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召喚された勇者は使い物になるのでしょうか

「うーん、異世界から人間を連れてくるって言っちゃったけどどうしようかな」


 神と呼ばれる少女は部屋の中でごろごろしていた。


 魔王に啖呵を切って連れてくると言ってはみたものの、実際に異世界から召還した事などなくただただ時間をつぶしていた。


「誰がこっちの世界に適応性あるかとか考えてもわからないしなぁ」


 異世界は無数にあり、少女はその莫大な資料をいくつも調べていた。その中でもこっちの世界に適応できそうなのはいくつか的を絞っている。


 条件的にこっちとほぼ同じ種族について知識があること。勇者というからには人間であること。男性である事。


 種族については実際に存在しなくても文献等で知っていればいい。こっちの世界に連れてきた時にいちいち説明したり、追求されるのを回避するためだ。めんどくさいのは神の仕事ではないし、と少女は考えていた。


 それにそんなことで時間を使っていたらいつまで経っても魔王を倒せないし、そもそも魔王の存在を信じてくれないかもしれない。


 さらに人間である事、というのも個体からすればかなり弱く本当に戦えるのか怪しいと思われがちだが、人間は神の恩恵を受けやすい。

 例えば獣人族は、神を信仰していると言っても一種類の神を信仰し他の神を敵視していることが多い。


 エルフや魚人族、言ってしまえば知性の無い動物だってそうだ。人間程多種多様な神様を祭り、本気で信仰していないからこそ恩恵をすんなり取り入れられる。


 ただ、神は宗教に携わる人間には直接関与してはいけないというルールがある。もし宗教に神の力を与えると、自分が神だと言い出し世界に混沌をもたらすからだ。


 その昔そのせいで天界を追放された神もいる。人間に力を与え、歪んだ信仰心を集めた罪だった。


 神を信仰すればするほど、神からの恩恵が遠ざかるというのも変な話だがそうなっているのだから仕方がない。本気で神を信仰する人間程胡散臭い存在もいないと言われている。 


 最後に男性である事、これについては良くわかっていない。女性の勇者もいるにはいたが、どうしてか男性の勇者に比べると能力的に劣るという結果がでている。


 実際に何人も勇者を作り確認した出来事だから間違いない。ここ数十年はずっと男性の方が強く、魔王の城にたどり着くことが多かった。


「つってもなー、誰なら強くなるんだよちくしょー」


 結局のところ条件だけ詰めて行ってもわからないものはわからないのだった。


「もういいやその辺からテキトーに……ん?」


 資料を漁っていると一つの異世界が目に付いた。


「これは、良いねここから連れてこよう!」


 少女はその異世界以外の資料を投げ捨てたが、超常的な力で全てが綺麗にまとまり壁にある本棚の中に吸い込まれていく。


「ふむふむ、なるほど。これは期待できそうだ」


 少女はその世界に合った服装、いや、その世界の神が着ていそうな服に変身しその場から消え去った。


 彼女が持ち去った資料にはこう書いてあった。


 ロールプレイングゲームが盛んに行われいている、と。


------------


「はいというわけでやってきました地球! 私は異世界の地球に降り立ちました!」


 ざわざわと人が多い所に突如現れた変な人物はやたらと目を引いていた。誰も近寄ろうとせず、遠巻きに見ていたり写真を撮ったりする者までいる。


「うむ、資料にあった通りだな。さて勇者を探すか」


 その人物とは神と呼ばれる少女だった。神っぽい服装を選んで来てはいたが、この人込みだと注目を集めて仕方がなかった。


 そしてそんな恰好をしていれば次に起こる事もわかりきっていた。


「君、通報があったけどどうしたんだい」


 地球の誇る民間警備、警察である。


「勇者を探しに来た」


「勇者? 友達かい?」


「違う、魔王を倒す存在の勇者だ」


 警察は電波の人かな、といった感じで困ってはいたが質問を再開する。


「周りの人が急に現れたって言ってたけど、どこから来たのか教えてくれるかな?」


「異世界だ。この地球とは別の地球から来た」


「うーん、ちょっと署まで来てくれるかな?」


 警察が少女の手を掴もうとしたとき、そこで異変が起きた。


「ふん、最初からこうしていればよかったな。これで無駄な邪魔が入る事もないだろう」


 全ての人間、動物、機械や物まで動いているものすべてが動きを止めていた。


 周りからどんなに浮いていても、変な恰好をしていようとも、少女は間違いなく神だった。


「さて、ゲームの詳しい情報を仕入れておくか」


 この地球には魔物やモンスターといった戦える戦士がいないが、そういう存在がいるのを知識として持っている人間ならほぼ全てと言っては過言ではない。何故ならゲームという媒体が、人間の強さという欲求を満たしているからだ。


