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プロローグ

「ねえ神様、君のつくる勇者弱すぎるよ」


 ただっぴろい空間で二つの人影が座り込み話している。


「そんな事言ってもさー、人には限界があるんだよ」


 二人の間にはマス目のある緑の盤があり、白と黒の丸い板が置かれていた。


「いやいや、だってこの前来たのなんて僕十分くらい好き放題させたのにダメージ受けなかったよ? 人間の限界とかそういうレベルじゃないでしょ」


 愚痴を言いながら黒い板を置き、白い板をひっくり返す。白い板の反対側は黒く、盤上は黒色が多くなる。


「それを言うならお前さ、その最強装備やめたら? 人間じゃ突き破れないってわかってるだろ」


 次は白い板が置かれ、黒が白に変わる。交互に置いていき盤上は半分程が埋まっていた。


「魔王としてはさ、手加減なんかしちゃいけないよ。どんなに強さに差があったって、人間には最高最大の火力でぶつかって打ち破るという達成感を味わって欲しいもの」


 半分程度の空きがあるが、そこから手が進まず二人はじっと盤上を見つめる。その間も会話は進んでいく。


「手加減しろって言ってるんじゃなくてさ、人間にもチャンスをあげろって言ってるの。最強装備の上に毎日鍛錬欠かさず行う魔王ってなんなんだよ。しかも魔王だから不眠不休で訓練しても大丈夫だし? 老いる事もないから強くなり続けるだけだし? 魔法が使えるから人間よりも効率良く鍛錬できるし? 装備の力でMP消費してもすぐ回復するし? どこに人間が付け入る隙があるんだよ!」


「そ、そう怒らないでよ。鍛錬はクセなんだよ」


「じゃあ人間が弱いとか文句言うな! こっちだって一生懸命人間に色々してるんだぞ!? 本来魔王の所に行けるのがどれだけ凄い事かわかってるのか!? それを何人も行けるようにしてるのに全部片付けてあげくの果てには勇者が弱いだぁ!? ふざけんじゃねえぞと」


「す、すいませんでした」


「謝って済む問題じゃねえだろうが! 俺が直接乗り込んでやるか!? ああ!?」


「いやそれは流石にこの世界が崩壊するレベルの戦いになるというかなんというか」


「そのくらいの火力が無きゃ戦えない魔王って何なんだよ! どうやって人間が立ち向かうんだよ!」


 一気に捲し立て息を荒げるが、二人とも盤上を見つめたままだった。


「わかったよ、鍛錬は続けるけど装備を弱体化させるアイテムを家来に託すよ。それを人間が使えば僕は」


「だーかーらっ! お前が鍛錬したら人間が追いつけないって話だろうが! 装備弱くなったところでレベルを上げて物理で殴るで人間はおしまいだよ!」


 盤の外側に白い板をクルクル打ち付けながら苛立ちを露わにする。


「じゃあどうしろっていうのさ」


「お前の美学なんてどうだっていいからたまには負けろ!」


「手加減はしたくないよ」


「だー! お前は頭がかてえな!! 鍛えすぎて脳みそまでカッチカチか!? その腹筋みたいによお!」


「怒らないでよ神様。今良い事思いついたんだけど言ってみて良いかな?」


 神と呼ばれた人影はついに盤上から顔をあげ、にらみつける。その顔は可愛らしく整ってはいるが、苛立ちからか目が異様に鋭くなっているので台無しだった。


「おう言ってみろよ魔王様くだらない事だったら張り倒すぞ」


 魔王と呼ばれた人影も顔をあげる。こちらも顔立ちは整っているが、青年のような逞しさを感じさせる顔つきだった。その青年は神様と呼ばれた少女を真っすぐに見つめる。


「こっちの世界の人間に成長限界があるなら、異世界から連れてきたらどうかな?」


「お前……それは……うーん」


 苛立ちから思案顔に変わり、腕組みをして考える姿勢になる。迷っていると思ったか、魔王はさらに続ける。


「こっちの世界では人間に力を与えるなって君のお父さんは言ってたけど、違う世界から連れてくれば適応外だよね。何事にも例外は付き物だよ」


「……父上なぁ、あれで厳しいのお前も知ってるだろ? ばれたらまずいんじゃないか?」


 父親の話がでたからか、違う世界から人を連れてくることに抵抗があるのか、さっきまでの威勢は無くなり及び腰になる。


 代わりに青年が少女に捲し立てるような形になる。


「大丈夫大丈夫、何かあったら僕も一緒に説得するからさ。なんとかなるって」


「俺も謝る事前提なのかそうかなのか。まあそうだな、つまらなく安全な日々よりも、冒険してちょっと激しい毎日のほうが実りがあるって父上も言ってたしな」


「そうそう、何事もチャレンジチャレンジ」


 少女は青年の言う事が大きな問題にならないだろうと踏んで了承することにする。


「じゃあ、僕は先に帰るね。新しい勇者を先に知っててもつまらないし」


「おいこのオセロ、決着つけていけよ」


 盤上が半分近く余っているのに立ち去ろうとしたため、少女は青年を引き留める。


「ん? 僕の勝ちだから手が止まってたんだよね? それでもまだやる?」


「ぐ……まだわからないだろうが」


「じゃあここに置くね」


「らめえええええ! そこはらめなのおおお!」


 盤上は白色が多かったが、マスの空きが減るにつれてどんどん黒に侵食されていく。白色は置く場所がなくずっと黒のターンで勝負はあっさり決まった。


「じゃ、今度こそまたね」


「……ぐぬぬぬ。絶対にお前を倒す勇者を連れてくるからな、覚えてろ!」


 神と呼ばれた少女は逃げるようにその場からいなくなった。その場には魔王の青年だけが残され、オセロの片づけをしながらつぶやく。


「あのくらい煽れば、今度は期待できるかな?」


 こうして神と魔王は、異世界から人を呼び寄せる事になったのだった。



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