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第3話 悪夢と新たな道

 

「マリー様!」


 純粋無垢な幼い子供達の無邪気な声が聞こえ、その中心には「マリー様」と呼ばれた可憐な女性がいた。


 ただ、その彼女の笑顔はどこか寂しそうであった。


 己が子供達に囲まれている彼女の元へ行くと、途端、彼女の表情には憎しみがこもった。

 こちらに手を出して、胸ぐらを捕まえんくらいの勢いで彼女は叫んだ。


「お父様を返してっ!!」


「家族を返してっ!」


 声を張り上げ睨みつけるその眼が己には、ただ恐怖にしか映らなかった。

 幼子に戻ったように強く目を瞑って、頭を抱え座り込む。


 聞きたくない。

 見たくない。


「余は…わたしは……」


 真っ暗な闇で、責め立てる声が怖くて、堪らなくなる。

 逃げ出したい。








「陛下…、アルフレット陛下…」


 大きく体を揺らされて、アルフレットは漸く悪夢から目が覚めた。少し息を上げている自分に驚きつつ、アルフレットは揺り起こしてくれた女性を見た。


「リディア……」


 隣で寝ていたはずのリディアは、上半身を持ち上げこちらを心配そうに見つめていた。どうやら、もう既に外は朝の光が漏れ始めているようで、リディアのネービーブルーの髪色が黒と識別できるようになっていた。


「随分と魘されていたご様子ですが、大丈夫ですか?」


 そっと頬に伸ばされたリディアの手をアルフレットは己の手で捕まえて、自分から離していく。リディアがあの夢の女性と重なった故の無意識な行動だったが、リディアはショックを受けた表情になっていた。


「すまない、心配をかけたようだな。大丈夫だ、魘されてたとさえ知らなかったよ」


 やってしまった。とそう感じたアルフレットはリディアを抱き締めることでそれを埋めることにした。


「それならば、良いのですが…」


 リディアはそっとアルフレットの背に手を伸ばし、子供をあやすようにさする。


 そうされることで余計先程の夢を思い出す、と言いたくなりそうなのをぐっとこらえ、気持ちを落ち着かせる。そして、もう大丈夫だという旨を彼女に伝えて放してもらう。


 その行為もリディアには不安要素だったみたいで、綺麗な顔を歪めてこちらをみたが、アルフレットは気にすることなくリディアに礼を言い、軽く外を歩けそうな服を身に纏うと朝の散歩に出ると告げて彼女の部屋を出た。





 夢を覚えてないなんて、まったくの嘘で、今でも鮮明に覚えている。少しでも気分が楽になりたくて、アルフレットは外に出てみたものの、気分が浮上する様子はない。


 昨日のあの街で見た暖かな光景が自分によって崩されていく夢。カルダンと話してから、三年前のあの時、もしかしたら間違った判断で処分してしまっていたのではないか。もし、それを彼女から責められたら、自分はどのようにすればいいのか。ただただそれが怖くて仕方がない。


 けれど、それを知るべきであることも分かっている。


 子供達に優しく笑ったあの娘は、記憶にある娘よりも明るい笑顔で子供達と語っていた。アルフレットの知っている娘はお互い10歳と幼い故に無垢な笑みで笑いかけてくる少女か、どこか寂しそうな笑顔を浮かべた王妃たる女性だった。けれど、思い返せば笑いかけられなかったことは無かったと思う。


 城を出る彼女の姿をアルフレット見ていなかった。

 いつも笑っていた彼女は、どんな表情をしていたのだろうか。憎しみの表情を浮かべ、悔し涙で城を睨みつけていたのだろうか。

 それとも、いつも笑っていたように、笑顔で城を後にしたのだろうか。


 いや、後者はないであろうな。とアルフレットはそう思ったが、その一瞬後には、いや、笑顔で泣いていたかもしれないな。と思った。己はあまり彼女のことを知らないが、この考えだけは合っている気がしてならない。


 昨日、あの場所へ行ったのは今の彼女がどのような生活をしているか知りたかったからだ。その生活から、彼女がどのような人物なのかわかる気がして、もしかしたらやっぱり悪い女であそこでも嫌われて暮らしているかと思ったのに。

あんなにも子供から好かれていて、子供の親達は娘に子供を預ける程信頼を寄せているのだと、理解させられた。




 何から調べていけばいいのだろうか。

 何を正しいと信じ、何を間違いとすれば良いのか。

 自分が選択し、これで良かったと思えるには何を基準とすれば良いのか。




 誰かに問いたくとも、それは他人の意見だ。


 きっと3年前自分に足りなかったのは、そのことを理解する能力だったのだろう。

 今も頭の中では理解しているものの、ではそのためにどのように動けばいいのかさっぱり分からなかった。


「…宮殿の外へ、行ってみるか」


 ふと、アルフレットは思ったことを口に出してみた。そしたらすんなりと頭が状況を理解し始める。宮殿では分からないことも、外へ出れば分かることがあるかもしれない。


 この国の建国者である勇者ダードは言った。


『国は民がいてこそ国として成り立つ。自分は民の代弁者に過ぎず、この座に、力に溺れてはいけない』


果たして自分はそれを正しく理解していたというのか。いや、理解できていなかったのだろう。民の代弁者にも関わらず、自分は今まで貴族しか会ってこなかったのだから。

 己は十二分にこの地位と力に溺れていたのか。


「そうか、そうだったのか…!」


理解できたら何だかとてもすっきりした気分になってきた。


「よし!先ずは民の意見を聞こう」


 近衛将軍バルトが評した通り、アルフレットはこれと決めた後は即行動あるのみである。

 さて、先ずはバルトでも護衛に連れて城を抜け出すとするか。


 何だか解決への糸口が見えてきたようで、アルフレットの表情に自然と笑顔が溢れる。

 これから知る真実がどんな結果となろうとも、知ることに恐れを為すのではなく、知らないことを恐れよう。


 そうすれば、誰かに…あのよく笑う彼女に責められようとも、素直に受け止め、素直に罰も受けられるというものだ。







 この日を境に、国王陛下が城中を探しても見つからないという臣下にとって恐ろしい日々が訪れることとなった。

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