 少女はそのゲームという物が実際どういうものかを直接見るためにここまで来たのだった。


「家庭用ゲーム、ネットゲーム、様々あるが、世界が広く多岐に渡るプレイヤーと交渉できるというのならネットゲームをやっている人物の方が良いというわけか。この世界は出来ない事を違う空間で出来るようにするというのが好きなようだな」


 動きの止まった世界の人間から、必要な知識だけを聞きだしていく。ゲーム、という単語で検索を入れるだけで異常なまでに情報が得られる。


 この世界に決めて正解だったと少女は思った。


「よし、現地調査はこんなもんで良さそうだな。帰ろう。の前に」


 そしてゲームの事を調べるうちに、自分でもやってみたいという欲求に駆られるのも自然な事だった。


------------


「……君、何してるの」


「ネトゲ」


 数日後、魔王はもう一度神の所に来ていた。今回は前回のように遊びに来たのではなく、気になる事があったから来たのだった。


「ネトゲ? いやそれよりもさ、勇者どうなったの。最近全然こないんだけど」


「勇者……ゆう、しゃ……。あ、ごめん忘れてた」


「え」


 少女は画面から顔を上げずに悪びれもせず魔王の青年に答える。


 青年は少女の部屋まで来た時に違和感を感じずにはいられなかった。ここには度々訪れてはいるが、ここまで物が増えているのは見たことが無いというほど増えていた。


 まず大きい板から映像が流れ続けている。他の世界ではテレビとかそういう名前で呼ばれたのを青年は昔聞いた事があった。


 そして小さく明かりの点いている機械の箱と、それに繋がっている別のテレビだ。少女はずっとそれに向かってカチカチと音のでる何かをいじり続けていた。


「いや、ごめんじゃなくて、どうしたの」


「すまねぇゲームが面白すぎてやめられねぇ」


「どうしたの!? 僕を倒すって言ってた君はどこへ!?」


 机に詰め寄るが、少女は画面から全く目を離さない。


「お前を倒すと言ったな、あれは嘘だ」


「なんでだよ! 倒せよ! 勇者持って来いよ!」


「もうやめよう、こんな争いは何も生み出さない」


「生むよ! 魔物倒していかないと被害者が大量に生まれるよ!」


 話が通じているのかいないのかわからないが、とにかく少女が世界を救うという役割を全くやろうとしていないのだけは伝わってくる。


 勇者が生まれないという事は事実上魔王の存在も必要無くなってしまうわけで、青年としてもかなりの問題だった。


「って言われてもなぁ。今ゲームで忙しいし?」


「じゃあ僕が壊そう……ってうお!?」


 魔力を使い、少女が見ている画面や機械を破壊しようとした瞬間、青年は壁に張り付けられていた。


「このパソコンに触れようとしたら、殺す」


「なにこの今までで一番鋭い殺気!? そのやる気をもっと違う事で生かせよ!」


 張り付けから解放された青年は文句を言いながらも攻撃するのをやめる事にした。


 ヒステリックになった女性というものは、男性の手に負えないという事を本能的に知っている。


「そのゲームってなんなの。勇者連れてくるって言ってたじゃん」


「その勇者を探そうと思ってゲームしてるんだよ」


「さっき忘れてたって……なんでもないです」


 どうやら少女が言うにはそのネトゲとやらで、見込みのありそうな人材を探しているらしい。ゲームをやっていて、知識もあり常識もあるそんな人材を。


「さらにだ、一日のゲーム時間が多い奴が狙い目だ」


「それはどうして?」


「それはな、そいつがそれ以外することが無いからだ。そうするとそいつが居なくなったところで心配するやつなんていないだろう。現実で人付き合いがあるとは思えない」


「でもゲームの中の人が心配するんじゃない?」


「それもないな。このゲームやってるやつらは所詮この中だけの付き合いだ。居なくなったら居なくなったで現実が忙しくなったのかな程度にしか感じない」


「そういうもんか。その言い方だと、見つかったのかな」


 少女の確信を持ったかのような発言に青年は頷くしかできなかった。それに発言から、少女が勇者を見つけたらしい事もわかった。


「ああ見つけた。平均稼働時間が毎日十時間以上かつ長い時には二十時間を超える強者がな」


「うん、まあ、楽しみにしてるよ。頑張ってね」


 高笑いをする姿が、魔王よりも魔王らしい神を後にして青年は帰る事にした。正直少女の変貌っぷりが怖かったのもあり、嫌な予感すらあった。


「待て」


 そしてその嫌な予感は間違っていなかったと青年は思った。


「お前もこいつをやれ。これをやれば鍛錬なんて忘れられるぞ。プレミアムシリアルコード付きの奴をやるからレベル上げれば楽しいぞ」


 少女からゲームとパソコン一式、モニターと言うらしい画面をを渡されげんなりする。しかしここで断ればさっきみたいに癇癪を起しかねないのでしぶしぶ受け取りその場を後にする。


