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第4話 キースとシド

「おーい!アルーー!!」


 城下町ヴェスの中心街を通っていた黒衣の男は、呼ばれてすぐに声の方を振り返った。


「ああ、キースか」


 黒衣の男は、遠くから手を振ってやってくる呑気な男を流し見た。



「なに、その反応!面倒だ的なのやめてくんない?それともあれ?女の子じゃなくてショックだった?」

「そうじゃない!お前と同じに考えるな」

「えぇー?それこそ酷くな〜い?」


 黒衣の男、実はこの国の国王であるアルフレットは、面倒な客人に肩を落とした。


 アルフレットにそんなことをさせる呑気な男は、短く乱雑に切られた茶色の髪を持ち、人懐っこい笑顔で多くの女性を陥落させる美形の持ち主だ。呑気な男の名はこの街でしばしば「遊び人キース」と呼ばれている。

 真実かそうでないかは、本人しか知らないが…。


 城下町へ出たアルフレットが最初に会ったのは、この男だった。それからと言うもの、何だかんだと仲良……く、している。


「それで、シドはどうしたんだ?」

「あのねぇ〜、俺とシドだっていつも一緒にいるわけじゃないから!今日は俺一人です〜」


 アルフレットが今名前を出したシドという男は、遊び人キースの保護者的な立場にあるキースの従兄弟のことである。「遊び人キース」に対し、シドという男は「堅物シド」と呼ばれており、対なる2人が仲良くしているのが不思議でならないとこの辺一帯の人間は皆思っている。


 もちろん、アルフレットもその中の一人である。


 シドとはキースと共に初日に出会っていた。キースと出会った時にシドも一緒にいたからだ。

 彼らとの出会いは、城を抜け出してからあまりにもすぐの事だった。









 ボロ布を纏った男の老人と、老人を支えて逃げる村娘、そして、それを追う柄の悪い4・5人の男。

 アルフレットが城の裏口から出た瞬間にこれだ。一緒に護衛としてきていたバルトもさすがの展開に驚いているようだった。


「おいおい、こんな所まで逃げてきてんじゃねぇよ」

「お城へ行こうったって無駄だぜ」

「役人は俺たちの言いなりだからなぁ〜!」

「金さえ入ればあいつら俺らにだって配慮してくれるんだぜ!あっはっはっはっ!!」


 男達は逃げる老人と村娘を大きな声を出して嘲笑っている。城の目の前、かつ白昼堂々とこんなことをしているものなのかと驚きを隠せはしないが、しかし、これはどう考えても男達の方が悪く見える。


 アルフレットはバルトに一言行くぞ、と声をかけるとバルトも心得たと頷きで返し、アルフレットの後を付いてくる。


「おぃ……」

「おい、お前たち。寄ってたかって女、老人を苛めてんじゃねぇぞ!」


 アルフレットが声を上げた丁度その時、自分たちとは別の方角からドスの効いた響く声が聞こえてきた。


「誰だ、てめぇ」


 柄の悪い男達は、声のした方を睨みつけた。


 アルフレットも視線の先に目を向けると、そこには短髪の剣を肩で持った、それこそ、柄が悪そうに見える格好をしているのに、何故か善良な人間に見えてしまう男と、それと似た容姿をしているが、剣を腰に差していて、決して柄が悪そうではない男がいた。そんな2人組が老人と村娘を守るように立ちはだかっていた。


