところに力を込めて言った。

 定義の仕方の問題らしい。

 でも僕には、このティクオンという得体の知れない何かからは、生き物としての温かみをまるで感じられなかった。見るたびに、根源的で本能的な恐怖をかきたてられた。


「私達は、彼らに感謝しなくてはいけない」

 諭すような口調で、ヤエ姉は僕に言った。

「ティクオンは、この国の防衛の要なのだから」

 ヤエ姉のいう事は、当時の僕でも、頭では理解していることだった。


 僕達の国は戦争状態にあった。

 今、この大陸は二つの勢力によって分かたれている。

 その二つの勢力っていうのが、〝白の本国(ホワイトセントラル)〟率いる白の勢力と〝黒の本国(ブラックキャピタル)〟率いる黒の勢力だ。


 そして、この白の勢力と黒の勢力がいがみ合う理由は、両勢力に属する人間の種族の違いにある。

 なんでも、白の勢力の人間と黒の勢力の人間はそれぞれ〝陽性人(プラス)〟・〝陰性人(マイナス)〟という違う人類種に分類されるらしいんだ。


 具体的にこの二つの人類種が生物学的にどういう風に違うのか、そのアカデミックな部分になると、僕には良くわからないんだけど、取りあえず、二つの種族の人間が触れ合えば、存在をせめぎ合ってしまうって事くらいは知っている。


 僕達〝陽性人〟と〝陰性人〟は体を構成する物質が、真逆のもので出来ているらしくて、それが原因で、触れ合うだけでも互いの存在を脅かしてしまうんだ。だから世界的に、この二つの人類種は、対立種族として扱われている。


 ちなみに、僕やヤエ姉は〝陽性人〟で、この場所、リュウセンは白の勢力地という位置づけになる。存在を脅かし合う相手である〝陰性人〟の集まりの黒の勢力といがみ合うのは、悲しいけど当然なのかもしれない。


 そして、そんな戦争中だから、このリュウセンで、ティクオンの存在は大きな牽制となっているらしい。

 この国の防衛は、数人の魔法術士(魔法術っていう特殊技術を扱える超人みたいな人)と、一体のティクオンによって保たれているといっても過言ではないんだ。

 でも、その事実は当時の僕にとっては少し疑問に思うところでもあった。


「なんでここにティクオンを配備しているのかな? だってティクオンは、白の勢力下でもそう何体も保有していない貴重な兵器なんでしょ?」


 僕が尋ねると、ヤエ姉は頷いた。

「ええ、たしかに貴重ね。ティクオンは新しく造れないから」

 

 ティクオンは古代の戦争の時に人工的に錬成された魔道生命なんだ。

 だから、今では、造り出す方法は愚か、潜在している機能すら未知数な状態らしい。

 ようは、残存数が数体あるだけで、新しくは造り出せない貴重な古代の遺物ってこと。


 そして、むかーしむかし、ティクオンが生み出されたその古代戦争のあとには、いったん休戦期を挟んだらしい。で、その休戦が解かれて現在に至っている。

 その休戦期っていうのは結構長かったらしいんだけど、僕が生まれたときにはもうその休戦は破られていた。

 今続いている戦争は半世紀ほど前から始まったらしい。

 そして、現代の戦争では、このティクオンを数限りある重要戦力と見なして重宝しているみたいなんだ。

 でも、そう考えるとやっぱり僕は疑問に思ってしまう。


「じゃあ、どうしてこんな辺ぴな属領にそんな貴重な戦力を置いておくんだろう?」


 白の本国(ホワイトセントラル)はいくつもの属領を持っている。

 そして普通の属領では、ティクオンなんて使わずに、本国から派遣された魔法術士と、その国の憲兵とで警護するものなんだ。

 僕達の住むリュウセンは辺境に位置していて別に要衝ってわけでもないし、黒の勢力との衝突が頻発する勢力圏の境目でもない。

 なのに、このリュウセンでは、魔法術士だけでなく、ティクオンまでもが配置されているんだ。これは誰が考えても不思議な采配って思うだろう。


 僕の素朴な疑問にヤエ姉は首をひねる。

「それは私にもわからない。ティクオンを始め、魔法術に関する知識はおそらく意図的に制限されているようだしね」

 魔法術に関する知識の制限……そこら辺の事情は、誰かから聞いたとかじゃなく、ヤエ姉自身が肌で感じ取った事だろう。

 僕もそれは感じていた。不自然なんだ。

 魔法術っていうのは、人智を超越したような力で、その存在自体は広く知れ渡っている。

 なのに、肝心のその中身について……例えば、魔法術では一体どういう事が出来てどういう事が出来ないのかレベルの事ですら、一介の領民には知らされていないんだ。

 これじゃあ、意図的に情報が制限されていると思っても無理はないだろう。たぶん、軍事機密とかなんやらで秘匿されているんだ。

 たぶん、そういう秘匿事項っていうのは、もっといっぱいあるんだと思う。リュウセンにあるティクオンにも何か秘密があるのかも。


「ここ、リュウセンには、ティクオンで防衛するだけの何かがあるのかな?」


 僕はこんな疑問を口にする。分からないとはあっても、勘ぐってしまう。

 ヤエ姉は曖昧に首をひねることしかしなかった。何を言っても憶測にすぎないからだろう。

 思ったような反応がなくて、僕は物足りなさを感じた。リュウセンには実は何かすごい秘密が隠されているのかもしれない、なんてロマンのある話を当時の僕は面白半分に求めていたんだ。

 そう、面白半分に。

 それは知らないからこその過ちだった。この時の僕はまだ知らなかったんだ。

 僕たちがその秘密とやらに、思わぬことで関わってしまうことになる事を。



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