採取
「それでこの薬草が毒消しの素になる効果を持っているの。これ単体だと毒草だからそのままは使えないわ」
「へー、そうなんだ。じゃあ煎じてその成分だけ抽出したりするの?」
「そうよ、といってもただ水に浸しておくだけなんだけどね」
結構強引に連れ立ってみたけど気さくに色々教えてくれる。流石の親切。姉御肌。
そして女の子とタイマンで会話するのドキドキしてくるわ。
こういうハイキング的な感じで、森の中で女の子と一緒に歩く経験なんてリアルじゃ全然なかったしめちゃくちゃ楽しい。しかも会話の内容があらかじめ決まってるからスムーズに会話が出来るのがグッド。
ちょっとした知り合いと一緒にいると何話していいかわかんなくてお互い黙って気まずい、そんなことあるよね。特に女の子とそういう状況になるとなんだか謎のプレッシャー感じてとてもとても罪悪感を感じるという現象が発生するからね。
でもこうやって趣味があったり話す内容があったりすれば全然気にならない凄いたのしい。トーク術のスキルとかあったら超欲しいわ。やってたネトゲで詐欺師とかいう職業があって、あれはNPCに対しての会話がすべて有利になる方の選択肢が見えていた。
当然リアルのプレイヤーに対してはそんな事出来ないのであまり意味のないスキルだったけど、ギャルゲーマーやエロゲーマーには一種の敬意を抱かせるに充分なスキルだった。詐欺師から別名、ルート攻略者とかちょっとかっこいい呼び名になってた。
「ちょっと、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。色んな種類があるんだね」
ていうか身長差による上目遣いたまんないわ。
年下最強説あるわ。いや行きすぎなければ年上でも良いけども。
年上の妹ってのも、悪くないよね。うん。
それから小一時間ほど薬草をとりまくりコミュニケーションをはかりまくった結果かなり打ち解けたとみていいだろう。この薬草もギルドのクエストだけでなく、教会とかにも持っていくらしい。
というかリリー自体がギルドに所属しているが、あまり好きではないとのことで、それもやっぱり元貴族というのが大きい。
貴族と冒険者の隔たりはやっぱりどこのゲームや世界でもあるらしく、貴族が偉ぶって冒険者を見下しているのが原因らしい。リリー自体は全然そんなことないが、やはりそういう目で見る輩も少なくないみたいだ。
リリーの事を知っている人はそんな目で見ないし、それどころか親切にしてくれる人が多いみたいでそっちに優先的にアイテムを持っていくというのがリリーの習慣らしい。
ギルドで買い取りがあるアイテムは道具屋などに直接持っていくことも出来るらしいが、値段の上下が激しいらしく買いたたかれる事もしばしばで、交渉が発生するし面倒なのでギルドに持っていくことがほとんどなのだそうだ。ギルドでは依頼がずっと出ているかわりに報酬額が一定なのでそこは良い所だったりする。
教会で使われる薬草は、神聖性を高めるという名目で聖職者の食事にそのまま出たりするので需要は常にあるらしい。
ギルドでは金銭を目的とした、商人に流通したり街の交易のために使われ教会には流れないそうで協会は寄贈を常に求めているらしい。一定以上寄贈すると見返りに聖水等が貰えるのでやる人もそこそこにいるらしい。
お金に困っていると言っていたが薬草採取に関しては、知り合いに安く提供するためのお手伝いみたいなものなんだろう。本当にお金に困っていたらギルドに持っていくのが正解だからな。
「さて、こんなもんでいいわね。というか草の紹介だけで終わったけどあんたここに何しに来たの?」
ああそうだ、そういえば俺がここに来た目的何も話してなかったな。完全に浮かれてるだけでおわっちゃったわ。
「ギルドの最初のクエストでオススメなの教えてって言ったらこの辺の害虫駆除って話だからきた。そのほかにも薬草採取もって言われてたからもしかしてこの辺かなって思って」
「へー、害虫駆除なんてあるんだ? なんてやつ?」
あれ、初心者オススメクエストじゃないのか? それともリリーはレベルが高いからこのクエストやってないとかかな。
概要を伝えるとリリーは少し渋い顔をした。
「……あんたこれ、かなり割に合わない仕事よ。この害虫のサイズは爪ほどのサイズもないもの。それに百匹倒したところでゴブリン一匹にも満たない経験値よ。本当にただの害虫駆除。一介の冒険者がやる仕事じゃないわね。子どものお小遣い程度のものよ」
「……」
なるほど。めちゃくちゃ低く見られていたのか。丁寧すぎる態度は逆にこっちを馬鹿にしたものとみて間違いなさそうだな。
いいじゃんいいじゃん。ネトゲって街の住人の評価最初やたら低くて強くなったら手のひらクルックルするからそれが好きなんだよね。この街もまさにそれじゃん。
そうなるとこのクエストは受けて逆に正解だったな。良い情報をありがとう。
「でも受けちゃったんなら仕方ないわね。手伝ってくれたお礼に私も少し手伝ってあげるわ」
「俺の都合で教えてもらったんだし悪いからいいよ。その薬草だって早く届けたほうがいいんだろ?」
「いいの、恩を受けたらしっかり返せってのが家訓でね。家が取り壊しになったって私の心までは取り壊させないわ。それに時間もそんなにかからないからいいわ」
やっぱかっこいいなツンデレお嬢は。ツンデレ要素が既に無くなってる気がするからツンデレって感じはもうないけど。
でもそこまで言うならありがたく申し出を受けようか。
「ありがとう、助かるよ」
「べ、べつにあんたのためじゃないわ。私がそうしたいからするだけよ」
勘違いしないでよねっ! ってつけたら完璧だったな。やっぱツンデレかもしれないわこの子。