「娘さんたちさ、そこらへんに隠れてて。今すぐやっつけちゃうから!」


 老人と娘に向かって善良そうに見えてしまう男の方が人懐っこい笑みで言うと、娘は無言で頷き物陰に隠れる。


「てめぇ、聞いてんのか?誰だって言ってんだよ」


 無視をされた男達のキレ方は尋常じゃなく、既に剣を鞘から抜き放っていた。


「まったく、逃すくらいの時間くれてもよくない?」


 善良そうに見えてしまう男が連れにやれやれとわざとらしく肩をすくめて見せると、連れの方も頷いた。


「同感だな…おい、そこのお偉いさん的なやつ!」


 突然声をかけられたアルフレットは、お偉いさん的なやつとは誰だ?と一瞬呆けたものの、ああ、自分かと思ったら、なんだ?と声を出していた。


「さっき助けようとしてたろ?なら、みてねぇで手伝ってもらえるか?」


 連れの方はしっかりとこちらを見ていたようで、剣を抜き放ちながらこちらに指示を出してきた。


「わかった」

 アルフレットはすぐに頷くと、腰の剣を抜き放ち、バルトにこっそりと耳打ちをする。


「1人は生きて捕らえよ」

「御意」


 バルトの短い返事を聞くと、すでに戦闘に入っていた2人の男達の加勢に向かう。







「お、おぼえてろよぉ!!」


 戦闘が始まってから数分足らずで、柄の悪い男達は傷ついて動けない仲間を残し、悪役らしい言葉を口にして逃げ出した。後を追おうとしたバルトにアルフレットは言った。


「バルト、密かに奴の後を追え。裏まで暴き出す。報告はすぐ私に回せ」

「…はっ!」


 バルトは一瞬だけ護衛のことを考えたようだがすぐに大丈夫だろうと判断を変え、彼らの後を追うとこにした。


 バルトが行ったのを確認すると、傷のせいで何とか息をしているだけで座り込んでいるゴロツキ2人に剣先を向け睨みを利かせている味方2人を片目に、アルフレットは城の裏門から出てきた衛兵どもに


「将軍からの指示でこいつらを捕らえよとのことだ。牢に入れて最低限治療をしてやれ」


と命令をだすと、衛兵はわかったと頷きゴロツキを引っ立てて行った。







 一通り、何があったのかを衛兵にに説明し終えると、アルフレットは漸く味方であった2人と話すことが出来た。


「お前、マジでお偉いさんだったの?」


 善良そうに見えてしまう男に声をかけられたアルフレットは、少し曖昧そうに笑うしかできなかった。


「まぁお偉いさんかどうかはいっか。俺はキースってんだ!よろしくな〜!てかさ、お前めっちゃくちゃ剣強いじゃん!軍か何かに所属してんの?」

「…いや、軍には所属はしてないが……」


 キースと名乗った男は、軍所属じゃなら文官という考えに至ったのか。


「あんた、すげぇな。もしかして文武両道ってやつ?やっばぁ」

「確かに文官なのにそれだけの腕があるってのは勿体無いな。よほど先生が良かったのか?ああ、俺はシド。このキースの従兄弟だ」


キースと似た容姿をした男もシドと名を名乗り、こちらに握手を求めてきた。

アルフレットはその手を取りながら、さて自分はなんと名乗ろうかと思案した。


「私は、アル…だ。私の師は、さっき一緒に居たものだ。あの者は軍に所属している」

「ああ…確かにあの人は強そうだった。余裕そうな表情で軽々と相手してたからな」

「それ思った〜!最近の軍は腐ってるな〜って思ってたのに、やっぱまだ軍にもいい奴いたんだね〜」


 今度手合わせを願いたいとか、俺も剣を教えてもらいたいとか、彼らは次々に願望を述べ、一通り落ち着いたところで先程逃した老人の村娘がこちらへとやってきた。


「あの…」


 娘の声に気づいたアルフレットは後ろに振り返った。


「御三方、危ないところを助けていただいてありがとうございました…」

「全然構わないよ〜。けど、ど〜して追われてたわけ?税金でも払えなくて金貸しにでも行っちゃった?」


 キースに核心を突かれたのか村娘と老人は目を伏せた。


「税は、民にとってそんなに負担になる額だったか…?」


 ついそう呟いてしまったアルフレットは、キースのこれだからお坊ちゃんは…と飽きれた声をかけられることとなる。


「あのね、お坊ちゃんだから知らないかもしれないけど、今市場では物価が上昇中なんだぞ」


「そんな報告上がってないぞ⁉︎」


 アルフレットは知らなかった事実に目を丸くする。


「あんた、実はめっちゃ偉い人だったりする?…しかも正義感溢れてるとか、珍しいね〜ほんと」


 アルフレットの発言に対し、キースの態度に少しの変化が出てきた。語尾がキツくなった口調だけでなく、視線からも厳しさを感じる。


「知らないようだから教えてやるよ。物価が上がった理由は貴族共とつるんで専売特許を大きな商人たちが手に入れたからさ。専売特許制のせいで小さく商売を続けてたやつらが手も足も出なくなって、物価は大商人達の加減で決まってきちまうし、小さく商売続けてきたやつらは商品が売れなくなって税を払えなくなってきたんだよ」


 初めて知った事実だった。そもそも、アルフレットの場合、専売特許制とはなんだ?から始まるのだから。


「無知ですまない……、その、専売特許制とやらを教えてはもらえないか?」


 まずそっからですか…と本当に飽きれた表情のキースだが、どうやら結構顔だけでなく本当のお人好しらしく、行きつけの飲み屋にアルフレットを連れて行って、説明をしてくれるそうだった。


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