「くくく、これで魔王はゲームの世界に堕ちるだろう。そして俺が見つけたこのゲームの中の勇者を召還すれば……間違いなく勝てる、勝てるぞ! さてこいつが絶対来るような文章を考えてメールをするか」


 すっかり異世界地球に染まった少女は、慣れた手つきでゲーム内メールを送信したのだった。


------------


「さてゲーム内ネーム古今東西さん、君はこの神に選ばれたんだ喜べ」


 神と名乗る少女はえっへんと無い胸を張り文字通り釣れて来た男性を見下ろす。


「しかしまさか本当にこれで釣れるとは思わなかったぞ。人間とは警戒心が薄すぎるんじゃないか」


「いや、結構一緒にゲームしてたし、騙し方上手いと思いますよ……」


「褒められると照れるな! そっちの漫画やゲームやり込んだ甲斐があったってもんだ」


 少女の前にいる男性は、椅子に座らされ縛られていた。


「古今東西、お前をこれから異世界に送り込むが、異論はないね?」


「まあ、現実の方がどうなるかわかりませんけど、こういう時って一応死んだって事になってるんですよね」


「え? いやもう戻らないだろうと思って家族とか関わりの深い人から記憶とか、お前がそこに存在していた事実ごと消してきたよ?」


「え!? 異世界物ってそんな残酷な事したっけ!?」


 あまりにもあんまりな言い分に男性は驚愕する。


「いやー、世界に繋がりの多い人だと不具合が生じるんだよねぇ。ゲームで言うとバグってやつ? その点古今東西君なら何も問題が無くてよかったよかった」


「あー、うん、そうですね」


 男性は少女に何を言っても決まったことはもうどうしようもないと全てを諦める気持ちになっていた。


 暗に友達が少ないと馬鹿にされている気もしたが事実なので反論のしようもなかった。


 少女も男性が観念したと見て話を続ける。


「これから異世界に行ってもらうんだけど、ゴールは魔王を倒す事。倒した後はその世界で余生を堪能してね。勇者の権限を使えば何でもやりたい放題になるだろうから楽しいよ」


「ハイソウデスネ」


「ま、そんなわけでよろしく古今東西君。……名前古今東西でいく?」


「……。神の、使いって事で神野ジンでどうかな」


「良いね良いね、とってもゲームっぽい名前。こっちの世界でも違和感無いようにしておくからその辺は気にしないでね」


 男性はなんだかんだで少女に流されるままでも良いかなという気持ちになっていた。ゲームの世界に入って新しい人生をやり直すというのは、ゲーマーにとって一番の望みなのかもしれない。


「こういう時って何か特殊能力もらえたりすると思うんですが、何くれるんですか」


「おっと説明し忘れてたね。君に与える能力はずばり、エクスアッパー」


「エクスアッパー?」


「簡単に言うと経験値増加のチートだね。魔王が異常な程強いから、この能力は相当便利だと思う」


「なんか武器とか超能力とかじゃないんだ?」


 定番と言えば武器、もしくは特殊能力だが経験値アップというのはどうなんだろうか。


「いやーランダムなんだよね、能力付与って。その人の特性に合った奴じゃないと渡しても意味ないし。例えば最強の剣エクスカリバーを与えようって言って君それ使いこなせる? 剣握ったことすら無いでしょ」


「確かに……」


 短いナイフとか、バットとかならあるが剣と言われると実際に見た事すらない。そんな武器を貰っても使えなければ宝の持ち腐れだろう。


「転生してから職業に就けばそこそこ使えるようになるだろうけど、色々あるから」


 もしかしてこの少女はただ単にめんどくさがってるだけなのではないだろうかと男性は思ったが口には出さなかった。


「それじゃ、ゲームみたいに楽しんでらっしゃーい」


 少女のその声を最後に、男性、神野ジンの意識は途絶えた。


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