表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

破壊の神 リバース ~逆行~

黒い生き物が喋った! 

どこに口があるのかは分からないけれど、今喋ったのはこの黒い生き物に間違いない。

この濁った醜い声にも聞き覚えがある。

……そんな事よりも破壊の神って何? ユタ様って誰?


「ねぇ、あなたは何を言っているの? あなたは何者なの?」

 

私は黒い生き物に向かって尋ねた。

 

黒い生き物は数本の触手を身体から伸ばした。

触手は弱々しく揺れる。

……黒い生き物は私に攻撃しようとしているのではないらしい。

ただ最後の力を振り絞っている様に見える。


「私は……『マータイ』という銀河に浮かぶ星、『マーゴイ』を統べる三神の一人……『キオーメル』……消えた二人の神は……『ターバルザ』……『パカスール』……」

 

黒い生き物は息も絶え絶えにそこまで話すと、どこが口か分からないけれど「ハァ―」と大きく息を吐いた。


「……キオーメル。あなたはただの化け物ではなくて神だって言うの?」

 

キオーメルは瞼をゆっくりと閉じた。

そして今度はゆっくりと瞼を開き私を見つめた。

意図的に瞼を動かしている……。

質問に対して「YES」と答えているのだろうか?

この不気味な生き物は自分を神だと言っている。

マータイという銀河に浮かぶマーゴイという星の神……。


「キオーメル、あなたが追いまわしていたのは私なの?」

 

キオーメルは瞼を一度閉じた。

「YES」という意味なのだろう。


「……なぜ私を追いまわしていたの? 私を殺すつもりだったの?」

 

すると、キオーメルの白眼の部分に走る血管が伸びたり縮んだりとした。


「……違います。私はあなたを崇拝しています……。あなたの復活を……待って……」


「……復活ってどういう事なの? 私は一体何者なの?」


「……ユタ様……あなたは破壊の神……。前時代宇宙に突如現れた破壊の神……」


前時代宇宙? 

それって確かビッグバンより前の時代の宇宙……。

私はその時代に生きた神だったって言うの? 

じゃあ、今のこの私は何? 

アナという私は一体何?


「……私達はどれほどまでにユタ様の復活を待ち望んだでしょう。……前時代宇宙が滅びてから百三十八億年……。マーゴイから遥か西、何億光年も離れた銀河の片隅……地球人の言う天の川銀河の片隅……。そこに復活を意味する星、『マギル』が現れてから十億年……」

 

するとキオーメルはキイキイと気味の悪い声で鳴いた。

……笑っているのだろうか? 

何が可笑しい……何が可笑しいの? 


「……ユタ様、あなたは多くの命を奪い去る……破壊の神。宇宙を恐怖に陥れる破壊の神!」


「うるさい! 馴れ馴れしくしないで!」

 

私はイライラとしてきた。

私は誰の命も奪わない! 

そんな事はしたくもない! 


「……ねえ、あなた達こそ何でシン達を殺そうとしたの? 私の大切な仲間達……。あなた達こそ破壊の神でしょ? 気味の悪い声で鳴くのはやめて!」


「……ユタ様、あなたに仲間なんて……必要ありません。あなたは孤高の神……。彼らの存在は邪魔でしかない。……だから、私達が殺して差し上げようと……。それに……私達なんて平凡な神でしかない……。あなたの様な血も涙もない、本物の破壊の神ではありません……」

 

するとキオーメルはさらに大きな声でキイキイと鳴いた。


「やめてって言っているでしょ! 今すぐ鳴くのをやめて!」


「……私達の……私の目的はあなたの行為をこの眼で見る事。……ユタ様、あなたの徹底的な殺戮をこの眼に焼き付ける事――」


「やめろ! 私はそんな事をしない!」


「……しますとも! あなたはそういう神だ! ……さぁ、早く完全に復活して下さい」


「復活なんてしない! 私は破壊の神ではないし!」


「何を恐れているのです! さぁ、この下らない宇宙を滅ぼし、新しい宇宙を作りましょう! ……何が大宇宙神だ! それぞれの神は思うままに生きるべき――」


「黙れ!」

 

私は右手を振り下ろすとキオーメルの体を真っ二つに切り裂いた。 

キオーメルの体から赤い血が噴き出す。

血を浴びる私の身体はその勢いに吹き飛ばされそうになる。

私は身体を横にずらし血の放水から逃れた。


――この化け物め!


「そんなに殺戮を見たければ直接味わえ!」


私は一歩前に踏みだすと、キオーメルの裂けた体を全力で蹴飛ばした。

キオーメルの体は破裂し、黒い肉片や内臓らしき物が周囲に弾け飛んだ。


「思い知った?」

 

私は無理矢理に笑った。

頬の筋肉がひきつっているのが分かる。


キオーメルの肉片や内臓が地面にボトボトと落ちてくる。

するとキオーメルの残骸は全て煙の様に消えてしまった。


「……何が破壊の神だ……何が殺戮だ」

 

私は暫し呆然としながら青空を見つめた。

……破壊の神、殺戮。

私は一体、何者なの?


