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第1話 財務大臣カルダン

 あれから3年。


 サリヴァート王、アルフレットはリディア新王妃との間にも娘も生まれ、穏やかな暮らしをしてきたつもりだ。齢2才の娘にはサーラと言う名前を付け、政務でどんなに忙しくても、毎日接するようにしてきた。



 幸せだった。



 政務の方も古狸が大幅にいなくなったおかげで革新的なことをできるようになった。民の生活はよくなる。そう信じられるようなことができてきたことがうれしかった。だが、この幸せが終わるのも自分が起こしてきた改革で判明したのだった。


 古狸の大臣どもがいなくなり、大臣の後釜探しに忙しかったこの3年間。予想外だったのが、毎回財務大臣を任される者がお金に目が眩むのか、なぜか賄賂を頻繁に行っていることが判明し、この3年で5人も入れ替えがあった。

 信頼できそうなものを置いているはずなのだが、それでもこの結果。今回も前任の者が賄賂をしたことが判明し、また新しい財務大臣が就任することになった。


 とにかく今回の者は優秀で且つ、賄賂なんて程遠そうな、生真面目すぎて上に上り詰めることができなかった男を後任としてみた。仕事は早く、ただ、生真面目すぎるので上司にはむかうことが多く、仕事場で嫌厭されそうな人材だったためにたとえ仕事が優秀であっても今までアルフレットがその存在を知ることはなかった。


 そんな彼に出会ったのは、後宮費用の節約を訴える直訴が彼から出されていたからである。アルフレットの政策の一つに下級官吏、要は現場で仕事をしている人たちの意見を聞くために、月に一度アンケートのようなものを発行し、必ず提出させるようにしていた。


 今まで集めてきた意見はアルフレットの政策に大きく活かされてきた。アルフレットはできる限りその書面を自分で回収し直々に目を通すようにしていたので、誰にも邪魔をされることがなく後宮費用の節約を訴える男の意見が王であるアルフレットの下へと届くことが許されたのだった。


 アルフレットはすぐにその男に遣いをやり、明日執務室を尋ねるよう命じ、なぜこのようなことを言いだしたのか具体的に聞くことにした。


 翌日、男はアルフレットの前に参上した。すぐさま今の執務を取りやめ、男を執務室へと迎え入れた。男は白にほど近い銀色の長髪をキチッと上で結い上げ、何の不正も逃しはしないときりっと吊り上げられた灰色の瞳に眼鏡をかけていた。アルフレットの前に来ると男は深々と跪いた。


 男は財務省務めのカルダンと言った。


 話の内容的に、あまり他の人には聞かれたくないアルフレットは、護衛の近衛将軍だけを執務室に残し、彼と向き合っていた。アルフレットが説明を求めると、彼はすぐさま持参した書類をアルフレットの前に広げ、リディアが王妃として在位してからの費用の増大について説明を述べた。


 確かに、リディアが王妃となってからの費用は増すばかりであり、前年と比例すると倍近く膨れ上がり、このまま行けばどこかの予算を削り、後宮費用に当てなければ難しくなってくる程である、とアルフレットも理解はできた。


 だがしかし、その報告は納得がいったものの次の言葉にはアルフレットも言葉を詰まらせざるを得なかった。カルダンは周りに誰かがいたら卒倒したであろうくらいあっさりと前王妃、ローズマリーのやっていた後宮管理についての話題に触れたのだ。



『王妃臨時収入』



 カルダンの口から、そんな言葉が出てきた。どこかで聞いたことがある言葉だが。どうやら、その王妃臨時収入とは何かしらの方法で王妃が独自に入手していたお金らしい。そして、そのお金のほとんどで自分の衣装費用や自分が主催したお茶会を催していたようだ。


 つまり、後宮でかけていたお金は、食費と…食費と……食費だけのようだった。


 アルフレットがローズマリーと政務以外で接していたのは18年程前になるだろうか。自分が10歳の頃までだった記憶がある。それゆえ、ローズマリーがどのような生活を送っていたかさえ知らない。まさか、食費以外、すべて自分で賄っているなんて、知る由もなかったのだ。


