自己催眠
その日、私は何をしていたか、全く記憶が無い。
間違いなく言えるのは、私は人を殺した。
ただ、それだけだ。
記憶をたどってみる。
その日は、午前7時半、いつも通りに起きた。
顔を洗い、歯を磨き、朝ごはんを食べ、それから家を出る。
変わらない日常だ。
だが、そこから先の記憶はない。
次の瞬間には、私は右手にナイフを持ち、目の前には血まみれで息をしていない人が倒れてる。
どう見ても、死んでいるとしか思えない。
さきほどから見ているものの、ピクリとも動く気配がないからだ。
声をかけることもためらってしまう。
「で、彼は誰だ」
警察に居る私が、目の前の刑事から事情を聞かれるが、私は全く思い出すことができない。
なにも分からない。
徐々に、私という人間が壊れてしまうかのような印象もある。
それほど、何も分からないのだ。
私は、ひたすら首を横に振ることしかできなかった。
なぜ、こうなったのか分からない。
心神耗弱ということで、私は精神病院へと強制入院という扱いになった。
今も、分からないままだ。
彼は何者か、あの日何があったのか。
そして私が何者なのか。