私は自分の掌を見た。

……血まみれだ。

滴り落ちる程の血にまみれている。

掌だけではない、私は全身血まみれだ。

長い黒髪も、白くてキレイだったセーラー服も、腕や足も……全て血にまみれている。

これが……この血にまみれた姿が、私の本当の姿なのだろうか?

 

私は両手で頭を抱え、その場に屈みこんだ。

おぞましい! 

何ておぞましいの! 

恐怖で体が震える。

……でも、なぜだろう? 

心の奥深くには違う感情が宿っている。

……恐怖とは間逆の感情。

――これは喜びだ! 

そうだ喜びだ! 

私の心の奥深くに住む化け物が、両眼をギラギラとさせて喜んでいる!


「私は一体どうなってしまうの! 私の存在は一体何なの!」

 

私は思わず声に出して叫んだ。

 

すると、急に辺りが暗くなった。


私は立ちあがり空を見上げた。

空は夕方の様に薄暗くなっている。


……何かが起こる!


「アナ、復活する時が来た」


天から声が聞こえた。

――神の声だ! 

男か女か分からないこの声!

 

私は立ち上がり両手を広げて神に訴えた。 


「神よ、一体私は誰なの? 私は一体どんな存在なの!」

 

神は返事をしない。

……何か答えて!

 

すると私の視界の端に何かが見えた。

――シンだ! 

モノノリとアオノリもいる!

三人は身を寄せ合い、怯えた表情で天を仰いでいる。

三人にも神の声が聞こえたのかもしれない。

……なぜだろう? 

もう三人とは会えない様な気がする。

……いや、会ってはいけない様な気がする。

 

四方八方から風が吹いてきた。

凄まじい風! 

私の血にまみれた髪の毛やセーラー服があっちこっちにバサバサとはためく。


「あああああああああ!」

 

私は両手を広げたまま天に向かって叫んだ! 

なぜか分からない。

でも私は天に向かって叫んだ!

視界の端で、シン達が私に向かって何かを訴えている様な姿が見える。

風の音で声は聞こえないけれど、大声を出し私の事を止めようとしている様に見える。


すると空が白く光った!


「さぁ、復活するのだ。アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタ!」


風が止まる。


……静寂。


神の声が聞こえた……。

アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタ。

私の名前……私の本当の名前。

……私の本当の存在。

破壊の神……殺戮……。


「うおおおおおおおお! ぬおおおおおあああああああああ!」

 

身体の奥底から獣が咆哮する様な声が湧き上がってきた! 

子宮辺りが膨れ上がり、熱い液体が噴きだそうとする! 

うなじに鳥肌が立ち乳首が硬くなる。

……これは何? 

硬く大きな物が子宮へ突き刺さる感覚に襲われ、思わず吐息が漏れる。

それは何度も何度も下から子宮に突き刺さる。

私の脳裏に、マグマを噴きだそうとしている火山の映像がよぎる。

……獣が、獣が牙を剥き出しにして暗闇の中を駆け上がって来る! 


「ンガアアアアアアアア!」

 

口が勝手に雄叫びを上げる! 

子宮から電気が走り脳天を突き刺す! 

……身体が熱い!

 

突然、アウトレット南大川が破裂し飛び散った! 

イト―ヨークドー、ロータリー、南大川駅、帝都大――他の建物も全て飛び散る! 

私の身体が壊れる前に、私の周囲の世界が壊れだした!  

道路や線路といった人工物も全て飛び散る! 

残ったのは山や川、草や木だけ……。

辺りには自然だけが残った。

地球の時間が巻き戻されているのだろうか?

 

うぅ、子宮が膨らむ! 

熱い! 

 

山が飛び散った! 

川が飛び散った! 

草や木、土が飛び散った! 

周囲には青い空と茶色い岩石だけが残った。

……これは太古の地球の姿なのだろうか? 

青空と岩石以外には何も存在――いや、違う! 

黒い空間も存在している! 

黒い空間は消えずに空に浮かんでいる。

ルカもあの中にいるのだろうか?

人間や動物といった生き物はどうなってしまったのだろうか? 

知らぬ間に消えてしまったのだろうか? 

……どこにも見当たらない。

 

シンは? 

モノノリとアオノリは? 


――見つけた! 


岩石の上、三人は身を寄せ合い怯えている。

三人は飛び散らずに存在している!


「三人とも逃げて! 時空移動船に乗って、どこか遠くへ!」


私は三人に向かって叫んだ。


すると三人の身体が同時に飛び散った。 


「嫌……。嫌あああああ!」

 

私の大切な仲間……跡形もなく消えてしまった! 