彼女の父であるバルベリーニは知っていたのだろうか。


 そういえば、彼を処罰したのは横領が発覚したからだ。後宮に流れているとロズベルクはアルフレットに報告をしていた。

 そうか。この、『王妃臨時収入』は彼らの横領の証拠として提出されていたものか。

 横領された金額と王妃臨時収入の金額が同じだったために判明した事件だったはずだ。

 しかし、こんなにもあからさまにこんなことを書いているのかと思うと、賢人と謳われたバルベリーニも愚か者だったと言えるだろう。


「カルダン、その『王妃臨時収入』はバルベリーニが前王妃ローズマリーのために横領した金であると宰相が言っていたが?なぜ、今その話を出してきたのだ?結局、前王妃も国の金から出していたのだ。そう考えれば、後宮の費用も現状維持とし、早急に大幅な節約をする必要もないと思うが…?」


 アルフレットは思ったことをそのまま口にした。その通りだと思う。節約はする必要があるとは思うが、別に切羽詰ってやる必要もない案件だと。


「いいえ、陛下……。大変申し上げにくくあるのですが、私は、その報告自体がおかしいと思っているのです。『王妃臨時収入』は王妃様が即位されてからずっと存在していました。それどころか、先日ヴォレル家の帳簿を拝見させていただいたところ、ローズマリー様が王妃様となられる前のヴォレル家の帳簿に『ローズマリー収入』と言う科目があったのです。これは何かと奥様にお尋ねしました。ですが、答えては下さいませんでした。一度訴えたことをもう一度言うつもりもないと、そう仰って…」


「一度訴えたこと?」


 ヴォレル家が何を訴えていたのか…、アルフレットは思い出そうとするも、全く思い出せなかった。


 そもそも、あの事件は自分ではなくロズベルグに任せ、上がってきた報告を聞き、そして、ヴォレル家当主、バルベリーニの言い分にはおかしな部分が多いと周りが言うため、深く聞きもせず切り捨てた。

 そう。切り捨ててしまったのだ。


「…余は、何を聞き逃してしまったのだろうか…」


 アルフレットは眉を寄せ表情を歪めた。

 違う。聞き逃したのではなく聞かなかったのだ。一方だけの意見を取り上げ、片方の意見を聞き入れなかった。


 それは、公平な立場に立たなければいけない王として間違った選択では無かったか。

 あの事件から3年。今更アルフレットはそのことに気がついた。


「余は、間違った判断をしていたのか…?」


 目の前に控えるカルダンにアルフレットは答えを求めようとした。しかし、カルダンはそれに応えようとはせず、ただ頭を深く下げてアルフレットに言った。


「……陛下、口を閉ざしてしまったヴォレル家に再度聞こうにも、それは不可能に近いでしょう。もし、真実をお知りになりたければ、陛下ご自身が、今回私の意見を取り立ててくださったようにお調べになれば宜しいのです。虚偽の情報に流されず、数ある証拠の中から、たった一つの答えを…」


 アルフレットは、カルダンの言葉に何も返すことができなかった。再調査をするということは、当時この件を担当したロズベルグを疑うことであり、また、起こしてきた改革を否定するとこにも繋がりかねない。


 それでも、アルフレットは王である。


 公平な考えを持ち、公平な目で臣下を見ていかなければいけないのだ。


「カルダン。そなたの意見、しかと受け止めた。後宮の費用に関し確かに対処が必要となろう。どのように対処していくのが最善か、そなたなりの意見を並べ、余に提案せよ。また、お主だけの意見ではなく、財務省に勤める官吏を無作為に十人選出し、その者たちの意見ももってこい」


 後宮の費用をどのように対処するのか、王妃に当然節約を求めることも確かであるが、それ以外にできることを探すよう伝え、カルダンもそれに同意した。

 そして最後にアルフレットはこう言った。


「余は、余の築き上げてきた改革を信じている。故に、その結果出てきた問題点を隠すつもりはない。しかし、事が大きく取り沙汰されれば国に再び大きな嵐が訪れ、次こそ収集がつかなくなるであろう。ことは密かに調べ、全てが明るみ出るべきときに、その情報を表へと出そう。手伝ってくれまいか?カルダン」


 3年前のあの事件をアルフレットは今一度調べることを決意したのだ。

 生真面目な男にとって、アルフレットのように公正であろうという正義感に溢れる上司は好ましい。カルダンは今上陛下に少しの期待を持つことにした。


「陛下の御心のままに…」



 これが、アルフレット王の右腕とも歌われるようになる財務大臣カルダンとの出会いだった。

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