起きたよ。
第一章
起きたよ。
凄まじい腹痛、頭痛、筋肉痛、この世界に存在するすべての痛みをひとつにしたら今僕が感じている激痛だ。この痛みのせいで気持ちのいい睡眠から起きてしまったみたいだ。少し気分が悪い。気持ちい睡眠が台無しになって何かを損したかのような絶望感が体中を循環する。寝起きが弱いのは事実だが、僕の体温で温まった冷たくて硬い石の床と轟音で気分が余計悪化した。
「起き上がらないと」
と僕は自分に言った。当然なことだがこんな状況で精神を保つにはそうするしかない。少しずつだが足を踏ん張ってやっと起きたと思いきや何人かの歩行人にぶつかって転びそうになった。
やっとバランスをとって立ってみたら目の前には見も知れない光景が広がった。
そこには木でできたらしき無数の橋でつながれたオリエントな塔たちが立ち聳えてて、紅色の美しい椛らしき木がそこら中に育っている。何十、いや何百もある多くの塔は背が異なって、見上げたら気が散るように高いものもある。僕は呆然して背の一番高い塔を首が痛くなるまで見続けたけど、何かの液体が僕の目を直撃したらしい。びっくりした僕はバランスを崩し、横にいた老いた女性にぶつかってしまった。まさにこれが二階から目薬なのか、とくだらない冗談を思いついた僕はまだまだ精神年齢が幼いと感じた。
するとあの老人は
「目を開けてちゃんと歩きなさい!だから最近の人間達はマナーがないわ!雨が降ってるからさっさと帰らなきゃいけねえのよ!」
と文句を投げて彼女はは老人とは思えない俊足で歩き去る。
最初は何も思いつかなかったけど、直ぐ様あの老婆の文句に疑問を感じた。
「人間達?普通は若者と言わないか?」
と思った瞬間周りの景色に気付いた。
見たこともない光景に僕の頭が狂いそうになる。
怪物?妖怪?化物?が当然だのようにこの狭い道を歩いてる。半人半鳥の化物や目ん玉だけで出来ている得体もしれない肉の塊も床にネバネバを引きずりながら這い寄ってる。まるで妖怪図鑑が生き返ったようで気味が悪い。
頭が痛い。何故僕はこんなところに居るのか?その前に僕は誰だ?何故僕は存在する?どうやってこんな場所にたどり着いたのか?
考えるたびに質問が多くなる。
怖い。
これが真の恐怖なのか。何も知らない状態で何も知らない場所に放り込まれるという拷問。恐怖以上にも狂気を感じる。
部屋の角に追い積まれたネズミは僕が今感じている感覚を経験するんだろうか。
僕は今、まさに狂気と恐怖という猫に食べられそうだ。あまりにもの恐怖で発狂しそうで気がが遠くなる。
とその時、誰かが僕に声をかけてくれた。
ふと振り向いたらそこには一人の美しい女性がいた。彼女は赤く染まった炎のような振り袖を着ていて、蘇って間もない不死鳥の翼のようだった。その微笑みは恐怖で瓶詰めの僕の凍った心を温かみと安心感で溶かしてくれた。
「大丈夫ですか?様子がおかしいですよ。あまり見た事無い顔ですね。旅人ですか?それとも-」
「じ、実は!いや、えっと...」
と情けない様で彼女の質問を礼儀無く割り込んだ。格好悪くて泣きそうだ。
焦った心を落ち着かせて改めて小声で僕の状況を説明した。すると彼女は何か大発見したような表情で手を合せる。
「それじゃあ私の家で少しの間居るのはどうですか?今兄がいないので彼の部屋を使っていいですよ。この都市は何も知らない人たちには容赦無い場所ですからね。構造が複雑過ぎて迷うのも稀じゃないです。後、貴方って他人とは違って特別かなって。なんちゃって~」
惚れた。
惚れたから付いて行くことにした、って言えば嘘だが完全なる嘘ではない。けど正直空腹や居場所のことも心配だったし幸運の女神が僕の見方だと思って彼女の後を歩いた。
この都市はまさにクレイジーだ。そういうざるをえない。狭い道や通路を進むたびに変わる匂い、毎回変わる住民の種類、太陽も無いのに明るいし周りが紅色で包まれている。しかもうるさい。とにかくうるさい。商人の声や歩く音や楽器の音色やすべてが混ざってカオスなオーケストラになる。決して美しい音色ではないが、この交響楽団のおかげでこの都市がこの場所唯一の雰囲気を放っている気がする。
僕の観察が正しければほとんどの住民が妖怪らしき化け物らしい。人間らしき住民はは妖怪百人に一人いる割合だけど一応僕と似たような人種がいてほっとした。
塔を渡って登っている内に僕はどれだけ高く来たのか今気づいた。塔たちを繋ぐ木の橋から下を見たらついさっき僕がいた石の床が雲か霧らしき気体でほとんど見えなくなっていた。見下ろしたせいか少し気分が悪化したから僕はその女性に声をかけようとした。けど名前を聞くのを忘れていたのを気づいた。
「あの、会った時に聞かなくてすみません。お名前は...?」
「紅葉の紅に赤ん坊の赤で紅赤って言うの。この都市のお偉いさんかな、私?」
「はじめまして紅赤さん。ええっと、僕の名前は...ええっと-」
「落花生の落に公園の園とそのままこころ。貴方の名前はこころよ。そう、落園こころ。ここの場所は紅雲道、唯一妖怪たちが集まる都市だわ。人口は約234000、この都市の建造物すべてが塔だけ、しかも二十四時間休みなしに活気がある奇妙な都市よ!ようこそこころ、紅雲道へ!」
何も知らずに突然奇妙な世界に起きた一人の少年。何も分からないまま紅赤という美しい女性に出会った。紅赤は何故か少年の名前を知っていて少年の心の中では疑問が増えていくばかり。次章、紅赤の家でどんなハプニングがあるのか?
第二章に続く