……そんな、そんな!

 

岩石の間から何本も火柱が上がった! 

火柱と共に、いくつもの巨大な岩石が空高く舞い上がる! 

――マグマが噴き出したのだ! 

地球は一体どうなってしまうのだろうか?    

神よ、あなたは地球を滅ぼそうとしているの? 


子宮の異常が治まった。

すると私の身体がどんどん巨大化し始めた! 

セーラー服は破れ私は裸になった。

体内のありとあらゆるものが膨張していく感覚。

……これは一体どういう事? 

全身に付着していた血液も、身体が巨大化するに連れて引き延ばされ消えてしまった。

長い黒髪が尾を引く様にして風にはためく。

頭が雲を突き抜ける。 

……一面、青い世界。

私はさらに巨大化していく! 

皮膚が収縮したり弛緩したりする感覚を繰り返す。

これは何? 

……そう言えば、さっきから私は気温や温度を感じていない。

周囲がマグマだらけになっても熱くなかったし、巨大化が始まり高度が上昇しても暑くもないし寒くもない! 

皮膚の異常に何か関係があるのだろうか? 

皮膚が収縮したり弛緩したりすることで、身体は気温の変化に対応しているのだろうか?


それだけではない、私は息苦しさも感じていない。

高度が上昇しようが、私は普通に呼吸を繰り返している。

私の身体の外部だけではなく、内部でも何か変化が生じている!


私の巨大化はさらに続く。

既に雲は遥か下の方……。

青空の上部が徐々に黒く染まり、その面積が広がっていく。

 

周囲のほとんどは闇になった。

私の身体は、どこか遠くから届く光を受け暗闇に浮かぶ。

すると周囲に小さな白い光が発生しだした。

白い光は弧を描いて消えていく。


――流星だ! 

流星がそこら中に次々と現れる! 

不思議な光景……流星はまるで雪の様に辺り一面を舞い散る。


流星もすぐに遥か下の方に小さく見えるだけになる。

私の巨大化は止まらない!


とうとう周囲には何も見えなくなった。

辺り一面暗闇だ。

すると突然、私の身体が浮き上がった! 

私の身体は闇の中をふわふわと漂う。

闇……。

音のない世界。

――宇宙空間だ! 

私は無重力空間に放り出されてしまった! 

私の身体はとうとう宇宙空間に到達してしまうくらいに巨大化してしまった! 


体内のあらゆるものが膨張していく感覚は消えた。

私の巨大化は止まったみたいだ。

私の身体はどれくらいの大きさになってしまったのだろうか? 

周囲に比較するものがないので分からない。


そう言えば地球はどこ? 

……見当たらない。

地球が私の視界から消えてしまった! 

あぁ、地に足が着いていないと急に不安が増してしまう!


すると頭上に赤黒い大きなものが見えた。

赤黒いものは徐々に下へと移動してくる。

……いや、赤黒いものは静止していて、私の身体が上に移動しているのだろうか? 

そもそも宇宙空間には上も下もない。

宇宙空間では、地球上とは同じような絶対的な視点、静止した視点は存在しない。

……あぁ、頭が混乱する!


赤黒いものが私の正面に現れた。


――大きい! 


赤黒いものは球体で、私の背丈と同じくらいの大きさ。

私は眼を凝らして赤黒い球体を見た。

……赤黒いものはマグマだ! 

球体の表面は激しく活動するマグマに覆われている。

まさか、これは……。

そうだ、これは地球だ! 

さっきまで私が存在していた地球だ! 

私は地球と同じ大きさにまで巨大化してしまった! 

 

地球はもう終わりだ。

青く美しい地球は太古の頃と同じ様に炎の塊になってしまった。

太古の地球――もしかしたら地球は終わろうとしているのではなく、再び始まろうとしているのだろうか?一度太古の姿、赤ん坊の姿まで戻り、再び大人へと成長しようとしているのだろうか?


……ん、これは何? 

私の頭上から塵の様に小さな何かが下りてくる。

私はその小さなものを掌でそっと受け止めた。

……小さな黒い球体。

どこかで見た事がある様な気がする……。

これって……まさか、南大川駅に現れたあの黒い空間? 


すると黒い空間に閉じ込められた女の子の映像が私の脳内に浮かんだ。

青いボーダー柄の白い半袖、足首でロールアップしたデニムのパンツ、赤いデッキシューズ、首に巻いた赤いバンダナ。


――ルカだ、紛れもなくルカだ! 


ルカは南大川駅で黒い空間に飲み込まれた時と同じ服装をしている! 


ルカは両手を口元に当てた。

――何かを叫ぼうとしている!


「アナ、元の存在に戻らないで! 負けないで!」


ルカの声が直接、脳に届いた。


私の子宮が破裂した――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